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『・・・ですから・・・こういうことは公には出てきませんが、最近のエンタメ業界でもっとも需要性があるのが「原作IP」です、「原作IP」とはさまざまなコンテンツの基盤となる「物語資産」いわば「種」のことです』
「はぁ・・・」
桜子は自宅のパソコンで、画面の向こうの「女性漫画編集長の阿部」の話を力なく聞いていた
―今日もキレッキレだなぁ~・・・―
彼女達はまさにコンテンツビジネス界を戦っている企業戦士に見える
彼女達の元には女性コミカライズ原作コンテストに入賞したり、Web小説投稿サイトで厳しい争いを勝ち抜いてきたランカー達の拾い上げ作品や、どこかの出版の営業が置いていった優れた企画書が勢ぞろいしている
だから、そんな中で桜子に声をかけてもらえるのはありがたい・・・ありがたいと思わないといけないのだけど・・・
阿部は続ける
『紙の小説、web小説、動画シナリオ、企画案のように、一つの完結した物語がすべて「原作IP」となり、映画やドラマ、ゲームなど他の形態に拡張される以前の段階の、「オリジナルコンテンツ」の事を意味します』
桜子は話を聞きながら、モニター会議ももう二時間を過ぎて、色々考えるのが辛くなっていた、たしか編集長の彼女は二十七歳といった、自分が二十七歳の時は何を考えていただろう?・・・何も考えていなかった気がする
『今や、コンテンツ過剰供給の中で生じた素材の枯渇感は深刻です、ありふれた設定やストーリーはほとんど消費し尽くされたと言えるでしょう、それ故に読者の新しい物語を求める目は厳しくなりました・・・一方で、制作側は毎年数十本の新作を量産するあまり、斬新な素材の枯渇を感じています』
「それは・・・なんとなくわかるわ」
桜子はさえない声で阿部に返事した
『脚本を書いて新しい世界観を完全に一から作るには時間もお金もかかります、その一方、人気のある原作IPを取り入れれば、基本的な世界観とストーリーがすでに整った状態からスタートできます、人気のある物語は書籍だけではなく、漫画、ドラマ、映画、ゲーム、グッズなど多様な形で展開できるという意味です、すでにファンを抱えた「原作IP」を異なるメディアを通じて、アレンジを加えることで、ファンの好奇心を高め、満足感を与えるため、上手くやれば無限に拡張可能です』
「そ、そうね・・・」
そこからもしばらく阿倍の説教は続き、最後に桜子の出したスピンオフ企画案「ワンナイトの彼は御曹司だった件」に対して「ワンナイト」や「酔った勢い」などでヒーローとねんごろになる設定は、一部のいやらしい系のTL小説にはチラホラ見られるかもしれないが
大衆の一般女性誌ではヒロインの身持ちが悪く映り、共感や応援してもらえなくなるので商業化は厳しいと、またバッサリ一刀両断された
―う~ん・・・もうここで書ける気がしない・・・―
それから桜子は企画を診てもらった礼を言って、今日の漫画原作企画会議は終了となった
モニター会議用の服を脱いでシャワーを浴びてメイクを落とす、着古した部屋着に着替え、買ったばかりのイケアのソファーにドサリと座り込んだ
そして、タブレットのマーカー修正が入ったGoogleドキュメント画面を見て、キッチリ二十分、ブツブツ改稿された内容に対して文句を言った
フゥ・・・「求められているものは分かってるんだけどな・・・」
もともと陰口は言えても、人に面と向かっては言えない弱気陰キャ人間の桜子が、真の強気人間「柚原希実」の書いたようなキャラをマネして書いてもどこかシラけて見える、そこを阿部は見抜いているのだろう
お腹が空いたので冷蔵庫の前に行ったら、キッチンに何をしにきたのか忘れてしまい、コップに水をくんでまたソファーに戻った時LINEの通知音が鳴った
キンコン♪
「あっ!シオン君だ!」
桜子は微笑んだ
コメント
2件
桜子いよいよ厳しくなってきたかな😵
うわあ、この回すごく胸に刺さりました…。桜子さんの「求められているものは分かってるんだけどな」って呟き、クリエイターあるあるすぎて泣ける。阿部編集長の原作IP講釈も業界のリアルが詰まっててゾクゾクした。最後のシオン君からのLINEで桜子さんが微笑むところ、やっと救いが来た感じでじんわりきました!次が気になる…!