昼休みになってガヤガヤと一気に騒がしくなる教室を出て目的の場所に向かう。
パーカーの入った袋を抱きかかえて1つ下の階に降りていく。
「……」
ちらちらと俺のことを見る先輩たちに気まずさを感じて俯きながららっだぁさんの教室に向かった。
因みに失礼になるかと思って帽子は脱いでいる。
友人には何故か止められたが。
ここは中学の時とは違う。
そう念を押して怒られない程度に早足で廊下を歩いた。
「ぇっと、ここでよかったよな」
教室内にはお弁当を広げて談笑する先輩たちがいる。
購買に行っていたり、学食に行ってる人たちもいるのだろう。
「ぁ、あの…」
丁度、出入り口の近くの席でお弁当を広げていたソーラさんに声をかける。
「ん?…!、あら、トラゾーくんじゃない。こんにちは。このクラスに来るなんて珍しいわね、どうしたの?」
「ソーラさん、あちゃみさん、クミさんこんにちは。あの、らっだぁさんいますか?」
あちゃみさんとクミさんにぺこりと会釈する。
あちゃみさんは手を振ってくれた。
クミさんは表情乏しいけど小さく会釈を返してくれた。
「らっだぁさん?あら?さっきまでいたんだけど…ともさんと購買にでも行ったのかしら?」
「らっだぁさん、パン買いに行くって言ってなかったっけ?」
あちゃみさんの言葉にクミさんが頷く。
「ありゃ…タイミング悪かったか…」
「彼に何か用事?」
「あの、昨日ちょっと色々あって服をお借りしたんです。それを返しにきたんですけど…」
手に持つ袋を見せる。
「もう帰ってくんじゃね?トラゾーここで待ってたら?あたしらは別に構わないよ。クミさんもいいよね」
「構わない」
「え、でも、邪魔になりますよ…」
「そんなことないわ。私、ゆっくりトラゾーくんと話してみたかったの。だから、気にしないで?」
ソーラさんがそう言う。
それを聞いてあちゃみさんが空いている椅子を引いてポンポンと座面を叩く。
「お弁当持ってくればよかったね」
「いや、俺最近食欲なくて…」
「え⁈まぁ!ダメよ?ちゃんと食べなきゃ」
色々考えすぎて食事が喉を通らない。
体感で分かるくらいには少し痩せた気がする。
2、3日まともに食べないだけでも体重って落ちるもんなんだな、と他人事のように感じていた。
「あたしの分けてあげるよ」
「いやいや!悪いです!俺、大丈夫ですから!」
「私のも食べて?」
「わたしのも、分けてあげる」
3人にそれぞれ差し出されておろおろと困っていた。
「なーに、きゃっきゃっ女子会してんのさ」
「ともさん…!」
「トラゾーが困ってんじゃんか」
購買で買ってきたのか飲み物類を抱えて呆れた顔をしてるともさんがいた。
「だってこの子お昼食べないとか言ってるのよ?」
ソーラさんが可愛らしい顔を歪めて自分のことのように言う。
「なぁんだってぇ?」
そしたらともさんにじっと睨まれた。
「お前はまーたそんなことばっかして」
「ゔ…ごめんなさい」
「目の前でぶっ倒れた時、マジでビビったんだからな。あん時も徹夜してご飯も抜かして脚本仕上げないと!ってなりふり構ってなかっただろ」
約束させられた。
二度としないって。
「約束破ったら俺怒るって言ったよね」
「うぅ…」
自己管理できない自分のせいで周りに心配かけてしまう。
それが嫌だから隠すのに。
この人はいつもそれを見破ってしまう。
「………まぁ、今回は事情が事情だから許すけど、次はねーぞ」
ただ、溜息ひとつついてともさんはそう言った。
「ぇ?…あ…はい」
なんか許してもらえた?と思っていた。
「ともさん説教終わった?」
そこで、ひょっこりと顔を覗かせたらっだぁさんはをしたり顔をしていた。
その顔を見て察する。
「…らっだぁさん、話したんですか」
「そりゃ、味方は多い方がいいでしょ。勝手に話したのは悪いけど、お前には心配してくれる人がたくさんいること知ってもらいたかったし」
心強いは心強いけども。
嬉しいやら申し訳ないやらで言葉が出ず。
「………むぅ」
口を尖らせるしかできなかった。
「俺が言っても聞く耳持たなさそうだからなぁ。ここはともさんの出番!ってわけ」
「俺を何だと思ってんだ!全く。…まぁ、でもトラゾー我慢はしちゃダメだよ」
ソーラさんたちは微笑みを浮かべてこっちを見ている。
この人たちの圧のほうが怖い。
「はぃ」
「おー、そういやらっだぁに用事あるんでしょ?」
「あ、そうだ。これありがとうございました」
袋を手渡す。
「いつでもいいって言ったのに。トラゾーはホントに真面目で律儀だな。今時こんな殊勝な子いねぇぞ」
「確かに」
「それは言えてる」
「いい子よね、トラゾーくん」
「…いい子」
褒められ慣れてないせいで、頭がぐるぐるする。
帽子、外してくるんじゃなかった。
「照れてんのかぁ?可愛いなトラゾー」
「も、やめてくださいよっ!みんなして」
「可愛いなぁ」
「可愛いわねぇ」
「可愛い」
ともさんたちに頭を撫で回されて、そばに立つらっだぁさんにしがみついて逃げることを選択した。
「お、らっだぁ良かったな」
「ふふっ」
「嬉しそう」
「トラゾー可愛いな」
「もう、みなさんいやです…っ」
「「そういうとこー」」
ともさんとあちゃみさんの声が揃う。
「天然タラシ」
クミさんの声に首を傾げた。
「ぅえ?…俺、天然ではないですけど…?」
上から溜息が聞こえて見上げる。
「トラちゃんは分からないままでよろしい。…ほら、あんたらも飯食おうぜ」
「トラゾーも食べる!」
「また飯抜かそうとしてたんか。それ以上痩せたらダメだぞ」
「俺の弁当も分けてやるから食べなさい!先輩命令!」
「はひ…!」
久々にお腹いっぱいになるくらい食べさせられた。
ちなみにみなさんにもらったおかずは美味しかった。
らっだぁさんたちに送り出されて自分の教室に戻ってきた。
「あ、トラゾーおかえり。…なんか疲れた顔してんな」
「ただいま…」
色々話をして、もみくちゃにされた感じだ。
でも、嫌じゃなくて、すごく楽しかった。
「おー、そういやぺいんとたちが探しにきたぜ」
チャイムが鳴る前に席に座る。
「え」
「トラゾーいる?って聞かれたけど適当に誤魔化しといたぞ」
「あり、がとう」
さっきまでの楽しいと思っていた気持ちが萎んでいく。
「…ほんとに大丈夫か?」
「ん、大丈夫」
へらりと笑う。
なんとなく納得のいってないような顔の友達は渋々前を向いた。
そこで本鈴が鳴って先生が入ってきた。
「……」
何をしにきたのだろうか。
言い訳?謝罪?
どちらにせよ、今はまだ会いたくない。
「(放課後とかどうしよう)」
さっき来たということは、帰りはきっと来るはず。
嫌だな、と思いながらも時間は進んでいった。
コメント
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このお話気に入りました すごい大好きです(*´`) 続き楽しみに待ってます