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#TL
瀬名 紫陽花
14,533
#BL
多 動 症 .
30
だけど、今も手元からじりじりと伝わってくる彼の体温は、決して嘘をつかない。
目の前にいるのは、可愛い後輩なんかじゃない
紛れもない、獰猛な男の人だ。
彼の身体からは、どこか甘くて
そしてひどく危険な大人の匂いが混ざり合って漂っていた。
◆◇◆◇
翌日の午後───
社内の、人通りの少ない自動販売機の前で、何を買おうか迷って立ち尽くしていると
後ろから「さっちゃん」と聞き覚えのある声が降ってきた。
驚いて振り向くと、そこにはいつもの完璧な佇まいの、叶人くんが立っていた。
「か、叶人くん……っ!」
咄嗟に出てしまった私の過剰な反応に、微かな戸惑いを感じたのか
叶人くんは一瞬だけ綺麗に眉をひそめた。
だけど、すぐにいつもの優しい営業スマイルを浮かべた。
「はは、急に後ろから声を掛けたから、びっくりさせちゃった?」
優しく、鼓膜を包み込むように語りかけてくれる彼の声音は、昔から変わらずに心地よい。
けれどその裏で、私の胸は昨日とは違う意味でバクバクと激しく高鳴り始めていた。
昨夜の、佐藤くんからの突然の熱烈な告白。
あれからずっと心が落ち着かないままだ。
叶人くんへの気持ちが自分の中でまだ綺麗に整理できていないうちに
「佐藤くん」という圧倒的な男の存在が割り込んできたことで
私は自分自身の恋愛感情に対して、急に自信を持てなくなってしまっていた。
「だ、大丈夫!叶人くん、今からお昼?」
私は動揺を悟られないよう、それとなく平静を装って質問を返した。
「うん。さっちゃんもまだなら、近くのカフェにでも行かない?」
「カフェ?」
「さっちゃんの、大好きな蜂蜜パンケーキもあるよ」
「えっ!い、行きたい……!なんていうお店なの?」
「『カフェミント』ってお店」
叶人くんが口にしたのは
会社から徒歩五分ほどの場所にある、老舗洋食店の名前だった。
「えっ、そこ、ちょうどSNSで見かけて気になってたところだよ……!」
あのお店の、フォークを入れたらシュワッと溶けるようなふわっふわのパンケーキが
最近話題になっていたのを思い出した。
「ふふっ、ならちょうど良かった。混まないうちに、早く行こっか」
叶人くんはそう言って嬉しそうに微笑むと、ごく自然な
当たり前のような動作で私に大きな右手を差し出してきた。
掌を上に向けたその手に、私の心臓がまたしても大きく跳ね上がる。
「て、手は…大丈夫だよ……?ほら、社内の人にこんなところで繋いでるのを見られたらまずいだろうし……」
私の拒絶に、叶人くんは何の躊躇いもなく、綺麗な笑顔のままさらりと言ってのけた。
「じゃあ、周りから見えてないところだったら繋いでもいいってこと?」