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仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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拓馬は明菜が住んでいる分譲マンションに着いてから、メールを送った。ただ(今、下に来ている。話があるから会って欲しい)とだけ書いて。細かく内容を書かない方が来てくれると思ったのだ。
まだ、午後六時前で、マンションの公園では夏休みの小学生達が遊具で遊んでいる。拓馬は近くのベンチに座って、ぼうっと考え事をしながら子供達を見ていた。
「話って何よ?」
拓馬は明菜の声で我に返った。声の方に視線を向けると、私服姿の明菜が少し怒ったような顔で立っている。
明菜は自分の姿を見たのに拓馬が何も言わないので、仕方なくいつものように横に座った。
「話って何よ?」
明菜はもう一度聞く。
拓馬は財布から遊園地のチケットを一枚取り出し、明菜に渡す。
「これ、枚丘パークのチケット?」
「和也が四枚貰ったそうなんだ。盆休みの初めくらいなら部活も休みになるから行けるだろ?」
明菜はチケットを手に持ったまま考えていて、返事をしない。
「頼みたい事があるから一緒に行って欲しいんだ」
拓馬は子供達を目で追いながら、ぼそりと呟く。
「頼みたい事って?」
「この日に彩に告白して、駄目ならそこで諦めようと思ってる。だから二人っきりになれるように協力して欲しい」
「ええっ! 諦めるの?」
明菜は目を見開いて驚く。
「いや、駄目だったらだよ。もちろん、上手く行くように努力はする。だから協力して欲しいんだ」
明菜はチケットを手に考え込んだ。
「……わかった。私に出来る事なら協力する」
「ありがとう」
ようやく拓馬は笑顔を浮かべた。
「でも……どうして今のタイミングで告白するの?」
口には出さなかったが、明菜は今拓馬が告白しても彩が受け入れるとは思えなかったし、拓馬自身もそれはわかっていると感じていた。
「和也の事を好きになってしまったからかな……」
「えっ、好きに……」
「いや、好きにって、友達としてだよ」
拓馬は冗談めかして笑う。
「もうすぐ、花火大会だろ。彩の事は関係なく、和也を助けたいんだ。だから、彩に対してけじめを付ける為に告白する」
「……うん、わかった」
返事を聞いて、明菜はこれ以上何も言わずに拓馬の気持ちを尊重しようと思った。
「じゃあ、帰るよ」
「うん……」
ベンチから立ち上がる拓馬を、明菜は寂しそうな目で見上げる。
「あっ」
拓馬は立ち去ろうとしたが、言い忘れていた事を思い出して振り返った。
「また、Mバーガーに来てくれよ。明菜が居ないと寂しいから」
「うん、わかったよ」
明菜は笑顔で応えた。
次の日から明菜はまた部活後の集まりに復帰した。遊園地は八月の十四日に決まり、花火大会はその二日後、十六日だった。
拓馬と明菜は花火大会には行かないように他の遊びを提案したが、彩と和也は地元のビッグイベントである花火大会に行きたがり、話が纏まらない。終いには、カップルで別行動しようと言われた。
「どうする? いっその事、未来の話を二人に聞かせる?」
拓馬と明菜は帰りにいつもの公園で相談している。
「うん、そうだな……でも、言うタイミングは俺に任せて貰えないか?」
「まあ、話をするのは拓馬君だから、私は任せるしかないわ」
「ありがとう。花火大会に行くのは絶対阻止しような」
こうして、和也の花火大会参加を阻止する決め手を欠いたまま、遊園地に行く日になった。
当日、四人は盛田市駅で待ち合わせをして、現地に行く予定になっていた。
枚丘パークは家族向けの遊園地で小さな子供から、高校生以上の若者グループも楽しめるように、バランスよくアトラクションが揃っている。何より、今回のチケットには入場券にプラスして乗り物フリー券も付いているので、お金に乏しい拓馬達には有り難かった。
午前九時の待ち合わせに、拓馬は明菜と自転車で駅まで向かう。通学路が同じ方向なのもあって、拓馬がタイムスリップして以降、二人はかなりの頻度で一緒に登下校している。対外的に、二人は恋人同士なので何も問題なく、仲の良い高校生カップルにしか見えないのだが、当人達だけがそれを意識していない。
「なんかもう、何年も付き合っている恋人同士みたいに見えるね」
「えっ?」
拓馬と明菜が駅に着くと、彩と和也はすでに到着して待っていた。会って挨拶するなり、彩が二人をみて嬉しそうに言った。
「俺もそう思う。歩いてくる姿が本当に自然なんだよな」
和也も彩に同調する。
「もう、会うなりからかわないでよ」
明菜が顔を赤くして文句を言うが、気を悪くしていないのは明らかだった。
拓馬は彩と和也の言葉の意味を考えていた。
――俺達が一緒に居て自然に見えるのは、男女を意識していないからだろう。明菜は俺に取って唯一の女友達だった。なんの気兼ねも無く、自然に話せるただ一人の女性。友人としての相性が良いのだろう。高校生の明菜も最初から話し易かったし。そんな関係を、彩と和也は勘違いしているのだ。ただ、他の誰に勘違いされても良いが、彩にそう思われるのは辛い。
「さあ、早く行って遊ぼうぜ」
拓馬はこの話題を強引に終わらせた。