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不機嫌そうにしながらも彼は絶対に放そうとしない。何故か頻りにロジェ達を睨んでいる様に見えた。

ティアナはレンブラントの膝の上に乗せられ背後から確りと抱き締められていた。久々に感じる彼の温もりと匂いに包まれ、目の奥が熱くなり胸が詰まる。だが客観的に見て冷静になると、恥ずかしくて震えた。


レンブラントと再会したティアナは、城の応接間へと連れて行かれた。ハインリヒにユリウス、その部下、ミハエルにレンブラントの友人とティアナの連れの二人。ティアナとレンブラント、ユリウスが座る向かい側にはハインリヒとミハエルが腰を下ろしている。そしてその隣にはもう一人……。


「ティアとの出会いはオービニエの城下町でした」


肩まで伸びる落ち着いた金色の髪を揺らし、身振り手振りで説明をしている彼の名はロジェだ。更にその彼の背後で壁に寄り掛かる体格の良い黒髪の青年の名はナタンと言う。二人ともティアナの同伴者だ。


半年程前、ティアナはオービニエという国にある小さな村で目を覚ました。そこでティアナは倒れていた所を親切な村人に助けられ、半年掛けて自国であるジラルディエールへと帰って来たのだ。その間に出会ったロジェとナタンの二人にも随分と助けて貰った。二人が居なかったら今こうして彼と再会する事は叶わなかったかも知れない。本当に感謝している。



「約束を守って下さり、ありがとうございます」

「嘘吐きにはなりたくないからね」


ハインリヒに礼を言うと彼はニッコリと笑った。それを横で見ていたミハエルがしらけ顔をする。気持ちは凄く分かる。既にその言葉そのものが嘘だからだ。だが、触りだけ聞かされたがティアナが願い護りたかったものは護れた。


「それよりも、君が無事で何よりだよ」


ハインリヒが徐に立ち上がりこちらに手を差し出してくるが、レンブラントがティアナを更に抱え込み睨んだ。まるで獣が威嚇でもしている様に見えて笑えてしまう。


「そんな怖い顔しないでよ、レンブラント。安心してくれていいよ、君から愛しい彼女を取り上げるなんて野暮な事はしないからさ。僕達の契約は、あの日既に終えている」


半年前の夜会に参加する直前、ティアナとハインリヒは婚約を解消していた。始めから決められていた事だった。


「ただ聖女としてこの国に貢献して貰えると嬉しいんだけどね?」


聞かずとも花薬の事を言っていると分かり、ティアナは苦笑した。本当にこの方は随分と粘着質の様だ。


「そう言えば彼女はどうなったんだい? 君が無事という事は彼女も無論生きているのだろう」

「私が目覚めた時には既に彼女はいませんでした」


目を覚ましたティアナはフローラの姿を探したが何処にも無かった。彼女もまた生きている、ティアナには分かる。だがそれ以上探す事はしなかった。何故ならもうその必要がないからだ。


「恐らく彼女も生きています。ですが問題はありません」

「それはどういう意味かな」

「フローラはもう力を失っています。何故なら彼女の力は私の中にあるからです」


目覚めた瞬間から自分の中に、確かに彼女の力が宿っているのヒシヒシと感じている。


『私達の力は願いや祈りそのものなんです。それをフローラ様へと直接干渉で打つける事ができれば、彼女を消滅させる事が出来る可能性があります。ただ私達同類同士の干渉は非常に危険なんです。力が反発し合い、正直どうなるか私にも分かりません。非常に申し上げ難いのですが……彼女が消滅すれば干渉したティアナ様も力に引っ張られ……。後は力を奪うにしても異なる力を吸収すると考えますと、更に不安定で失敗する可能性の方が高いと言えます。どちらにせよ覚悟が必要である事に違いありません』


ミレイユの助言を受け、より可能性の高い方をティアナは選んだ。だが結果的に消滅する事なく力だけを吸収した様だ。ただ何故あの場所に飛ばされていたのかは分からない……。


一通り話が終わった時、改めてユリウスやミハエル達から声を掛けられて帰って来たのだと実感をする。ユリウスから泣きそうな顔で頭を撫でられ少し戸惑ったり、ミハエルから「心配掛けるな」と怒られたが嬉しかった。

レンブラントはというと相変わらずティアナを解放する素振りはなく、確りと抱き締めたままだった。彼から伝わってくる体温や匂いに包まれて、ダメだと思いつつも次第に瞼が重くなっていく。レンブラントがロジェと何かを話しているが、眠くて良く聞き取れない。

ティアナはそのまま完全に目を閉じると眠りに落ちていった。


◆◆◆


「眠ってしまったみたいだね」


ハインリヒはくすりと笑い、意味あり気にレンブラントへと視線を向けて来るが、レンブラントは気に留める事なく素早く自らの上着を脱ぐとティアナに掛けた。


「レンブラントさん、貴方がネックレスの送り主ですよね」


後ろにいるナタンという男は兎も角、このロジェという男はやはり気に入らない。先程からティアナの事を愛称で呼ぶなどしてやたらと馴れ馴れしい。レンブラントは顔を顰める。


「青い綺麗な宝石が付いているネックレス、かなり高値で売れましたよ」


嫌味たっぷりにそう言うとニッコリと白々しい笑みを浮かべる。その様子はまるでレンブラントの反応を窺っている様だ。


「だろうね」


何でもない様にさらりと返すと、彼は意外そうに眉を上げる。思っていた反応と違ったのだろう。

始めは一瞬何を言い出したかと思ったが、彼女の首元にあのネックレスがないのは見れば分かる。考えられる要因は幾つか浮かぶが、どうやら売ったらしい。


「ねぇ、ネックレスって何?」

「僕が出会った時、ティアは高価そうなネックレスを首から下げていたんですよ。話を聞けば、贈り物だと言う。普通に考えてあんな高価そうな宝石の装飾品を贈るなど余程の相手に違いないと思いますよね?」


興味津々なベアトリスにロジェは身振り手振りを交え大袈裟に説明をする。


「それをティアは売ると言い、仕方なく僕がその手の店を紹介したんです」

「え、それってレンブラントがその子にあげたネックレスを売っ払っちゃったって事⁉︎ 酷っ!」

「ベアトリス、失礼ですよ」


マインラートが注意するがベアトリスは気にせずに続ける。


「だってレンブラントが可哀想〜」


上目遣いでチラチラと視線を送ってくるが、レンブラントは知らないフリをする。


「因みにそれってどれくらいで売れたの?」


売価が気になるのかハインリヒは興味津々でロジェに訊ねた。


「大金貨十枚でしたよ」

「へぇ、随分と安く売ったんだね。僕の見立てでは大金貨五十は下らないと思っていたんだけど。レンブラント、実際の所どうなんだい?」

「さあ、どうだか忘れました」


確かにハインリヒの見立て通り大金五十枚程だった。だがこんな場所で態々披露する必要性を感じない。それにまた余計な事を言われると面倒臭いと思い適当に流した。


「大金貨五十って、どれだけだよ」


呆気に取られた様子のカミルがボヤいた。周りも苦笑する。


「それで僕聞いたんですよ。本当に売ってしまって良いのかと。そうしたら彼女、何の躊躇いもなく僕にこう言って笑ったんです」


『勿論です。だってこれを私に贈って下った方ならきっとこう言いますから。これを売って路銀に替えて帰っておいで、と』


目を見開き口がダラシなく半開きになるのを感じ、唇をキツく閉じた。視線をゆっくりと腕の中で眠るティアナに向ける。安心し切った様な顔で小さな寝息を立てていた。


「慣れない旅路の中、泣き言一つ言わずに頑張ってましたよ。途中災難に襲われても「私は絶対にあの人の所へ帰る」そう言って決して立ち止まらなかった」


ロジェはこの半年のティアナの様子を愉し気に語って聞かせてくれた。まるでお前の知らない彼女を自分は知っているんだと自慢されている気分になり腹立たしく思った。だがその内容から如何に自分がティアナから愛されていたのかが伝わってきて胸が熱くなる。


「ふ〜ん」


穏やかな空気の中、ベアトリスだけは何故か不満気に頬を膨らませた。


「でもでも、そんな大切な人からの贈り物だったペンダント売っ払っちゃったんでしょう? 私ならどんな理由があっても絶対手放さないけどな〜」


また話を蒸し返す。どうしてもティアナが気に入らない様だ。


「彼女は僕の事を誰より理解し信頼してくれている。あんな石ころが少しでもティアナの役に立ったんだ。十分過ぎるくらいだよ」


そう言って笑みを浮かべてみせると、ベアトリスは黙り込んだ。

レンブラントは腕の中のティアナを徐に抱き締めた。失ったと思った。そんな彼女が自分の元へと帰って来てくれた。その事実だけで胸が熱くなり震える。どうしようもなく嬉しくて思わず涙が一筋頬を伝うのを感じた。すると何時の間にか目を開けていたティアナに優しく指で涙を拭われた。


「ティアナ……お帰りっ」

「ただいま帰りました、レンブラント様」


そして彼女はフワリと笑う。


ーーあぁ、僕の好きな笑顔だ。もう二度と君を放したりしない。


もう一度レンブラントが抱き締めるとティアナも応えるように抱き締め返してくれた。




◆◆◆





ティアナが帰って来て暫くしたある日の昼下がり、ティアナとレンブラントはとある場所へと来ていた。


「ティアナ?」

「え……すみません、何でもないです」


ティアナは立ち止まると振り返った。今すれ違った外套マントの人物が一瞬、彼に見えたが気の所為だろう。ティアナとフローラが消えた後、彼もまた姿を消したと聞いている。今更こんな場所にいる筈がない。




レンブラントの祖父のダーヴィットが亡くなったと聞かされた時、悲しかった。また会えたら今度はロミルダとの思い出話でも聞かせて貰いたいと考えていたのに……。

ティアナは手にした花束をダーヴィットの墓石に供えた。


「ふふ」


ロミルダの墓石に花を供える終えると、思わず笑ってしまった。実はつい先日まで傍には自分の名が刻まれていた墓石があったのだ。その事が酷く奇妙に思えて可笑しくなる。今は撤去されており跡には既に無数の花が咲き乱れていた。

ロミルダが亡くなった時、こんな風に笑える日が来るなんて思いもしなかった。人生は何が起こるか分からない。本当に面白くて不思議だと思う。


「お祖母様、今日は報告したい事があります」

「ティアナ」


ティアナがロミルダに語り掛けると不意にレンブラントに後から包み込む様にして抱き竦められる。甘える様に頬に頬を擦り寄せてくる彼に恥ずかしく思いながらも身を預けた。すると唇に触れるだけの口付けをされた。


「この度、ティアナ・アルナルディはレンブラント・ロートレック様と結婚致します」


まるで返事をするかの様に近くに咲いていた花が一輪揺れた。





























◆◆◆



「彼女やはり生きてたな」

「あの娘も生きてるんやろ? 良いんか、こんな場所にいて探しに行かんで」

「フローラは俺の聖女じゃなかった。だからもう要らない。俺はまた俺だけの聖女を探す」

「良い加減にしたらどうや。彼女・・はこの世界の何処を探したってもう……何処にもおらんよ」

「アンタには分からない。俺は探し続ける。この永遠ともいえる命が尽きるまで」

「アルノー……」


次に彼がこの国を訪れるのはティアナが子を成した時となるが、それはもう少し先の話だ。



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