でもすぐに眩しさに目が慣れた。
礼拝堂の中を見て、感嘆の息を吐く。中の壁も真っ白で統一されて、とても神々しい。両脇には幾つもの椅子が並び、一段高くなっている正面奥には、壁一面に広がる大きな窓がある。
その窓の前にラシェットさんが立ち、両脇に並んだ椅子の一番前のそれぞれに、ラズールとゼノがいた。
「リアムとフィルさん、こちらへ」
ラシェットさんの声に、リアムと僕は前に進む。
後ろで扉が静かに閉まる音がした。
緊張して足を前に出すことだけを考えていたけど、視線を感じて顔を上げる。
ラズールが、まっすぐに僕を見つめている。その顔は、微笑んでるようにも泣いてるようにも見えて、僕は胸が詰まって苦しくなった。
僕は、ラズールの気持ちを知っている。僕が応えられないことをわかって、気持ちを伝えてくれた。嬉しかったけど、僕にとってのラズールは、家族なんだ。それ以上には思えない。
ラズールは今、僕の幸せを喜んでくれている。でも辛い気持ちもあるのかもしれない。
ごめんねラズール。僕はリアムを愛してる。でも、ラズールは僕の大切な人だよ。一番長く、一緒にいたのだから、とても大切に思ってるよ。
僕はラズールに微笑んだ。
ラズールは、一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに微笑み返してくれた。
そのことに気づいたリアムが、「よかったな」と優しく囁く。
僕はまだ泣いてはダメだと腹に力を入れて頷いた。
ラシェットさんの前に着き、促されるままに一段上がる。そしてラシェットさんが紡ぐ祝福の言葉を聞き、リアムと永遠の愛を誓い合う。
ラシェットさんが近づき、僕とリアムの肩に手を置いて言う。
「これで今から君達は夫夫だ。末永く仲良く暮らしなさい。フィルさん、これからは息子として接するからフィルと呼ばせてもらうよ。ぜひ俺とも仲良くしてほしいな」
「もちろんです。ありがとうございますっ」
「おいっ。フィー、ほどほどでいいからな」
「我が甥ながら心の狭いヤツめ」
「伯父上っ」
リアムが僕を抱き寄せて、ラシェットさんから遠ざける。
僕が可笑しくて笑っていると、「リアム様、こちらを」とゼノが木の箱を差し出した。
リアムが木の箱を開けながら「おまえは仕事が早いな」と笑う。
「お二人のためですからね」
「助かったよ。ありがとう」
「いえ。リアム様、フィル様、本日はおめでとうございます」
ゼノが後ろに下がり、深々と頭を下げた。
ラズールも傍に来て「おめでとうございます」と頭を下げる。
「二人とも…ありがとう」
絞り出した声が震えている。僕はついに我慢ができなくなり、涙を流した。
リアムが、僕の頭にそっと手を乗せる。
「もう泣くのか?早いぞ」
「だって…うれし…っ」
「そうだな」
リアムが笑って僕の額にキスをして、首に何かをかけた。
「え?」と驚く僕の手に、緑色に輝く石がついたペンダントを握らせる。
僕は手の中のペンダントを見て疑問を口にする。
「これは…?」
「俺の首にかけてほしい」
「え?…あ、うん」
リアムが頭を下げる。
僕は少し背伸びをして、リアムの首にペンダントをかけた。
顔を上げたリアムが、緑色の石を摘みながら「どうだ。キレイだろう。おまえの瞳の色だ」と笑う。
「うん…きれい」
「フィーには、俺の瞳の色と同じ、紫の石だ」
「え…」
僕は顔を下に向けて、胸の前で光る石を見た。
本当だ。とても美しい紫の石。そうか。リアムが僕の瞳の色を、僕がリアムの瞳の色を、それぞれが身につけるのか。
「嬉しい…ありがとう、リアム」
「ああ、また泣かせてしまったな」
僕は声を震わせながら、リアムを見上げた。
リアムが困った顔で、僕の頬に流れる涙を拭う。
「イヴァルにも有名な鉱山があるが、これはバイロンで採れた石だ。俺が記憶をなくす前に、石をペンダントにするよう頼んでいたんだ。いろいろあって取りに行けてなかったんだが、いつまでも引き取りに来ない俺を心配して、職人がちょうど城を訪ねてきたらしい。それをゼノが預かってくれていたんだ」
「そんな前から…嬉しい」
「俺が記憶をなくさなければ、もっと早くに渡せていた…ごめんな」
僕は強く首を振る。
振動に合わせて胸の上で紫の光がキラキラと揺れる。
「僕…なにも用意してない。リアムになにも渡せないよっ…」
「なにも無いことはないぞ。俺はおまえから様々なものをもらった。それにほら、これもある」
リアムが上着のポケットから小さな袋を取り出した。
「あっ、それっ。僕も持ってる!」
僕も急いでポケットから同じような袋を取り出す。この中には、お互いの髪が入っている。肌身離さず持っている宝物だ。
「うん。俺はこれを持っていたおかげで、いつでもフィーが傍にいるように感じてがんばれた。おまえだってそうだろ?」
「うんっ、うんっ!」
「それに、髪を切りたいと話してたな。切った後のこの美しい銀髪、俺にくれよな」
「え?本当にいるの?」
「もちろん」
キレイにとかし後ろに流している僕の銀髪を、ひと房つまんで、リアムが口づける。
今朝、ノラさんに頭に花飾りをつけられそうになって、全力で止めた。
さすがに花は恥ずかしいからだ。
ノラさんは「かわいらしいのに」と不服そうにしながら、僕の上着の胸ポケットにその花をさした。
それを今、リアムが僕の髪にさす。
「あっ、ちょっ…と」
「ああ、フィーは本当に美しいな。もう俺のものだ。俺もフィーのものだ」
「もう…。リアムだって花が似合うよ。つけてみてよ」
「いやだ」
「どうしてよ。僕にだけしておいて、ひどくない?」
「おまえは似合うからいいけど、俺は似合わないからだ」
「似合うよ」
「似合わない」
リアムの胸ポケットの花を取り、腕を伸ばして金髪につけようとするけど、リアムが逃げるから届かない。
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