高校のクラス会の案内が来ていた。
「ねぇ、クラス会の案内が来てるんだけど、行ってもいいよね?」
「え?いつ?」
「25日の土曜日、夕方からだけど」
「あー、その日、俺、上司に誘われてるんだよね、今度の仕事の打ち合わをしようって。お義母さんが翔太をみてくれないかな?」
ピン!
また同じことをするんだと思った。
そっちがその気なら、と闘志みたいなものが湧き上がる。
私だって、クラス会で盛り上がってやる!!
そんな相手もいないけど。
お母さんが翔太を預かってくれることになった。
「こんにちは!」
「ばぁば、タロウとあそんでくる」
「はいはい、奥にじぃじもいるよ」
翔太は奥へ入っていった。
「いつもごめんね」
「いいよいいよ、孫は可愛いし。それより、綾菜今日は一段といい女に仕上がってるね!クラス会だから気合い入ってるんだね」
「まぁね、仕事始めてからオシャレにも気を使うようになったし」
「健二君は、気づいてる?綾菜がいい女になってきたってこと」
「ぜーんぜん!もういいんだ。もっといい女になって、その時がきたらこっちから捨ててやるんだから」
「そういえば、あれ、見つかったの?」
「ううん、何も言ってこないから見つかってないんだと思う」
健二があの動画を見ていたら、まさかこのタイミングで…上司の誘いが…なんて見えすいた理由で出かけないだろう。
フラッシュメモリーに入れた、サプライズ動画の中身は、お母さんには話してあった。
合言葉はおしえてないけど。
「じゃ、行ってくるね。迎えは健二に頼んであるから」
「わかった、健二君があんまり遅かったらお母さんから健二君に電話するから。番号知ってるし。たまにはゆっくりしておいで。なんなら一夜のアバンチュール??とか」
「もう、お母さんったら、アバンチュールとか古い」
そう答えながらも考えていた。
一夜のねぇ…。
あ、ダメだ、ロクな男子がいなかった。
クラス会に参加してよかった。
高校を卒業してから今日まで、まったく会ってなかった人にも会えた。
思い出として、そんなにいい男はいなかったと思ったのに、みんなそれなりに頑張って生きてるなって感じた。
大人になった。
女子も、魅力ある年の重ね方をしてる人もたくさんいて、いい刺激になった。
みんなそれぞれ、夢に向かって頑張ってる人や、やりたい仕事のために転職したり大学に行きなおしたりしてる人がたくさんいた。
もちろん、私みたいに結婚して子どももいる人もいたけど。
みんなの頑張りの話を聞いていたら、バカ健二のことで悩んでいることが、アホらしくなった。
気の合ったクラスメートたちと二次会まで参加して、ひさびさに楽しい時間だった。
「じゃあさ、またお茶とかしようよ。まだまだ話したいこともあるし」
「うん、私も仕事始めたばかりで相談したいこともあるし」
「まだまだこれから、がんばろうね!」
「そうだね!がんばろう!」
「じゃ、またね!」
お酒が入ったこともあって妙にテンションが高くなったけど、学生の時には特に仲良くなかった友達とも連絡先を交換した。
それだけで、自分の世界が少し広がった気がする。
「はー、気持ちいいなぁ!」
少し酔った。
そうだ、お母さんに電話してみないと。
「もしもし?お母さん?
『うん、もうおひらきになったの?』
「そう、終わり。何人かはまだ三次会に行くみたいだけど」
『いいよ、なんなら泊まってきたら?翔太は健二君に任せといてさ』
「いやいや、これから帰るって言ってるのに」
『そりゃ、ひさしぶりに会ったんだもん、そういうことになるよね?』
「ちょっ、お母さん、何言ってるの?」
『いいんじゃない?お酒のせいにしてさ、一回くらいそういうことしても』
「もうっ、なにわけのわかんないこと言ってるの?」
お母さん、もしかして、わざとこんな会話にしてるのかな。
そばに健二がいるから、わざと私がいま、懐かしい男と会って不倫するかも?的な会話をしているようだ。
お母さんの台詞しか聞こえていない健二には、妄想の場面が浮かんでいることだろう。
『じゃ、こっちは任せていいから、素敵な夜を…』
プツン。
電話はきれた。
タクシーで家に帰ったけど、誰もいなかったからそのまま実家に向かった。
健二が先に来ていた。
なんだかんだで、そのまま実家に泊まることに。
お風呂を上がったら、2階のお母さんからLINEが届いた。
ぴこん🎶
《綾菜、メモリー、あったよ。でも健二君、合言葉がわからなかったって言ってたから。おしえてあげたら?私も知りたいし》
〈あったんだ!なくしたって言ってたから、半分諦めてたんだけど〉
《うちのリビングに落ちてたから、さっき渡したよ。それでパソコンで見てたけどね》
〈見たのに合言葉がわからなかったか、まぁ、いいや〉
《いいの?私は知りたかったなぁ。おやすみ》
見たんだ、アレを。
なのになんで何も言わない?
健二がお風呂から上がった。
私は、健二のスマホを健二に持たせた。
「え?なにするの?」
私は黙って離れた。
そして健二にLINEする。
お母さんや隣の部屋で寝ているお義父さんに話を聞かれないように。
〈見たんだよね?〉
健二がスマホを開いた。
ぴこん🎶
《あれのこと?》
〈そう、最後まで見た?〉
《はい、スタンプ》
〈今夜も27-31の車で出かけたんだよね?〉
返事が来ない。
〈うまくごまかせてると思ってたの?私、全部知ってるよ〉
スマホの画面をじっと見ている健二。
〈妊娠検査薬ってなに?〉
〈私が知らないとでも思ってるの?〉
〈後輩が?上司が?今度会社に出向いてその人たちに確認してみようか?〉
返事が来ない。
続けてこちらから送信する。
〈今日のクラス会は楽しかったよ。昔はなんてことない同級生だったのに、みんななかなかのいい男になってた。健二なんかよりずっと、いい男はたくさんいるってわかった〉
健二がこちらを見た。
私はそのままLINEで会話を続ける。
〈妊娠検査薬も27-31の車のことも、もうどうでもいい。健二の言うことなんて、ひとつも信じられないから〉
《ちょっと待って!話を聞いて》
〈バカにしないで。何回も嘘をついて!もう健二なんかいらない、あの女にくれてやるから、さっさと出て行って〉
そこまで送信してスマホの電源を切った。
すぐそばにいるのに、会話もしないで私は反対側を向いて寝た。
健二はしばらく座り込んでいたけど、あとは知らない。
次の朝、私は何事もなかったかのように振る舞った。
健二はおとなしかった気がしたけど、昨夜のやり取りについては何も言ってこなかった。
弱虫なのか?