2216年10月28日 月曜日。
クラスでは朝から、渋谷蜂起の話で騒がしく始まった。
《なんか、モヤモヤする》
トレンド入りしそうなくらい、この言葉が耳に入って来る。そして全員落ち着きも無く、教師達も困惑するばかりだ。
「世界中のモヤモヤが……聞こえる」
昼休み。ハルとユメは学食へ向かう。2人共に落ち着かない表情を浮かべている。見る事はしないが恐らく、他の生徒も同様だろう、と考える。
多くの生徒は、お喋りするでもなくスマホの画面を眺めながら食事をしている。良くない行儀である事から、学食の入口にも『食事をしながらのスマホ・携帯禁止』の札が貼られているが…………。
まぁ、ハルとユメのようにスマホを仕舞ってきちんと食事をする生徒も居るし、教師も食事スマホをしている生徒に厳しく注意をする事は無い。
逆に教師の方が同時行為を行っている事が多い。これは教師1人に対する業務量が限界を遥かに超えている事を意味している。
■教員の激務の原因
1. 業務の多様化:
・授業以外にも、生徒指導、保護者対応、部活動指導、学校行事の準備、事務作業など、教員の仕事は多岐に渡る。
2. 教員不足:
・教員不足により、一人当たりの業務量が増加し、激務を招く要因に挙げられる。
3. 長時間労働:
・定時間以外にも、授業準備、生徒指導、事務作業などで長時間労働になる傾向がある。
4. 保護者対応:
・保護者からの問い合わせや相談が増加し、対応に追われることも激務の一因。
5. 学校行事:
・運動会や文化祭などの学校行事は、準備や当日の運営に多くの時間と労力を費やしている。
6. 部活動指導:
・部活動指導も、教員の負担を増やす要因の一つである。
7. 事務作業:
・授業以外の事務作業も多く、教員の負担が増加。
■教員の激務による影響
1. 心身の疲労:
・長時間労働やストレスにより、心身の疲労が蓄積し、体調を崩す教員も少なくない。
2. 離職率の上昇:
・激務に耐えかねて、教職を離れる人が増加。
3. 教育の質の低下:
・疲労した状態で授業を行うと、教育の質が低下する可能性がある。
4. モチベーションの低下:
・激務が続くと、教員のモチベーションが低下し、教育への意欲を失うことも。
■教員の激務を改善するための取り組み
1. 業務のスリム化:
・事務作業の効率化や、外部委託できる業務の検討が必要。
2. 教員増員:
・教員不足を解消する為、教員を増員する必要がある。
3. 働き方改革:
・ 労働時間の短縮や休暇取得の促進等、働き方改革が必要。
4. 部活動指導の見直し:
・部活動指導を外部委託したり、地域住民に協力してもらうなど、教員の負担を軽減する必要がある。
5. 保護者との連携強化:
・保護者との連携を強化し、情報共有を密にすることで、保護者対応の負担を軽減する必要がある。
職員会議や学年会議等の資料を捲る、研修や研究会のデータをPCで睨み付けながら、うどんを啜っている教師。
こういう現場の苦労すら、知っていながら見て見ぬフリを続けている政府官僚。
教育委員会は行政機関=公的機関なので、法人格的には「政治献金できる存在じゃない」。個人として教師が政治活動や献金するのも、かなり制限されてる(公務員法で)。教職員組合(民間団体)が献金することはあるけど、それは教育委員会ではない。
分かり易く言えば金にも票にも繋がらない奴は、相手にしないって事。大企業から多くの献金を受けて、見返りとして優遇措置を図る。大企業は儲かるし利益を残せるので、之を持って、『経済が安定して順調に廻っている』事をアピールして来たのだ。
ハルとユメは、黙々と食事を進めていく。ハルは、日替わりランチ(本日は鯖醤油&味噌煮込み)、ユメはオムライス。ユメは特にオムライスが好きな訳では無く、ただケチャップで文字が書けるから、という理由で注文している。(ちなみに今日は、ラオウと書いていた)
『おっ?ハルはきれいに魚を食べるんだね。』
ハルの後ろから声が掛かる。担任の伏見 弘だ。担任の他に倫理と現代社会を教えている教師である。人穏やかで落ち着いた中年教師。服装も髪型も「模範的」であり、伏見だけが資料やPCを食堂に持ち込んで居なかった。
伏見は食事の時間を大事にするタイプでハル同様に、きれいに魚の骨だけを残していた。伏見にとって食事は健康や生活の質を高める行為である。外の風景が見える席で、出来る限り同じ時間で、ながら喰いを避け、バランスの取れた日替わりランチを味わう。
『なんだかみんな、落ち着かない顔をしているようだが…………例の渋谷のデモが影響しているのかな』
「少なくとも私達は、そうですね」
ユメが答える。
『ふむ…………』
「先生は、D.N.S.C.法をどう思いますか?」
続けてユメが質問をした。
伏見は下げようとしたプレートを、静かにテーブルの上に置いてユメ達の横に座る。
『……D.N.S.C.法ですか?そうですね。私は、この法が“正しい”とは思いません。ただ、“必要だった”とは思います。』
(戸惑うハルとユメ。目を合わせる……)
『夢というのは、人間の脳が作り出す最後の“混乱領域”です。感情、記憶、衝動……あらゆるものが秩序なく結びつき、ある時は凶器となり、ある時は救済にもなる。』
『でも──国家というのは、“揺れない”ことを第一に望む存在です。夢は揺らぎですから、排除されるのも、ある意味当然だったのかもしれません。』
ハルは、伏見に問い掛ける。
「じゃあ先生は、賛成なんですか?」
『私は、“倫理”を教える立場として、社会が決めたルールを尊重します。それが、君たちに安全な場所を保証するのなら。』
『ただ、君たちの中に──
“なぜ?”を捨てきれない者がいるなら。
その問いだけは、誰にも奪われないようにして下さい。
それが、まだ夢を見られる証拠ですから。』
伏見は優しく、頷くように微笑みながら席を立った。
ぶふぇええぇぇっっくしょょょんん!!!!!!
「な、なんだ……??」
ドア付近、カレー(大盛り)に情熱を注いでいた体育教師・森野が、体幹を震わせながら盛大にくしゃみをぶちかました。
次の瞬間、
カレーと未消化の福神漬けが食堂の床一面にスプラッシュ。
「あぁあぁ、森野なにやってんの……」
呻くようにハルが呟いた。
伏見は一瞬、言葉を失ったが、ため息混じりに立ち止まり、静かにスタッフから布巾を受け取ると、黙々とカレーの海を拭き始めた。
「伏見先生!すませゎ……!」
そして──
ぶふぇええぇぇっっくしょょょんん!!!!!!
森野、まさかの二連撃。
福神漬けが天井近くまで飛んだ。
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