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森本慎太郎  小児科医


「入るよー」

一声かけて中に入ると、いつものごとく昴(すばる)くんはスケッチブックに向かっている。

「あ、せんせー見て! 絵、描けたの」

わくわくした面持ちで、スケッチブックをこちらに見せる。

「どれどれ?」

綺麗な桜の花だ。季節はもうすぐ梅の花がほころぶ頃。だから桜はもう少し先だ。

「すごいね、昴くん。上手だよ」

まんざらでもない笑みがかわいい。

「あのね、今日、ここにお友だちを連れてきたいんだけど、いいかな?」

「すーくんの?」

「うん。初めましてだけどね、仲良くできる?」

「うんっ!」

その元気な返事を聞き、一旦部屋を出る。

高地から話を聞いた患者さん、佐伯さんは、元保育士さんだから安心できる。

佐伯さんの病室に入り、「来れますか? 体調、大丈夫ですか」

「ええ、今日はばっちりです」

佐伯さんを連れ立ち、来た道を戻る。

「昴くんっていうんですけど、お絵描きが大好きな子で。できたら一緒に描いてあげてください」

「わかりました。わたしが働いていた保育園でも、お絵描き好きな子とか絵本を読むのが好きな子とか、外遊びが好きな子とか色んな子がいました。子どもって、個性の塊みたいでほんと面白いですよね」

「そうですよね。入院してる子でも、ずっとプレイルームで遊んでる子とか病室でひとり遊びしてる子、色々です。俺、医師になるときは子どもとの距離が近い小児科かなって思って決めたぐらいですから」

コンコン、とドアをノックする。

「お友だち、連れてきたよ」

途端に笑顔になる。

佐伯さんを中に入れ、「先生の患者さんだから、先生のお友だち。今日から昴くんもお友だちだね」

佐伯さんはベッドに腰掛け、「よろしくね、昴くん。わたし、柑奈っていうの」

「僕もよろしく、柑奈お姉ちゃん」

ニコッと笑う。

「わあ、これ何描いてたの?」

「これね、桜のお花」

「綺麗ねぇ。もうすぐ咲くね。見に行きたいな」

「うん!」

でも、2人は桜が咲くときにはたぶんいない。だがきっと、空の上で会えるだろう。

「じゃあ佐伯さん、僕はいったん戻りますので、ゆっくり過ごしてください。もし何かあればナースコールで」

そう声を掛け、仕事に戻った。



夜に、少し仕事が落ち着いたので担当患者の様子を見に行く。

昴くんの病室に行くと、彼はすやすやと眠っていた。

テーブルの上には、桜の絵と、2人で描いたであろう花畑の絵。クレヨンで塗られた色とりどりの花の中を、昴くんと佐伯さんが並んで歩いている。まるでデートみたいだな、と大人な妄想をしてしまう。

また遊べるといいな、と小さく声を掛けた。


喉が渇いたからなにか飲み物でも買ってこよう、と自販機へ向かう。エナジードリンクを買うと、その足で中庭に向かった。

暗がりの中に、2人の影を見つけた。時間的に、患者ではないだろう。足音に気づき、先方が振り向いた。

「お、慎太郎!」

この声は、北斗だ。その横は、大我。

放射線科と緩和医療科というほぼ正反対に位置するような科の2人に、さらに小児科医が加わるという何とも面白い構図になった。

「久しぶりだな、北斗」

「元気?」

「元気だよ笑」

まるで地元の友達のようなテンションになるのも、昔からだ。

「あ、そうだ大我、佐伯さん帰ってからどんな感じだった?」

「うん、いい感じだよ。楽しかったみたい」

「そっか、よかった」

「え、てかなんで慎太郎が佐伯さんのこと知ってんだよ」

北斗が口を挟む。

「いや、なんでお前も知ってるの?」

「俺は放射線やってた」

ああ、と納得した。

「でも小児科医が大人の患者を知ってる理由がわからない」

「あのね、その患者さんが、子どもと一緒に遊びたいって頼まれて。大我に。で俺の担当患者と今日一緒に遊んでたってわけ」

「へえ」

すると、入り口のほうから何やら明るい声が聞こえてきた。

「あれ、慎太郎じゃね? あ、大我もいる!」

これはジェシーだ。遅い時間帯なのに、嬉しそうに駆けてくる。どこにそんな元気があるのか、不思議だ。

北斗「俺もいるんだけど」

ジェシー「見えてるよ、AHA笑」

と、今度は大我が声を上げる。

「お、高地? 高地じゃん」

見ると、中庭に高地が入ってくるところだった。こちらに気づくと、笑顔を見せた。

高地「おいおい、夜中の中庭に違う科の医師がたむろしてるってなんだよ笑。しかもみんな白衣だから仕事中?」

「まあね」

北斗「確かに全然違うとこなのになんで今集まったんだろ」

ジェシー「仲いいからかな」

高地「こうなると樹も来てほしいよね」

大我「あーダメだよあいつ、今日当直だから」

「あぁー。救急医は忙しいね」

北斗「俺らも忙しいって」

すると突然、PHSの音が鳴り響く。

大我「誰、俺⁉ …違う」

みんなが同じものを持っているので、当然着信音も同じ。慌ててガサゴソとポケットを探ると、ジェシーのものだった。

「なんだめんどくせーなー」などと言って取ったが、次の瞬間には真顔になる。

「ごめん急変。行ってくる」

即座に駆け出していくジェシー。いつもはヘラヘラしているが、やるときはやる医師なのだ。

高地「頑張れよー」

その後ろ姿に向かって高地が声を投げる。

北斗「呼び出しあるとこって大変だよな。俺、別に呼ばれないし」

高地「俺も。大我って呼ばれるの?」

大我「あるよ。痛みがあって看護師だけじゃ対応できないときとか、もちろん急変時も」

「そっかー」

するとまたもやPHSが鳴る。今度は俺のポケットだ。「はい」

高地「完璧なタイミング」

大我「逆にね」

「病棟から呼び出しだわ。んじゃ」

苦笑いを浮かべて言うと、

北斗「頑張れよ」

大我「行ってらっしゃい」

その言葉を背中で受け止め、病棟へ走り出した。


続く

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