TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

#2

パローマと吉木以外腰を掛けていないバーでのグルの一言目はこれだ。

「ウォッカ。一番度が高いやつで」

真横に座っていたパローマはキリッとした目をまんまるにして首を傾げる。

「アンタら何があったの? さっきから目も合わせてないよ」

憂わしげな声を上げると、二人は顔を正反対の方向に向けてふん、と鼻を鳴らす。

「どーせ吉木が悪いんでしょー。謝りなよー」

一発で見抜くのは暗殺の術なのだろうか。それは分からないが、パローマはうんと背伸びをして「黙られてもな〜」とあくび混じりに言った。

「だって……うん……ごめんね……」

言い訳をしようとする口を塞いで頭を下げる。グルは見向きもしなかった。むしろ、怒っているようにも見える。沸々と煮えているお湯がすぐに冷めるわけもない。吉木はそっとしておこうと一人で赤ワインを一口飲んだ。舌で転がして飲むと、非常に飲みやすいのだが何処か気持ちが重くなる。甘いものを食べすぎたような感覚に至るとイワシのマルネを口に放り込んだ。

「合うでしょー? スペイン料理でさ〜、結構ワインと相性良いんだよね」

パローマが自慢げに白ワインを回す。コクのあるフルーツの香りは、喉を火傷するようなウォッカとは大違いで爽やかだった。

「グルも飲めば〜? 無理してウォッカで悪酔いしても格好良くないよ〜〜?」

からかいつつも目を背けるグルには優しくしているつもりだった。

「……忘れたいだけ……」

乗り気ではないのかウォッカを瓶ごと飲み干して、イワシのマリネを食べると黙り込んでしまった。吉木が触ろうとすると手首を握られて、膝に戻されてしまう。

「ねぇー、本当に申し訳ないって。ウォッカで忘れようとしてもさ……僕が拳銃で頭撃てばいいの? 何さ本当に」

「精神的暴力の常習犯が。こっちの気持ちも知らずに……俺はここで寝るからな。部屋の角で静かに寝てれば良いんだ」

ちぇっと舌打ちしてその場でうずくまる。拗ねた子どものようだと思ってしまうけれども、22歳だ。

「そ、そんな……償い方わからない……どうしたらいいのか教えてよ?」

ポロポロと涙をこぼす吉木を、様々な感情が絵の具のように混じった状態のグルが睨みつける。

可哀想だという表情に怒りを足したような表情だった。

「胸に手を当ててよ〜〜〜〜く考えてみろ! それまで顔も合わせたくない……」

細い声で訴えて顔を手で覆い隠す。吉木は涙を拭いながら立ち上がった。足がふらついて倒れそうだ。

「ごめんよ……わかった……ごめん……薬飲んでくる……」

薬……とはかなり危険なドラッグ。オブラートに包むが読者の想像するような有名なものだ。

グルはそれを聞いてカチンときたのかポケットを漁って焦げた薬の箱を見せつける。

「甘えんな。薬は燃やしたからな」

「え?」

驚くほど綺麗な二度見をして、ようやくそれが薬の入っていた箱だと理解した。ほぼ燃えカスだ。

「酷いよ……僕の命を取らないでほしいね……せめて煙草とか頂戴……」

吉木がグルに泣きつくと、パローマが溜息をついた。

「昨夜はホント凄かったねー。グルが吉木の部屋隅から隅まで探って、危ないものをウチのバッグに詰める……」

「グル君?! まさか棚の中見たんじゃ……」

「何故俺宛の手紙が何百枚も……」

おぞましいものでも見たかのように顔を歪める。

「出そうとしたけど勇気なかったんだ……グル君にぶっ殺されそうな内容だったから……」

そう言いつつ、しれっと席に座り直す。酒が落ち着いてきているグルは半分正気であった。

「読んだぞ。手紙……268枚。送られてたら殴ってただろうな」

思い返すように鼻で笑う。吉木は顔を思い切り赤面にしてグルの両肩を鷲掴みした。

「ねぇ、あの手紙のことは端から端までぜーーーーんぶ忘れて?!」

「忘れて欲しいなら自分の悪を認めろ」

「僕は悪魔です許して下さい!」

吉木が手を組んで、膝に額がつくまで頭を下げる。隣りにいたパローマは勿論。マスターまで引いていた。

「……うん、お前に言っても無駄だってことは分かった。どうでも良くなったから一応許す」

酒の酔いもすっかり覚めて、グルは無駄だということを理解した。芯からおかしいものを磨いてもおかしいだけだ。

馬鹿なことをした、とグルが心の中で笑いながら吉木の背中を殴る。反省しないなら暴力でという脳筋思考の現れだ。

「痛いぃ……許してくれたってことは目見てくれる? 部屋の角で体育座りしない? お仕事暗殺一緒に出来る?」

「目見て話したくないが、仕方ないよなぁ……」

「話したくないの? なんで? 根本的かつ具体的な理由は? それがないと認めないよ?」

大半の人が「うっっわ面倒くさ」と思うのも仕方がない。吉木を例えるなら寂しがり屋のドーベルマンだ。

「面倒な男だな……何で仕事人を殺すことに抵抗ないやつと話さなきゃいけない?」

正論に思えるが、この男もアササン暗殺者。マスターが氷を包丁で切りながら失笑した。それを見ていたパローマはその口を押さえて気づかれないようにする。

二人は言い争っていてその光景さえ目に入っていなかった。

「同業者なんだから仲良くしよう?! ほら……高校の時みたいに!」

明るい声で言い放つ吉木を睨みながら「冗談じゃねぇな」とグルが舌打ちする。

「成程、一時間に一度殴られろと?」

拗ねたように丸まったグルを励まそうと吉木が言葉を絞り出した。

「反省してるから! 暴力振らないよ。多分だけど……。あ、ごめん断言は無理」

励ますどころじゃない。これだと悪化する。

言うまでもなくグルは怒りの声を上げて角に頭を叩きつけてしまった。

「断言しろ。しないと部屋の角で生涯終えるぞ」

「辞めて? 親友の死因が僕だなんて生きていけないよ……」

顔を真っ青にして吉木が机の下で丸くなった。パローマがハイヒールで背中を踏んづけるが悲しみのほうが大きすぎて気にしていない。

「は? 殴らなきゃ良い話だぞ」

「つまり精神的暴力は可と」

「辞めろって……暴力は嫌だ」

「暴力の塊だけどなぁ僕。この世の暴力なら全部君に試したはず」

自慢げにニコニコとする吉木を見て、部屋の角に頭をガンガンぶつけるグルは自分を落ち着かせようとしているように見えた。

「……おい保護者」

と、パローマの居る座席をギロリと睨む。

「ウチはこんな奴知りませーん」

パローマだって負けることはない。ワインを舌で転がせて飲み込むと関係ありませんと目をそらした。

「吉木ー、謝ろ? 頭を下げてごめんなさいしようねー」

5歳児に謝らせる先生のような言い方で小馬鹿にしている。吉木は「終わったことだし」なんて謝る様子は無かった。

そのストレス、晴らします0

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

53

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚