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カラオケが終わり、拓馬はいつものように明菜と自転車で並んで帰っている。拓馬は卑怯な事を考えていた自分が、逆に感謝された罪悪感からカラオケを心から楽しめなかった。帰宅途中の今も、相槌を打つだけで明菜の話を上の空で聞いている。
「ちょっと公園に寄って行かない?」
分かれ道を過ぎた辺りで明菜が提案する。
「ああ、良いよ」
拓馬は明菜の気持ちを考える事無く、了解した。
入口に自転車を置き、二人は公園に入って行った。辺りはもう暗くなり掛けていて、外灯の灯りが園内を照らしている。
ベンチに座っても拓馬は元気なく、明菜と目を合わせない。
「拓馬君」
「えっ……」
明菜に呼びかけられて、拓馬は我に返る。
「もしかして、あの不良達の事で心配してるの?」
明菜が心配そうに訊ねる。
「いや、奴らは放っておいて大丈夫だよ。何の心配もない」
「そうか……今日はありがとう。拓馬君が来てくれて心強かったよ」
明菜がそう言っても、拓馬は笑顔を作れず言葉も出ない。
「どうしたの? カラオケの間からずっと様子が変だよ」
拓馬は明菜に自分のした事を打ち明けるか考えた。
――誰かに言うとしたら、明菜以外は考えられない。このまま自己嫌悪で落ち込んでいるくらいなら聞いて貰うか。
「実はさ、俺、和也が靴をなめようとした時に、少し前に到着していたんだ」
「えっ?」
明菜は予想外の告白に驚いた顔をする。
「相手を見ていつでも止めに入れると思ったから、ワザと様子を見ていたんだ」
「えっ、なぜ? どうして?」
「和也がへまやらかして、無様な姿になって彩に嫌われたら良いって考えてしまったんだ……」
明菜は驚いて言葉が出ない。
「引くだろ? 軽蔑するよな。自分でもそう思うよ」
拓馬は自嘲気味に笑う。
「……和也は立派だった。卑怯な俺とは雲泥の差だよ……」
明菜が返事をしないので、しばらく二人の間に沈黙が流れた。
「どうして私に話したの?」
明菜がぼそりと呟く。
「あっ……いや、誰かに話すなら明菜しかいないって……」
「どうして? 私に話せるなら、あの場で彩や和也君にも言えば良かったじゃない」
悲しそうな顔をして自分を責める明菜に、拓馬は戸惑う。軽蔑される覚悟はあったが、責められ方が予想とは違った。
「そうだよな……こんな話されても軽蔑するだけで、迷惑だよな……」
「違うの! 私は拓馬君の事情を知っているから軽蔑はしない。そんな手を使ってまでも彩を振り向かせたいって気持ちも理解できる。でも、二人の前で告白出来なかったのは、軽蔑されたくなかったからでしょ? じゃあ、どうして、私には言ったの?」
明菜は興奮して怒りだす。
「お、おい、落ち着けよ明菜。何を怒っているんだ?」
「わからないならもういい!」
明菜は怒りながら立ち上がり、出口に向かって歩き出す。
「おい、明菜。帰るんなら送って行くよ」
「いい! 今日は一人で帰るから付いて来ないで!」
明菜は振り返りもせず、自転車に乗り帰って行った。拓馬はその後姿を呆然として見送るしかなかった。
明菜は溢れる涙を振り払うように全力で自転車を漕いで家まで帰った。
――私は馬鹿だ……拓馬君の気持ちは分かっているのに……。
八月に入り、相変わらず拓馬達はMバーガーで集まっていたが、カラオケの日以来、明菜は姿を見せなくなった。もう明菜の不参加が五日になる。キャプテンなので、部活には出ているのだが、彩達には忙しいと言って終わるとすぐ帰っているのだ。
「拓馬は何か聞いていないの?」
「ああ、俺も忙しいとしか聞いていない」
和也に聞かれて、拓馬はそう答えた。カラオケの日に喧嘩した事を、拓馬は二人に言えないでいた。
「これ、枚丘(まいおか)パークのチケット貰ったんだけど、行けないかな? 明菜に聞いてくれないか?」
和也は入手した遊園地のチケットを二枚、拓馬に渡す。
「明菜も行かないと楽しくないよ。拓馬君、上手く誘ってね」
彩が心配そうな顔で拓馬に頼む。
「ああ、今日家に行ってみるよ。行く日は盆休みの前半で良いんだな」
「ああ、それで頼むよ」
拓馬は明菜の家に行く為に、早めに切り上げて帰った。
仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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