人の殆んどいないホームの後ろの方まで歩いて行った。
僕は、タイミングを見計らっていた。
亜季ちゃんに自分の気持ちを伝えるその時を…。
亜季ちゃんは以前“僕たちは付き合っている訳ではない”そう言っていた。
確かに亜季ちゃんに、ずっと告白のタイミングをかわされては来た。
それでも何とかして気持ちを伝えるべきだった。
「亜季ちゃん…」
「はい…」
こういう時…亜季ちゃんは、いつもソワソワしはじめる。
「亜季ちゃん…僕はっ…」
「瑛太さん、喉乾きません? 私、コーヒー買ってきますね」
「ちょっと待って!」
自販機に行こうとする亜季ちゃんの腕を掴んだ。
「どうしたんですか?」
亜季ちゃんは俯いて、僕と目を合わせようとしなかった。
「僕は、飲み物はいらない」
「じゃあ、私の分だけ買ってきます」
亜季ちゃんは再びこの場を離れようとしたが、僕に腕を掴まれていた為、動こうにも動けなかった。
「瑛太さん、どうしたんですか? 今日変ですよ…」
「そんな事ない。いつもと一緒だよ」
「違いますよ…」
亜季ちゃんは、何も言わず僕の手を離そうとしていた。
でも、僕は離さなかった。
「離して下さい!」
「嫌だ!」
「瑛太さん…腕が痛いです。離して…」
亜季ちゃんは、涙目で僕を睨んだ。
「だったら僕の話を聞いてよ」
「今日はダメです。今度にして…」
「今日じゃなきゃ駄目なんだ。聞いてよ」
「嫌です。聞きたくありません」
「僕は…亜季ちゃんがすっ…」
「やめて!」
パシッ!?
無理矢理告白しようとした僕の頬を亜季ちゃんはビンタをした。
「亜季ちゃん…」
「ごめんなさい…本当にごめんなさい」
亜季ちゃんが謝っていると、下りの電車がホームに入って来た。
「そんなに僕と付き合うのいやっ…」
「違います。そうじゃないんです…。私、帰ります」
そう言うと、亜季ちゃんは電車に乗り込むと、車両の中程まで歩いて行ってしまった。
電車が発車するまでの数十秒という間、亜季ちゃんは俯き、1度も僕を見る事はなかった。
もうこれ以上、僕にはどうする事も出来ない。
亜季ちゃんとは一緒にいられない…そう思った。
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