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あれから1週間ほど、驚くほどにぺいんとたちと会うことがなかった。
ともさんやらっだぁさんたちのお陰や察した友達のお陰でもあるが。
俺自身が逃げてるのもあった。
そんなある日、ホームルームが終わって教室内は騒がしくなる。
部活に向かう者や帰り支度をする者。
塾があると言う者もいる。
「…今日は図書室にでも逃げようかな…」
「おーい、トラゾー」
「…え?」
声のした方を見るとらっだぁさんが手を振っていた。
スクールバッグを肩にかけて駆け寄る。
俺もクラスの人たちも先輩が教室を訪ねてきたことに始めこそざわついていたが、最早恒例行事のようになっていた。
「どうしたんですか?今日、来る日でしたっけ?」
「んー?ともさんたちに今日は絶対に一緒に帰ってやれって言われてさ」
「え?」
「まぁ、俺が帰りたかったからなんだけどね」
にこりと優しく笑うらっだぁさん。
その申し出は本音を言えばとてもありがたかった。
「本当にいいんですか?俺の家とは反対方向でしょう」
「可愛い後輩のためなら別に気にしねぇって」
いつもそう聞くのに、なんてことはないと返事をされる。
「…ありがとうございます」
「そうそう。そうやって素直に甘えてたらいいの」
帽子越しに頭を撫でられる。
「……俺、心が狭いですね」
「どこが?トラゾーの懐の広さは見習いたいくらいだけど」
「ちょっと隠し事されてるだけなのに、友達疑って…。俺だって隠してることたくさんあるのに。こうやって逃げるばかりして…」
「…んー、まぁ、でもそんなもんじゃない?全部曝け出すのって怖いじゃん。全部じゃなくても、それを少しづつ出していけたらいいと俺は思うけどな」
きゅっとスクールバッグの持ち手を握りしめる。
「…はい」
正門を出て、らっだぁさんと歩いていた時。
後ろから走ってくる音がした。
まさかと思っていたら大きな声で声をかけられる。
「いた、トラゾー…!」
「っ!」
振り向くと息を荒らしたぺいんとが立っていた。
「…ぺいんと…」
「やっとみっけた…」
と、らっだぁさんが俺を庇うように間に立った。
「……誤解でも解きに来たんか?それとも言い訳しに来た?」
「…どっちも違う。俺は謝りに来ただけだ」
らっだぁさんの背後からぺいんとを見ると、泣きそうな顔をして立っていた。
少なくともその原因に俺が関わってることは間違いない。
「ぁ…」
声をかけようとしたら手で制された。
「…謝りに、ね。なら、そこで隠れてる2人も出てきたらどうなんだよ」
「っ!」
少しの間の後、クロノアさんとしにがみさんが出てきた。
「コソコソ様子窺うなよ。誠意が見えねーぞ。……んで?ぺいんとの話を一応聞こうか」
「……トラゾーに隠してること、確かにあった。けど、お前のこと嫌で避けたり嫌いになったとかそんなんじゃなくて……いや、でも、それでトラゾーのこと傷付けてたら意味ねぇ」
俯くぺいんと。
黙っているクロノアさんたち。
それを無言で見つめるらっだぁさんとその後ろに棒立ちしてる俺。
「……白状する。トラゾー誕生日だろ。その準備とかいろいろしてたんだよ」
「………たんじょうび?」
「サプライズでしてやりたくて、コソコソしてた。…でも、そこのお節介に正直に言った方が喜ぶって言われて…確かにトラゾーは優しいから何しても喜んでくれるだろうなって思う。けど、隠し事されてあんな風に意味深な動きされたら、俺も多分傷付く…」
「……」
「今回のはクロノアさんもしにがみも何も悪くない。俺1人が言い出したことだから。この2人のことは責めないでほしい」
ぱっと顔を上げたぺいんとは頭をこれでもかと下げた。
「ごめん!トラゾーのこと傷付けて!ごめんなさい!」
ぽろりと何が落ちた。
振り向いてきたらっだぁさんがまた慌て出す。
「だってさ、トラ…うわ、ちょ、大丈夫か⁈」
ボロボロと落ちていたのは涙だった。
らっだぁさんの声に顔を上げたぺいんともぎょっとしていた。
「おれ、きらわれたんじゃ、なかったんか…」
安心した俺から出るこれは嬉し涙だ。
「ばっ、…俺がトラゾーを嫌うわけないだろ!」
あり得ないと言わんばかりの声量に小さく笑う。
「ぅんッ、…おれも、ぺいんとのこと、うたがったりしてごめん…」
「いいんだよ。俺らが悪いんだから」
そこで一瞬強い風が吹いて俺の帽子が飛ぶ。
「ぁ…」
「おっと」
らっだぁさんがキャッチしてくれたおかげでどこかに飛ばされずに済んだ。
「トラちゃん嬉しそうにしてんね」
「は?おいらっだぁそこ退けよ」
「いやでーす」
ぽすりと帽子を被せ直された。
「これはトラゾーを泣かせた罰なので見せませーん」
「ふ、ふふっ、らっだぁさんもありがとうございます。俺、らっだぁさんのこともっと好きになりました」
「えー!マジで?超嬉しい」
「らっだぁさんや、勿論ともさんたちのおかげで俺、落ち込まずに済んだから」
「可愛い後輩の為だもん。俺らはずっとトラゾーの味方だからな」
「ありがとうございます」
涙は止まっていて、その目元を撫でられる。
「今日のもちゃんと冷やせよ?」
「わ、かってます」
そこで肩を引かれてらっだぁさんと離された。
「2人だけの世界にすんな!」
「ヤキモチか?お子様だなぁ?」
「1個しか変わんねぇだろうが!」
睨み合う。
と言ってもぺいんとが一方的に睨みつけてるのだが、そんなのも何とも思ってませんと言わんばかりにらっだぁさんは笑っていた。
「ぺいんと、ぺいんと」
「?、どした」
「さっきのたんじょうびって、なに?」
「「「「「はい?」」」」」
「さっき、言ってたじゃん」
「おっまえの、そういうこと!今日トラゾーの誕生日!」
カレンダーを思い浮かべ、日にちを数える。
「…………ぁ、ホントだ」
そんなこと考えてる余裕なかったから忘れていた。
「〜〜!もう、この天然め!」
「天然関係あるか…?」
「お前はただの天然じゃなくて、ドジっ子天然人タラシなんだよ」
「……あれ貶されてる?」
「褒めてんだよ。頭いいのに変に抜けたとこあって、真面目で優しいのにたまにバカ口悪くなったり、迷言言うこともよくあるし」
「いや全然褒められてる気がしない…」
クミさんにも天然タラシと言われたが。
「俺、人たらしこんでなんかないもん」
「…お前がもんって使うと幼女みたいになるのなんでなん」
「幼女じゃねーし!俺、男だし!」
「俺は概念のこと言ってんの」
意味が分からず、らっだぁさんたちを見る。
「苦労してんねぇ、お前ら」
「いや、この純天然記念物みたいな人を守るの苦労しますよ」
「ホント。この前やっと逆ナンされてることを教え込めたんですから」
「逆ナンと言えばされてたな、女子大生とリーマンみたいなのに」
「「「は?」」」
ばっとらっだぁさんに視線が集まる。
「女の方が逃げれたみたいだけど、男の方がヤバそうでさ。偶然通りかかってよかったよ」
その次に俺。
「あんな可愛い格好してるからこうなんだよ!」
「だって、店員さんが似合うって…お世辞でも嬉しかったから。配給過多とかよく分かんないこと言ってたけど…」
「これ以上ガチ恋勢を増やすなよ…」
頭を抱える3人に首を傾げつつ、思い出す。
「あ、そうだ。美味しいクレープ屋さん見つけたから、らっだぁさん今度お礼を兼ねて一緒に行きましょう!そこの店員さんも優しい人でしたよ!ちょっと変なこと言ってましたけど」
「俺はいいけど、変なことって?」
「クレープ受け取ってお礼言ったら生きててよかった…ってなんか手を合わせてました」
「あぁ…ある意味での被害者がそこにも…」
「ぺいんとたちも、行こ?」
俺を引き寄せてから抱きしめるように立つぺいんとの制服の裾を引っ張る。
「…やだ?」
「あー!もう!そういうのを素でするから!お前は変な奴にも目を付けられるんだよ!」
「え?変な奴?…?、…クロノアさんたちもやですか?俺と行くの…」
それはそれで悲しい。
折角、仲直りできたと思ったのに。
「嫌なわけないだろ!行くに決まってるよ!」
「行きます!寧ろ行かさせてください!」
「行くに決まってるでしょ!」
3人が大きな声で答える。
「うれしい、またみんなと話せて」
へらりと間の抜けた顔で笑う。
「「「 」」」
そしたら、3人がぴしりと石化したかのように固まった。
「?、固まってる?」
「トラゾーの笑顔は破壊力抜群だから」
らっだぁさんが苦笑いしていた。
「どういう…」
「そうそう、俺もトラゾーのこと好きだかんね」
帽子を取られておでこにちゅっとキスをされた。
イケメンがやると様になる。
「…ひぇ⁈」
「そーいうこと。もう、送ってかなくてもよさそうだな。んじゃ、また明日ー。またいつでも俺らんとこおいでー」
手を振りながら帰っていくらっだぁさん。
おでこが、というより顔が熱い。
そこで石化が解かれたぺいんとが俺のおでこを袖で痛いくらいに擦ってきた。
「ぃ゛、って!なに、いたっ、痛い!痛いって!」
「何簡単にキスさせてんだよ!」
「挨拶みたいなもんだろ!」
「告白されてたじゃんか!」
「告白?、そんなわけないだろ!あの時の返事みたいなもんじゃん!」
ヒリヒリするおでこをさする。
「帽子ちゃんと被ってろよ!お前の顔みんなに見せたくない!」
「…変な顔だから?」
「可愛いから!」
「……誘ってるって思われるから?」
「「「誰だそんなこと言った奴、殺す」」」
一言一句揃わせて言った3人に若干引いた。
「………中学の時の先生。捕まってからどうなったかこっちに引っ越してきたから分かんない」
「ぶっ殺す。しにがみくん、調べといてよ」
「りょーかいです。草の根分けてでも探し出します」
「……大丈夫だったの?」
クロノアさんが聞いてきたけど、目が怖い。
眼力強すぎる。
「当時の友人が助けてくれたので……帽子は顔を見せないための一種の心のプロテクターです」
「…言いたくないことだったね。ごめんトラゾー」
「…いえ、何だか言ったらスッキリした気がします。これで普段も帽子を取っても…」
「「「それは絶対にダメ」」」
「なんで⁈」
「可愛いから」
「それで変な奴が寄ってくるから」
「そのまま連れてかれそうだから」
ガチな目をして真面目に言ってくる。
「俺、高校男子よ?それなりに鍛えてるし、連れてかれたりは…」
ぺいんとにすっと手を取られて手首を握られる。
「?」
「はい、じゃあ手ぇ振り払ってみて」
「え」
「連れてかれないんだろ?だったら俺の手振り払ってみろよ」
俺より少し小さいぺいんとはそう言った。
いくら食べてなくて痩せたと言っても、と俺は手に力を入れた。
「……え、うそ」
「俺そこまで力入れてないよ。そんなに入れたらアザができるし」
剣道をしてるから竹刀を持つためにも握力あるとは思ってたけど、これで本気じゃない?
「ほら、相手がどんなのか分かってないのに連れてかれないなんて安易に考えちゃダメだぜ」
「でも…」
「俺もしようか?」
笑顔でグーパーするクロノアさんに首を振る。
「……いえ、ぺいんとの言ってること充分わかりました」
弓道をしてるこの人にされたら俺の手が死にそうだ。
人を見かけで判断するなということだ。
「あんたら、俺の保護者かよ」
「僕は保護者です」
「「……」」
「しにがみさんの方が保護される側じゃない?可愛いから」
「僕が可愛いのは当然ですが、そんな僕を通り越すくらい言動全てが可愛いのがトラゾーさんなんで」
「えぇ…」
「俺らは保護者の枠でいたくねーから」
「らっだぁさんには渡さないし」
「?、どゆこと?」
「…いずれ分かりますよ、トラゾーさん」
頭にはハテナしか浮かばない。
「ただ、本物の保護者はともさんたちだけど…あの人ら怖いって…」
「女性陣が特に…」
「俺、ソーラさんが怖ぇよ…」
「俺はクミさん…」
「クミさん優しいよ?」
「それはお前にだけだよ」
「?そうかな、」
そうだとしたら嬉しかったりするけど。
「赤髪のともグループは敵に回せないって言われてますからねぇ」
「だって、そこに優しい枠のバステンさんやアイクさんもいるはずなのに…あの笑顔が逆に怖い」
「まぁ、僕はこの中ではトラゾーさんの保護者なんでお2人は頑張ってくださいね」
「何が嫌だって、ともさんたちだけじゃねーから…」
「俺らも仲良いけど、トラゾー友達多すぎるから…」
「何言ってんの?みんな面白いし、優しい人たちばっかじゃん」
「この天然タラシめ」
そうして、示し合わせたかのようにみんなで吹き出して笑った。
きっと、もうあの雨の日のような頭痛には襲われないだろう。
買い換える必要のなくなった頭痛薬にお世話になる日も少なくなる。
「ほら、もう帰ろーぜ」
「見回りしてる先生に怒られちゃうからね」
「そうですね」
「そんで、俺ん家でトラゾーの誕生日会しようぜ」
「いろんなもの用意してるから楽しみにしてて」
「トラゾーさん喜ばせるために準備させてもらいましたからね」
「「「ほら、トラゾー(さん)」」」
俺の方へ伸ばされる手。
「うん!」
この差し出された手はもう離れることはない。
おわり