「えっ、写真あるんですか?」
「普段は写真なんて撮らないけど、旅行の時のなら……」
「えー、尊さんと旅行いいな」
素直に嫉妬すると、彼はスマホを見ながらポンポンと私の頭を撫でた。
「なんていう人です?」
「|三日月《みかづき》|涼《りょう》」
尊さんはスマホをスクロールしつつ答える。
「えーっ! カッコイイ名前! 二次元みたい」
「源氏名みたい」
相変わらず恵の反応が冷たい……。
「なんのお仕事してるんですか?」
「ん? ボンボンだよ。ちゃんと働いていて実力のあるボンボンだけど。不動産会社の跡取りで、今は専務。俺と一緒に投資のノウハウを学んだから、投資家でもある」
「すご……。そんな人、女が放っておかないでしょ。ダブルデートなんてできないじゃないですか」
恵が言うと、尊さんはサラッととんでもない事を言った。
「いや、あいつ変人だし」
「ノーモア変人!」
尊さんが言った瞬間、恵が食い気味に言った。
……うん、恵にとっては尊さんも変人なんだろうけど、ストレートに言ったね……。
「どういう変人なんですか?」
尋ねると、尊さんはスクロールする手を止めて、斜め上の空間を見て考えた。
「うーん……、分かりやすい変人じゃねぇけどな。こうやってカフェとかで会話する分には、十分普通に受け答えできる。芸術家タイプなのかな……。いや、こう言ったら芸術家が変人だっていう事になりかねないから、語弊があるけど」
うん……、なんか尊さんがスパッと言えないぐらいには、込み入った人みたいだ。
「具体的には?」
「俺は『レンコン』って言われたなぁ……」
「レンコン!?」
訳が分からなくて、私は声を上げる。
「ちょいちょい、『お前ってレンコンだよな』って会話の途中で挟んだり、久しぶりに会ったら『やっぱりレンコンだわ』って言われた」
「その心は」
私は謎かけのようにオチを求めてしまう。
「泥の中で耐え、いずれ美しい花を咲かせるでしょう」
「おおー!」
彼の答えを聞き、私は思わずパチパチと拍手する。
「こういう感じで、関わった人を端的に……端的すぎる表現で表す時があるし、虫とかゲテモノもグイグイチャレンジするタイプだな。……一緒にフィリピンに行った時、あいつバロット食ってたな……。俺は無理だった……」
そう言って、彼はガクリと項垂れる。
「バロットって?」
目を瞬かせると、恵が渋面で言う。
「ほら、あの卵が孵化する寸前のアヒルの雛と卵が混じったやつ」
「おっほ」
理解した瞬間、私は変な声を出していた。
「あいつ、臭豆腐とかシュールストレミングとか、なんでもいくんだよ。くせぇったらもう……」
「凄いチャレンジャーですね」
素直な感想を述べると、尊さんはうんうんと頷いた。
「『世界は広すぎて、俺は世界の一億分の一も理解してない。だから知らないものはとりあえず全部体験しておく』って考えだ。その姿勢は買うんだけどな……」
尊さんは遠い目をし、再びスマホをスクロールし始める。
チラッと見たところ、彼のアルバムはジャンル別に写真を分けてるけど、凄く探さなければならないぐらい、涼さんとの写真がないみたいだ。
「あいつ、FXを学んでた時も、チャートを『ヒュッときてパーン』とか、大阪のおばちゃんみたいな表現で読むから、こっちもついてくのに大変だ。……まぁ、付き合いが長いから慣れてきたけど」
……うん。なんかフィーリングで生きてそうなところは、尊さんが芸術家タイプって言ったのが分かる気がする。
「お、あった。これこれ」
そう言って尊さんがスマホを差しだし、私は前のめりになって見る。
「わ! イケメン!」
写真は釣りをしている現場らしく、涼さんが大物を持って笑っている姿を写したものだ。
尊さんもイケメンだけど、涼さんはタイプの違うイケメンだ。
尊さんがちょっと影のある、クールで孤高な狼タイプだとすれば、涼さんは華のあるライオンタイプだ。
写真は学生時代らしく髪は金髪で、笑顔も相まって余計にキラキラして見える。
少女漫画みたいに、周りに赤い薔薇のエフェクトがあっても頷ける感じだ。
「凄い美形ですね……。にゅっ」
放心してスマホの画面を見ていると、尊さんが片手で私の顎を掴んできた。指で両頬を押され、口がタコのように出てしまう。
コメント
3件
美形の変人 涼さん、早く逢いたい....🍀✨✨
美しき変人❣️カモーン(笑)~ヘ(´ー`*)カモーン
薔薇のエフェクトが似合うって相当だよね〜🌹✨三日月涼🌙✨早く会いた〜い😍