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戦いの翌日。庭先に腰を下ろすレンの横顔は、月明かりに照らされて静かに揺れていた。
その背に、リクオはゆっくりと歩み寄る。
「……昨日のこと、話がしたい。」
呼びかけに応えるように、牛頭丸と馬頭丸がすぐさま立ちはだかる。
「今、姫さんイライラしてるからやめた方がいいぜ、三代目。」(牛頭丸)
「そうそう! 姫さんの気持ちをさらに乱すだけだよ。」(馬頭丸)
だがリクオは二人を振り切り、まっすぐレンへ歩いた。
「嫌われても構わない。俺は、お前のことを知りたいんだ。」
レンはわずかに眉を動かし、冷ややかな瞳を向ける。
「……まだ言うの? 私は、お前が嫌いだってはっきり言ったのに。」
沈黙が落ちる。
けれどリクオは視線を逸らさなかった。
「俺にとってお前は……ただの“総大将の仲間”なんかじゃない。そう思ってるから、放っておけないんだ。」
レンは小さく息を吐き、視線を伏せる。
「……私は、みんなから愛される若とは違うんだよ。」
言葉はそこで途切れる。
レンは唇を噛み、そっぽを向いた。
拒むように放たれたその一言に、リクオは何も返せなかった。
ただ、遠く隔てられた姉の背中を見つめ続けるしかなかった。
リクオは言葉を失った。
返すべき言葉はいくつも浮かぶのに、そのどれもが彼女の前では軽すぎる気がした。
「……」
黙り込むリクオを横目に、牛頭丸がふぅと息を吐いた。
「ほらな、言っただろ。今の姫さんに余計なこと言っても無駄だぜ。」
「そうそう!」馬頭丸も腕を組む。「今はそっとしといた方がいいって。」
レンは二人の声を背に、ただ前を見据えていた。
その横顔は強がっているようで、どこか寂しさを帯びている。
ぬらりひょんは静かに煙管を鳴らした。
(……やれやれ。リハンの娘らしい気骨よのう。)
(じゃが――リクオ、お主の道もまた厳しいものになるぞ。)
その言葉は声にならず、夜の闇に溶けていった。
牛鬼が一歩前に出て、場を収めるように低く告げた。
「――本日のところは、ここまでに致しましょう。」
緊張がわずかにほどけ、夜風が吹き抜ける。
それでも、姉弟の間に横たわる距離は縮まることなく、ただ深く刻まれていた。