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甘野芣婭 (17歳)
いつぞやのギル君の幼馴染の女の子が、これまた箒に乗ってやってきたんだけど、それ以上に芣婭は驚いた事がある。
それじゃ、メイクが酷過ぎる事!!!
ビビットピインクのアイシャドウをふんだんに塗り、マスカラでゴテゴテの睫毛、口紅もチークも何もかもがピンク。
芣婭もいつものメイクにピンクを使ってるけど、それはパステルカラーのピンクで、こんな派手のピンク色を使った事がない。
前に見た時はこんな顔じゃなかったのに、今日はもしかして自分でメイクしたのかな?
「お、おい、カミラお嬢様…、ど、どうしたんですか?ご、護衛もつけないで…」
ニックはカミラちゃんの顔に釘付けになっていて、護衛の心配よりもメイクをどうしたって言いたげな表情をしていた。
レヴァさんも眼鏡を掛け直すふりをしてカミラちゃんから顔を逸らし、ケロちゃんとベロちゃんとハウラスは相変わらず興味がなさそう。
「お父様に家から出るなって言われて、貴方に会いに1人で来たのよ。何?人の顔をジロジロ見て」
「え⁉い、いやぁ、別に?み、見てないですけどぉ」
「芣婭様、ヴィオレット様がお越しになられ…、え?カミラ様?」
カミラちゃんの言葉を聞いてニックが顔を逸らしていると、紅茶セットを持って来たシーちゃんが女の子の顔を見て目を丸くさせる。
そりゃあ、このメイクを見たら誰だって驚くよねぇ…。
これは、誰も突っ込んだらいけない問題になってきましたよ。
「ヴィ、ヴィオレット様⁉貴方が何でここに…」
「ていうかお前の顔、やべーな」
「なっ⁉」
「「ひええええっ!!!言っちゃったよ、この人!!!」
ベロちゃんの爆弾発言でカミラちゃんの顔が真っ赤になり、芣婭とニックは寄り添いながら一歩後ろに下がると、ガゼルっちがニックの肩を掴んで芣婭から引き剥がした。
「ちょっ、いきなり何すんだよっ。思いっきり肩掴みやがって、痛いじゃんかよ」
「アンタ、芣婭と近付いた時に鼻の下が伸びてた。邪な感情が出てたろ」
「な、何言ってんだよぉ、そんな事思う訳ないじゃないですか。芣婭ちゃんからあまーい香りがして、良いなぁって思ってませんよぉ。やだなぁ、奥さんたらっ」
「いや、俺はそこまで言ってねーぞ。お前、変態かよ」
「誰が変態だ!!!」
ガゼルっちとニックが言い合いを始める中、ケロちゃんが気怠げに腰を上げて、背後から芣婭の事を抱き締めながら口を開く。
「貴方、芣婭の真似をしたかったんですね、似合ってませんけど」
「え?芣婭の?」
「ち、ちが…っ、お兄様はこういうのが好みなのかなって思っただけで…」
ケロちゃんに核心を突かれたカミラちゃんは、長い髪で顔を隠しながら視線を下に向ける。
この子は本当に、ギル君の事が好きなんだ。
ギル君に可愛いって思ってほしくて、少しでも可愛くなりたくて、芣婭の真似をしてメイクを自分でやってみたんだよね。
芣婭にとってはライバルだけど、可愛くなりたい女の子は応援してあげたい!!!
ガシッとカミラちゃんの手を握り、グイッと顔を近付けるとカミラちゃんは泣きそうな顔をして芣婭の事を見つめる。
「なっ、何よっ、笑いたかったら笑えば良いじゃないのっ」
「カミラちゃんの事、芣婭が可愛くしてあげる」
「は、は?」
「ちょっと待ってて、すぐ戻って来るから!!!」
カミラちゃんの手から自分の手を離し、芣婭は急いで自分の部屋にあるメイク道具を取りに走り出すと、シーちゃんとガゼルっちの2人が芣婭の名前を呼びながら追いかけてきた。
メイクをポーチを急いで取りに戻り、庭園に戻る途中でガゼルっちが質問してくる。
「芣婭、1つ聞いて良いか?」
「なぁに?ガゼルっち」
「あの女がギルベルト様の屋敷に来た事が、黒騎士団内で噂になっていてな。芣婭に酷い事を言った事も聞いた、あの女に優しくする理由はないだろ?」
「んー、意地悪言われたって思ってないんだよね」
芣婭の言葉を聞いたガゼルっちは、すっごく驚いた顔をしていて思わず笑っちゃいそうになってしまう。
「嘘だろ⁉結構な事を言われたって聞いたぜ?だから、すぐに芣婭の所に行かねーとって思たんだよ。変な女からも守ってやんねーといけないって」
「へぇ、ガゼルっちってそんなに優しかったんだっ。しかも、芣婭の事を思ってって所が良いね」
ガゼルっちの顔を覗き込みながら言うと、ボンッと音を出しながら顔を真っ赤にさせ、耳と尻尾もピーンッと立ち上がる。
「なっ⁉いきなり、そんな事を言いながら顔を覗き込むなってっ」
「ごめんごめん、そんなに怒らないで?あのね、カミラちゃんは本当にギル君の事が好きなの。好きな人の為に可愛くなりたいって、女の子なら誰でも思う事でしょ?可愛くしてあげたいんだよねぇ」
「芣婭ってさ、かーなりお人よしだろ?」
そう言いながら、ガゼルっちは口角を上げて意地悪な笑みを浮かべ、芣婭はすぐにガゼルっちに反撃を開始した。
「あ、意地悪な事言ったっ!!!意地悪言う人とは、お話しませんよーだ」
「おいおい、拗ねる事はないだろっ」
「芣婭、意地悪言う人は好きじゃないもん」
「なっ⁉そ、そ、な、は、へ?」
言葉にならない単語が何個かガゼルっちの口から零れ、飼い主に叱られた犬のように耳をぺしゃんこにさせ、尻尾も元気がなさそうに揺れる。
目の前にいる獣人の男の人は、芣婭よりも背も体も大きくて、絶対に力では適わないのに、 芣婭の言葉1つでここまで弱くなってしまう。
なんか、芣婭がすごーく酷い事を言ったような気持ちになるんですけど。
ガゼルっちは芣婭の前で膝をつき、恐る恐る手を伸ばして芣婭に手を優しく握りながら口を開く。
「俺が悪かった、調子に乗った、意地悪な事はもう二度と言わない。だから、話さないとか言わないでくれないか」
捨てられた子犬ような瞳で上目遣いで芣婭の事を見つめる姿は、もはや確信犯じゃないかって思ってしまう。
本当に芣婭と話せなくなると思ったようで、男の人がすぐに膝をついて謝って、そんな姿を見て可愛いーっ!!!って思ってしまった。
大型犬みたいで可愛いんだもん!!!
これは芣婭じゃなくても、全国の女の子はみんな可愛いって思うでしょ⁉
そう、これはなんだっけ、なんとか現象って言うじゃないですか、まさにそれですよ!!!
シーちゃんもそう思うよねって、思いながらシーちゃんに視線を向けたが、シーちゃんはまさかの無表情だったのです!!!
可愛いって思ってなさそうなんだが、そう何も思ってなさそうなシーちゃんがいたのです、ミステリーです。
芣婭は無意識にガゼルッちの頭に手を伸ばして、犬を撫でるみたいに頭をわしゃわしゃに撫でまわす。
わしゃわしゃわしゃ!!!
「はっ、へ⁉な、何だっ⁉」
「ガゼルっちが可愛いから許す、芣婭も意地悪な事言ってごめんね?」
芣婭の言葉を聞いたガゼルっちの表情はすぐに明るくなり、ぺしゃんこになった耳も勢いよく立ち上がり、元気のなかった尻尾も元気よく揺れ出した。
「芣婭様は、どれだけ男のファンを作っていくのですか?私、心配になってきました」
「え?ファン?」
「私がずっと側に仕えて、芣婭様の事をお守りしますから安心して下さい」
「ん?シーちゃんがそう言うなら、安心だね!よーし、カミラちゃん達の所に戻ろっ」
シーちゃんの頼もしい言葉も聞けたので、芣婭達が庭園に戻るとジオン君とゼパ君の2人が仲良く話している姿が視界に入る。
ジオン君が笑顔で話している姿をハウラスは微笑ましいそうに見つめ、ニックがカミラちゃんを苦笑いしながら紅茶をティーカップに注いでいた。
女の子が苦手なレヴァさんは芣婭と目が合うと、安堵した表情を浮かべ、ケロちゃんとベロちゃんはこっちに来いと手招きをしてくる。
「ごめーん、お待たせ!カミラちゃん、さっそくだけどメイクを落とそ」
「ここでって、ここは庭園でバスルームじゃないのよ?何を言ってるのよ」
「ふっ、メイク落としシートがあるから簡単に落とせますよ」
不信がるカミラちゃんにメイク落としシートを見せ、前髪を痕が付かないピン止めで止めると、カミラちゃんは暴れ出す。
「ちょっっ、勝手に何するのよ⁉」
「何って、メイクを落とすんだよ?落とさないと、芣婭がいつもしてるメイクを教えられないよ」
「だから、私はっ!貴方の真似なんか…」
「大丈夫、芣婭が可愛くしてあげる」
微笑みながらカミラちゃんに言うと、芣婭の言葉を聞いたカミラちゃんは大人しくなった。
メイク落としいシートを1枚取り出して、自分のメイクを拭き取るみたいに、カミラちゃんのメイクを手早く落とす。
その光景を見ていたニックとレヴァさん、シーちゃんとガゼルっちの4人は芣婭の後ろで「おおお…っ」と声を揃えて驚く。
「スッゲー、化粧が一瞬で落ちるなんてなぁ。それは芣婭ちゃんの世界の魔法道具か?」
「あははっ、違うよ。魔法なんかじゃなくて、普通にどこにでも売ってるヤツだよ。よーし次は、肌を保湿する為に持ち歩きようの化粧水をコットンに沁み込ませて…」
ニックの問いかけに答えなが、次々とカミラちゃんの肌に化粧水と保湿クリームを塗り、いつも使っている下地を召喚。
カミラちゃんは肌がきれいだからコンシラーは少なめに、ベースの下地を顔全体に馴染ませて、眉毛をペンシルで形を整え、顔に光沢を出す為に、鼻の頭と両頬、顎と額にパールグロウハイライトを乗せる。
「ねぇ、なんで私を可愛くしてくれるの」
「え?可愛くしたいから」
「なんで?」
「好きな人には可愛く見られたいじゃん?そんなの当たり前の事だし」
「お兄様は可愛いなんてっ、思ってくれないわ」
そう言うと、カミラちゃんの瞳から大粒の涙が零れ落ち、芣婭はなんて答えたら良いのか分からなかった。
カミラちゃんが好きな人は芣婭の彼氏で、芣婭もギル君の事が大好きだから別れてあげられない。
「勝負をしに来たって言ったけど、何をしても貴方に勝てないわっ。だって、お兄様は貴方にだけ優しくて、貴方と出会ったからお兄様は変わったもの」
「芣婭はカミラちゃんの事、羨ましいって思ってるよ」
「私のどこが羨ましいのよっ、お兄様と交際している
貴方の方が羨ましいのにっ」
ガシッ!!!
感情が高ぶったカミラちゃんが、芣婭のワンピースの胸元部分を乱暴に掴むと、ケロちゃんとベロちゃんとニック達がカミラちゃんの事を引き剥がそうとする。
芣婭はみんなに視線を送り、カミラちゃんの事を引き剥がさないように指示をした。
カミラちゃんのギル君への恋心と芣婭への嫉妬心は、芣婭がちゃんと聞かないといけない、ギル君の彼女として。
「小さい頃に階段を降りる時に手を差し伸べでもらっ時からっ、ずっと好きだったの、本当に好きなのっ。お兄様が行方不明になって、発見された時には呪いにかかっていて、私は何も出来なかったっ。それなのに、急に現れた貴方は…」
「え?ちょっと待って、ギル君が行方不明になった?それはいつ?いつの時?」
ドキドキと心臓の鼓動が早くなっていくのが分かる、脳裏に浮かぶのはあの時の思い出。
「お兄様が10歳の時だけど…、え?お兄様から行方不明の話は聞いてなかったの?貴方に話していると思っていたけどって、どうしたの?固まって…」
小さい頃にお母さんに叩かれて、雨の日に家を飛び出して公園に行って、アヒルのお腹部分の所に入って雨宿りしてた時に出会った王子様は10歳くらいの男の子だった。
泣いている芣婭の事を慰めてくれた銀色の瞳をした王子様、あの日に出会った王子様はギル君で、芣婭とギル君は小さい頃に会っていて、芣婭の初恋の男の子はギル君だったんだ。
ケロちゃんとベロちゃんの2人がすぐに芣婭の側に来て、ベロちゃんが優しく頬に触れると指先が濡れている。
「芣婭、なんで泣いてるんだ?この女に嫌な事を言われたのか?おい、この女を引き剥がせ」
「わ、分かったっ。カミラお嬢、ちょっと離れようか」
ベロちゃんの指示を受けたニックは、芣婭からカミラちゃんを引き剥がし、ガゼルっちとシーちゃんも芣婭の前で膝をついて心配そうな顔をしていた。
「え、私は何も言ってないわよ⁉お兄様が行方不明になった時の事を、少し話をしただけで…」
胸が締め付けられて苦しい、失恋した時みたいな心に痛みと、王子様の正体がギル君だって分かって嬉しい気持ちと、信じられない気持ちがぐちゃぐちゃで。
どうして泣いているのか分からない、この涙の止め方
も分からない。
「カミラちゃんはなんにも悪くないのっ、芣婭が小さい頃に会った王子様がギル君だって分かっただけっ…」
「「「え⁉」」」
芣婭の言葉を聞いたニックとレヴァさん、シーちゃんの3人の驚きの声が重なり、カミラちゃんは苦笑しながら口を開く。
「お兄様が昔、言っていた女の子は貴方の事だったのね」
「言っていた女の子?どういう事ですか?カミラ様」
「行方不明になって見つかってから、しばらく経った時よ」
シーちゃんに質問されたカミラちゃんは、自身の長い髪を指で絡ませながらギル君との思い出話を語り出す。
***
カミラ・スカーレット (17歳)
スカーレット家はルナ帝国の下部街の治安を管理している侯爵家で、私には身分が上の幼馴染の男性がいる。
カーディアック家の大公子であるギルベルト・カーディアック当時出会った時は10歳で、私達は父同士の食事会で初めて出会った。
中部街の西側を統治しているカーディアック家は、大公と言う皇帝の次に権力を持つ爵位を持つ家で、西側だけとも言うが南側も北側もカーディアックが統治し、中部街の住む市民の安全を守る為に黒騎士団
と言う騎士団も作っている。
侯爵と言う爵位の家柄の父と私は、大公様に招待されて中部街に訪れ、豪華な屋敷の客間で私とお兄様は出会ったのだ。
絵本に出てきそうな王子様が私の目の前にいる、その事実が信じられない程に、お兄様は綺麗でとても儚げな人。
「うちの娘のカミラです、ギルベルト様より4歳下ですね。カミラ、こちらはギルベルト様だ。ご挨拶をなさい」
父に背中を軽く押され、私はドレスの裾を掴んで広げさせながら右脚を後ろに下げ、頭を軽く下げながら
「カミラ・スカーレットと申します」と自己紹介をする。
お兄様は私に視線を向ける事はなく、どこか遠くを見て何も言わない。
「ギルベルト」
「はぁ…、ギルベルト・カーディアックです」
「ギルベルト様、今後ともうちのカミラと仲良くしてやってください」
「はぁ」
父の言葉を受け流したお兄様は私なんか1ミリも興味がなくて、父とおじ様は仲睦まじく会話に花を咲かせ、子供をほったからしに食事を楽しんでいた。
テーブルの対面席に座るお兄様は目の前に食事に一切口にも入れず、代わりにお腹に溜まらないフルーツばかりを口に運ぶ。
【なんで、食事に手をつけないんだろう】と不思議に思いながら見つめていると、私の視線に気がついたおじ様が私の事を見ながら話し出す。
「こちらに来る前に腹を空かせてしまってね、食事を先に済ませてしまったんです。フルーツを食べるスペースしかなくなって」
「そ、そうでなんですね。ジロジロ見てしまってごめんなさい」
「別に気にしてない、だから謝らなくて良い」
お兄様は私の目を見なら初めて話してくれた、それだけの事なのに私は舞い上がってしまった。
父達がワインを飲みながら仕事の会話に花を咲かせている間、私はお兄様の事を盗み見しながら提供されていく料理を口に運ぶ。
【好きな料理は何ですか?】、【普段は何をするのが好きなんですか?】、【本を読むのは好きですか?】、聞いて知りたい事は沢山ある。
でも、私が聞きたい事は【許嫁はいるんですか?】と言う事、こんな事を初対面の人相手に簡単に聞ける事ではない。
カーディアック家に訪れてから数時間後、私の家の馬車が到着したと知らされ、ほろ酔い状態の父の肩をおじ様が抱きながら慎重に階段を下りて行く。
ドレスの裾を上げて階段を降りようとした時、2段、3段を降りていたお兄様が振り返って、無表情のまま私に手を差し出す。
お兄様が私に手を差し出した理由はすぐに分かった、手を引いて私が転ばないように階段を降りる為だって。
この光景を父に連れてかれたパーティの会場で、大人の男の人が綺麗なドレスを着た女の人の手を引いて階段をゆっくり降りる所を。
【いつか、私も素敵な王子様にエスコートされたい】って密かに思っていた事を、お兄様は自然な流れで手を差し出してくれた。
「あっ、ありがとうございます…、ギルベルト様」
緊張で手が震える、足が宙に浮いている感覚がする、私の心臓の音がお兄様にも聞こえてしまうんじゃないかって、勝手にドキドキして。
私がお兄様に簡単に恋に落ちてしまい、父にお兄様と仲良くなりたいとお願いし、カーディアック家に気軽に遊びに行けるようにしてもらった。
会う回数を増やしていくと、お兄様の段々と私と話す事に慣れてきて、お兄様が他人の料理を食べられない事を知り、手土産を新鮮なフルーツに変えたりして。
カーディアック家の客間で、紅茶を飲みながら他愛のない話をしているだけなのに、こんなにも貴方を恋しく思ってしまう。
私がカーディアック家に行くようになって半年後、お兄様が行方不明になった。
荷物をまとめて出て行った形跡がない事から考えられたのは、【大公子を誘拐して、金銭を要求する事】と【カーディアック家に恨みを持っている人間の誘拐】のどちらかだと。
理由がどっちかであれ、お兄様の身が危ないと言う事、おじ様は黒騎士団の騎士を総動員し、私の父もお兄様捜索隊に加わって行方を血眼になって探し続けた。
「お兄様…、どうか無事でいて下さい。月の女神ルナ様、どうかお兄様を月の国に連れて行かないで下さい」
捜索隊に加われない私は、上部街にある月の女神であるルナの像が祭られている神殿に赴き、お兄様の無事を祈る事しか出来ない。
女神に祈ってもお兄様は帰って来ない、女神は何の為に存在しているのか分からなくなってしまう。
そう思いながら、神殿内で月の女神に祈りを捧げている人達に視線を向け、この中に私と同じ考えの人がどれだけいるのかと疑問に思った。
神殿で祈りを捧げてから数日後、お兄様は上部街の森の中で倒れている所を黒騎士団の団員が見つけ、騎士達はお兄様の体を見て驚いたそうだ。
何故なら、右腕全体に黒い薔薇の棘のような痣が浮かび上がり、お兄様は吐血をしたまま意識を失っている状態だったから。
保護された数日間は高熱で苦しみ、痣の部分からは激痛が走り、右手の感覚がなくなっていく姿を、私は開かれた扉から見る事しか出来なかった。
ベットの上でうなされながら、お兄様は廊下にいる私の手元にある薄いピンク色の薔薇に視線を物欲しそうに見つめる。
「カミラ、その薔薇を俺にくれ」
「ギルベルト様の所に行って、花束を渡して来なさい」
「はい、お父様」
父に肩を抱かれながらベットで眠っているお兄様の所に向かい、薄いピンク色の薔薇の花束を渡すと、お兄様は微笑みながら花束を受け取った。
何か愛おしいものを目で愛でるような視線を、私は向けられた事がない。
「ギルベルト、そんなにこの薔薇がほしかったのか?」
おじ様は驚きながらお兄様に頷くと、お兄様は軽く頷きながら「この薔薇のような女の子と出会った」と呟く。
「女の子?森にはそんな女の子はいなかったのですが…、森に住んでいる少女でしょうか」
「違う、ここの国はいない女の子だ。アヒルの台の腹の下にいた」
「どういう事でしょうか?オルタニア様」
「さぁな…」
父とおじ様はお兄様の言っている言葉の意味が分からなかった、私も意味が分からなかった。
でも、これだけは分かる。
お兄様はその女の事と特別な出会いをして、薄いピンクの薔薇のような女の子に心を奪われてしまったとう言う事。
そして、お兄様の体が古代闇魔術の呪いに侵されていると知り、私は呪いを解く方法を10年以上も探していたのに。
お兄様への思いは高まって行くばかりなのに、お兄様に恋人が出来たと知らされ、私は居ても立っても居られなくなり、父に何も言わずに家を飛び出した。
この時に重いと止まっていれば、現実を見なくて良かったのにと思う事を、この時の私は知らないままだった。
コメント
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わあ…今回は胸がぎゅっとなるところが多かったです。カミラちゃんの一途な想いも、芣婭が自分から「可愛くしてあげる」って言った優しさも、すごく響きました。そして何より、小さい頃に出会った王子様がギル君だったっていう展開に驚きと感動が止まらない…!運命って本当にあるんだなって思わせてくれるお話でした。ガゼルっちの嫉妬&謝罪シーンも思わずほっこりしちゃいました〜
#獣人
シュメール
260
羽海汐遠
16,427
ふわもちお餅
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