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月曜日の朝
オフィスに足を踏み入れる感覚が、今までとは全く違っていた。
もう周囲を伺って怯える必要も、嘘の「作戦」を練る必要もない。
「おはよう、結衣」
「おはようございます、徹さん」
すれ違いざま、自然に名前を呼び合う。
それだけで、フロアのあちこちから「おはよー!」「今日も仲良いね」なんて声が飛んでくる。
美佐子さんも、自分のデスクでコーヒーを飲みながら、私たちを見て少しだけ口角を上げた。
(本当に……本物になったんだ)
じわじわと込み上げる幸せを噛み締めながら、私は自分の業務に取り掛かった。
けれど、そんな穏やかな空気も束の間。
午前の会議が終わった頃、上司の課長が私たちの元へやってきた。
「高橋、田中。例の新規プロジェクトのリーダーだが、二人にお願いしたいんだ」
それは、部署を挙げた大規模なキャンペーンの案件だった。
「二人で?」
「ああ。高橋の統率力と、田中の細やかなサポート。今の君たちなら、最高に息の合った仕事ができると思ってね」
思わぬ大役に、私たちは顔を見合わせた。
プライベートだけでなく、仕事でも最強のパートナーになる。
それは嬉しい反面、プロとしての厳しさも求められるということだ。
「……承知しました。精一杯、頑張ります」
徹さんがキリッとした表情で答える。
その横顔は、恋人の時の甘い顔とは違う、頼もしい「高橋先輩」の顔だった。
課長が去った後、徹さんが私のデスクに歩み寄ってきた。
「結衣。仕事中だから、あんまり甘やかせないけど…公私混同って言われないくらい、完璧にやり遂げよう。……もちろん、疲れた時は俺が全力で癒すから」
最後の一言だけ、周囲に聞こえないくらいの小声で囁かれる。
「……はい! 私も、徹さんの足を引っ張らないように頑張ります」
「足を引っ張るなんて、一度も思ったことないよ。…じゃあ、会議室で打ち合わせしようか」
会議室へ移動する途中、誰もいない廊下で、徹さんが不意に私の手を一瞬だけギュッと握った。
「徹さん……!」
「あはは。ごめん、我慢できなかった。…今日から仕事の相棒でもあるなんて、ちょっと贅沢すぎて」
そう言って笑う徹さんの瞳は、未来への期待に輝いている。
けれど、そんな私たちの前に、新たな影が忍び寄っていた。
「───え、久しぶり!」
会議室の前に立っていたのは、他部署の華やかな女性社員。
彼女は徹さんの姿を見るなり、親しげに彼の腕に手を絡めた。
「相変わらずカッコいいね。今回のプロジェクト、私も広報として参加することになったから。…よろしくね、徹くん?」
その親しげな呼び方に、私の胸がざわりと波立った。
美佐子さんとは違う
もっと同年代に近い、洗練されたライバルの登場。
「本物」になった私たちに、新たな試練の予感が漂い始めていた。
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おまる