テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
6話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
〈レトルト視点〉
大学の帰り道、少し細い路地裏に小さな店を見つけた。
普段なら素通りするような、古めかしい店構え。だけど、今日は不思議と足が勝手に店の前で止まっていた。
中に入ると、店内は懐かしい香りに包まれていて、棚には色とりどりの小物が並んでいる。その中で、一体の小さな人形が目に止まった。
「この人形……」
思わず手に取ると、柔らかく温かみのある感触が伝わってきて、胸がざわついた。
店の奥から、小柄なおばあちゃんがにっこり笑いながら近づいてくる。
「それはね、特別な人形よ。好きな人の気持ちを感じ取れるの。」
レトルトは半信半疑で眉をひそめる。
「……どういう意味ですか?」
おばあちゃんは優しく微笑んで、少し声を潜めるように言った。
「人形を握って、その人を思い浮かべながらキスをしてごらんなさい。そうすれば、相手の気持ちが分かるようになるのよ。ただし、絶対にそのことを相手に知られてはいけない。必ず自分のそばに置いておくのよ。
そしてね……この人形には、対になる人形がいるのよ」
おばあちゃんは静かに語りかける。
「もしその対の人形が、あなたと同じ気持ちなら、二人の想いが重なり、同じ感覚を共有することができるの。」
レトルトは半信半疑でおばあちゃんから人形を受け取った。
「その人形の使い方はあなた次第よ」
その言葉に後ろを振り向くと今おばあちゃんの姿も店も消えてなくなっていた。
レトルトは驚いたが不思議と恐怖はなかった。
レトルトは人形を家に持ち帰り、自分の部屋で
おばあちゃんに言われた通り好きな人を思い浮かべて人形にキスをしてみた。
(キヨくん….)
チュッ。
「……やっぱり、何も起きないか」
握った人形をそっと握り、肩をすくめた。
その瞬間――
ビリッ、と雷が走るような感覚が全身を駆け抜ける。
背筋が震え、呼吸が止まりそうになった。
胸の奥から、知らない感情が溢れ出してくる。
強い鼓動、熱を帯びた高揚感、どうしようもない焦り。
そして……「好きだ」という切実な想い。
「……っ、これ……キヨくんの……?」
自分の心とは違うリズムで流れ込んでくる感情。
それはあまりにも生々しく、あたたかくて、
――確かに誰かを想っている気持ちだった。
レトルトは夜ごと布団の中で人形を握りしめ、伝わってくる感情に耳を澄ませた。
――ドキドキ。
――焦り。
――苛立ち。
まるでキヨの胸の奥がそのまま流れ込んでくるようで、息が詰まりそうになる。
「やっぱり……好きな人いるんや。」
太陽のようにキラキラ笑うキヨが好きだった。
初めて見た入学式の日から、レトルトの心は奪われていた。
一目惚れだった。
同じ学部になっても、キヨの周りには常に人がいて、簡単に近づけなかった。
サークルでは大きなキヨの声はよく響いていて明るい気分になれた。
友人と肩を組んで楽しそうだった。
廊下ですれ違うたび、キヨの足音に心臓が跳ね上がった。
「声をかけたい……でも、無理だ」
小さく息を吐く。
近づきたい、でも近づけない。
レトルトの気持ちはいつも空回りしていた。
人形を握りしめる手がぎゅっと力を増す。
キヨと自分の想いが重なったら――そんな淡い希望に、胸の奥が熱くなる。
「……どうすれば、キヨくんに気付いてもらえるやろ」
人形に問いかけるレトルトの目には、切なさと、諦めきれない思いが混じっていた。
自分に向けられた気持ちならどれほど幸せだろう。
でも接点なんてほとんどない。
廊下ですれ違っただけで声すら掛けられないのに、
“俺だったらいいのに”と願うなんて、厚かましすぎる。
それでも――願わずにはいられなかった。
キヨの眩しい笑顔を思い出すたびに胸が疼く。
彼の気持ちが誰かに向いていると分かるたび、
その“誰か”が自分であってほしいと切実に思ってしまう。
「俺なんかが……そんなはずないのに」
小さな声で呟きながら、人形を抱きしめる。
その瞬間、心臓が強く跳ねた。
――まるで、向こうからも同じ強さで想いが押し返されてくるみたいに。
次の日
レトルトの心臓が跳ねた。
「え……な、何?」
何もいないはずの空間から、そっと頭を撫でる感覚が伝わってきた。
柔らかく、あたたかい感触――誰かが自分の頭に触れている。
レトルトの手がふるえる。
「え……え……今……誰……?」
心臓が張り裂けそうで、呼吸も荒くなる。
頭の中は混乱と興奮でぐちゃぐちゃだ。
おばあちゃんの言葉がよみがえる。
『対になる人形が、同じ気持ちなら感覚が共有できる』
もし……あれが本当なら、さっき触れたのは――キヨくん?
撫でられた柔らかい温もりに、レトルトは思わず顔を赤らめ、息を呑む。
「ち、違……そんな……まさか……」
心の奥底から湧き上がる動揺と、どきどきが止まらない。
混乱しているのに、なぜか嬉しい。
「俺の対になる人形をキヨくんが持ってるってこと?」
パニックと期待と、胸の高鳴りがレトルトの心の中で渦巻くいていく。
つづく
コメント
2件
ヒェェ、、続きが気になり過ぎます、、