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🕊️第17章:泡の交差点(共鳴の粒 編)【終章描写】
星空の天井に浮かぶ泡の粒は、ゆっくりと頁のかたちに変わっていた。
光が言葉よりも先に広がり、記憶の奥にある沈黙をやさしく照らしている。
律と聖名は並んで歩いていた。
互いの足音はほとんど聞こえない。けれど、粒の震えがふたりの歩幅を重ねていた。
ねむるはその後ろで、泡棚の隙間をくぐるように静かに進む。
その尾先から、小さな記憶の粒がひとつ舞い落ちる。
それは、まだ誰にも触れられていない頁——“これからの気持ち”を記すための泡だった。
ふたりは、その泡に気づかないまま、扉の前に立つ。
未分類の棚。その奥には、過去でも未来でもない記憶が静かに息づいていた。
聖名が少しだけ顔を上げる。
律が視線を伏せたまま、ゆっくり手を伸ばす。
その瞬間——扉が開いた。
中には、色のない泡がいくつも浮かんでいた。
それらは、誰かが触れることで初めて意味を持つ粒。
ふたりは、同時にひとつの泡に手を添えた。
光が走る。
泡図書館の星空が少し明るくなる。
ねむるが目を細める。星と泡が混ざり、頁になろうとしていた。
「これは——これからの記憶?」
聖名が小さく言う。
律は答えず、ただ泡を見つめていた。
その粒の奥には、“まだ言っていない言葉”がゆっくり揺れていた。
泡は頁になった。
そして、その頁には文字がなかった。
あるのは、ふたりがこれから灯す感情の空白。
ねむるがその頁を棚に納める。
名前は、まだつけられていない。
それは、ふたりがこれから書いていく記憶だから。
図書館の空気が、そっと息を吐くように揺れた。
星空の向こうで、最初の泡粒がふたりの名前を記そうとしていた。