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依頼を終えて冒険者ギルドに戻ってきた二人の視界に飛び込んだのは、朝以上の人混みであった。
「な、なんか凄いね…」
「え、ええ。早く報告しましょ?」
二人は買取りカウンターへ行き、依頼の素材と道中討伐した魔物の魔石などを納品して割札を受け取った。
そして番号が呼ばれた為、二人して受付へと向かう。
「こちらが依頼の報酬と、納品物の買取り料になります」
「ありがとうございます。お聞きしたいのですが、これは何の騒ぎなんですか?」
レビンは依頼に出る前から疑問に思っていた事をぶつけた。
「レビンさん達はご存知なかったでしたか。この冒険者達は、秋の大討伐会の為に他領から集まってきた人達です」
「大…討伐会?」
「はい。ここミラードが他国に面している事はご存知ですよね?東側が他国に面しています。そして南西側に大分先ですが、ずっといくとブルナイット王国王都があり、やや北西にレビンさん達の出身地であるガウェイン領があります」
そこで一息つくと、受付は話を続ける。
「そして北側ですが、湿地帯を挟んで他国があります。その湿地帯なのですが、魔物の巣窟なのです」
「えっ…じゃあ危険なんじゃ?」
「いえ。普段であれば、その湿地帯で物事は完結しているので、外に魔物は出て来ません。
しかし冬が近づく秋には、魔物の冬支度としてその湿地帯から群れを成してこちら側にやってきます。
その討伐の為に銅ランク以上の冒険者達が他領からも集まってきています。
もう少しすると領都ミラードは落ち着きますが、北側の町にあるギルドや出張所は冒険者の数がここよりも増えてきますね」
所謂冒険者の出稼ぎのようだ。
冬になりカニ漁が解禁した時に集まる漁船のように、ミラード北側に冒険者が集まってくるようだ。
「そうだったのですね。ちなみに出てくる魔物は?」
人は多いが受付は空いている為、聞けることは聞いておこうと、レビンは受付を質問攻めにした。
宿に帰った二人は今後について話し合う事に。
「魔物は銅ランク一人でも対応できるモノから銀ランクの四人組パーティで対応しないとならないモノまでいるみたいだね」
宿に戻った後、旅の汚れを落とし食事を摂って部屋へと戻ってきた二人は、ベッドの上で膝を揃えて話し合う。
「それにまだまだ増えてくるみたいね…」
「うん…まだ季節は夏だからね…」
現在は夏のピークを少し越えたあたりだ。
二人の懸念は人が増えてくる事により、自分達の異質さに疑問を持つ人が出てくる事だ。
ヴァンパイアとは思われないだろうが、銀ランクにしてはレベルの低過ぎるレビンや、冒険者歴や年齢にしてはレベルの高過ぎるミルキィの事だ。
特にミルキィはレベルの高さに比べて弱い・・ところも何かしらを疑われるだろうし、レビンは説明をしたところでレベルが低いのに強い事を疑惑に思われるだろう。
痛い腹を抱えているが為に、痛くない腹を探られる事が二人にとっては危険である。
「僕たちが参加するのは……不可能だね。タグを見られただけなら僕の実力は相応かもしれないけど、ミルキィの動きは怪しまれるかも。
レベルを知られたらもっと厄介だし…」
「そうね。レビンは人助けになるなら参加したいだろうけど……ごめんね」
「違うよ!僕が一番に守りたいのはミルキィだから!だからそのことでもう謝ったりしないで!」
レビンはミルキィの言葉に怒りを露わにするも、ミルキィには『一番守りたい』の部分しか聞こえていなかった。
顔を赤くして俯いたミルキィは『もう言わないわ…』と呟くことしか出来なかった。
そんな仮想イチャイチャを繰り広げた二人は、翌朝次に向けて動き出した。
「えっ!?ミラードを出ていかれるのですか!?」
翌朝、混む時間を避けて冒険者ギルドに来た二人は、受付で職員の女性にミラードを出て行く旨を伝えた。
「これから大討伐会の時期ですが…良いのですか?」
これは稼げる事と、昇級のチャンスだが良いのか?と言っているのだ。
「…はい。冒険者の数も足りているようですし、若い僕達が銀ランクとして参加しても余計なトラブルの原因になると思いますので、今回は見送ります」
「そうでしたか…冒険者ギルドとしては優秀なお二人に活躍して欲しいのですが、仰ることも理解できます。
もし、そういったことでトラブルに巻き込まれましたら、いつでもギルドを頼ってくださいね」
受付の者は、二人の事は塩漬依頼を消化してくれるギルドとしてはありがたい冒険者としてしか知らない。だが、15歳という年齢で銀ランクなのだから優秀なのは間違いないと考え、そう付け加えた。
「ありがとうございます!そうさせて貰いますね」
昨日聞いた情報通りであれば、冒険者の数もいつも以上に集まっているとの事だったので、二人は憂なくミラードを後にできる。
ギルド職員にお礼の言葉を述べて、二人は街中へと向かった。
「次は何処の領地に行くの?」
目的地まではまだ掛かるので、ミルキィは隣を歩くレビンに先程浮かんだ疑問を問いかけた。
「それも踏まえて、これから聞きに行こうと思っているんだ」
「そう。実は、まだ見ぬ景色が少し楽しみなの」
ミルキィから思ってもいなかった事が聞けて、レビンのテンションは急上昇した。
「ホント!?僕も楽しみなんだ!街も似てるようで違うところもあるし、村とかもナキ村と違うところが沢山あるしね!」
「ふふっ。楽しみのためにしっかり準備しましょうね」
二人は仲良く目的地へと向かった。
「そうですか…寂しくなりますが仕方ありません。ここは友人を盛大に送り出すところですね!」
二人の目的地はミラード城であった。
辺境伯にダド村に来た難民の件でお世話になったお礼を伝える為と、出来ればダド村の村長と村長代理宛に手紙を託したいとお願いしに来ていた。
もちろん色々あって貴族や領主の事を学んだレビン達はそうそうに会えるものでもないと理解していた為、息子のシーベルトから頼んでもらえないかお願いした。
「盛大はいいかな…ミルキィが恥ずかしがり屋だからね」
真実は隠したが、これも本音ではある。
「そうですか。手紙は必ず村に届けさせます。レビンもミルキィも私にとっての英雄ですから」
あの時、倒れた馬車の中でシーベルトは『これから魔物に食べられてしまう』と絶望していた。そこを颯爽と現れた二人に助けられたのだ。何度感謝してもしきれない想いを二人に伝える。
「やめてよ!もう友達なんだから!でもその気持ちは嬉しいよ。これからシーベルトは沢山の領民さん達を助けてあげられる領主様になってね」
レビンから激励を、
「私はレビンの後を追いかけただけよ。でもありがとう。これからも困っている人がいたら助けられるように頑張るわ」
ミルキィからはお互いのこれからの努力を誓い合った。
「それで相談なんだけど…次に向かうところが未定なんだよね……どこか良いところはないかな?」
レビンは歯切れ悪くシーベルトに聞く。
それはそうだ。これから銅ランク銀ランクにとっては絶好の機会が訪れるミラードを出るのに、目的も目的地もないのだ。
普通に聞かれたら理由を問い質したくなるものである。
しかし、レビンの気まずそうな表情を汲み取り、シーベルトが理由を聞くことはなかった。
(誰しも人に言いたくない事くらいある。それにレビン達が悪い意味で言わないとは思えない)
この世界の倫理観では悪い意味(ヴァンパイアを匿う)なのだが、レビンの中では一つも悪い事だとは思っていなかった。
そんな友人を信じているから、シーベルトも友人の秘密に迫る事はしなかった。
「二人は銀ランクです。なので金ランクを目指してはどうですか?王都に行けばギルドの貢献度の高い依頼もあると聞きますし、それであれば王都をお勧めしたいです」
「金ランクかぁ…」
(今より目立つよね…?)
レビンはこれ以上の昇級に、あまり利点はないと考えていた。
「僕たちは銀ランクの中では弱者だから、適度に魔物と戦えてレベルアップ出来そうなところがいいかな。ギルドに対しての貢献度よりも…」
貢献や人助けにはまだまだ地力不足を感じてもいた。
ダド村の事に関しても、もっと力があればと思っているのだ。
その為に最近は大人しいレベルアップをもっと行って、自分達を自分達で守れるようになってから昇級したいと二人は考えている。
(この前絡まれたのが銅ランクだったから良かったけど、これが銀ランクや金ランクに絡まれたら…)
(今はレベルの事で突っ掛かれてしまうけど、もっともっと高レベルになればそういう声も吹き飛ばせるかしら)
自衛のために、そして秘密を守る為に、『レベルが必要だ(わ)』と想いが一つになった。
「それなら簡単です」
「えっ!?簡単なの?!」
「はい!デザート王領に行ってみてください」
その後の話を聞いて、レビンは即決した。
ミルキィの意見を聞く事を忘れるくらいの反射速度で。
レベル
レビン:7(45)
ミルキィ:38