第4話:サンタ災難
雪まじりの風が町を吹き抜ける夜。
プレゼンターサンタの野間(のま)は、古びた赤いコートの裾を押さえながら歩いていた。
白髪まじりの髪を後ろに撫でつけ、眼鏡の奥の目は優しいが少し疲れている。
長靴は泥で汚れ、肩の袋は子どもたちの夢の重みでずっしりと沈んでいた。
「次は……あの角の家、だな」
地図を確かめながら門をくぐったその時、
「ワン!」と鋭い声。
茶色の柴犬が塀の影から飛び出し、野間は思わず尻もちをついた。
袋が転がり、包みが泥に落ちる。
「お、おいおい……サンタを追うとは、なかなか勇ましい犬だな」
慌てて包みを拾い直し、袖で泥をぬぐう。
その姿は、まるで本物の老サンタのように不器用で、どこかあたたかかった。
やっとの思いで玄関にたどり着き、チャイムを押す。
中から出てきたのは、眠そうな男の子。
「……サンタさん、ほんとに来たの?」
野間は笑い、帽子を直して包みを差し出す。
「もちろん。ちょっと犬と競争してきただけだよ」
少年の笑顔に救われるように、野間は深く息をついた。
帰ろうとしたその時、ポストに何かが挟まっているのに気づいた。
封筒には、子どもの字でこう書かれていた。
「サンタさんへ
いつも来てくれてありがとう。
でも、今年はお母さんが笑うプレゼントも持ってきてね。」
野間はその場で立ち止まり、手袋の中で封筒を握りしめた。
空を見上げると、遠くの空に赤い光がひとつ、ゆっくりと流れていく。
誰が飛ばしたのか分からないドローンの灯りが、雪の粒に反射して揺れていた。
「……サンタも、まだまだ学ぶことが多いな」
野間は小さく笑い、泥のついた靴でまた歩き出した。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!