テラーノベル
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相変わらず城の中は暗く、時間は分からなかった。
そういえば、城には時計がなかった。
少なくともレウは見つけられなかった。
実際探してみたのだ。
かなり探した。
廊下も。
部屋も。
食堂も。
階段の踊り場も。
探した。
だがなかった。
一つも。
「なんで?」
結局、城主本人に聞くことにした。
らっだぁは本を読んでいた。
大きな窓のない部屋。
分厚い本。
静かな空間。
なんだかいかにもヴァンパイアらしい。
「時計?」
「うん」
らっだぁは少し考えた。
「いらないから」
「いるでしょ」
「いらないよ」
「なんで」
「時間が分かっても意味がないから」
レウは黙った。
反論できそうでできなかった。
らっだぁは本を閉じる。
「困る?」
「困る」
「どうして」
「今がいつなのか分からない」
「今だよ」
「そういうことじゃない」
らっだぁは少し笑った。
最近よく笑う。
本人は気付いていない。
たぶん。
「命令」
突然だった。
レウは顔を上げる。
「何」
「こっち来て」
また変な命令だと思った。
けれど従う。
らっだぁの前まで歩く。
すると、
ぽん。
頭に何かが乗った。
「……何これ」
本だった。
分厚い。
重い。
とても重い。
「落とさないで」
「なんで?」
「命令だから」
意味が分からない。
レウは本を頭に乗せたまま固まった。
らっだぁは満足そうだった。
「何してるの俺」
「立ってる」
「見れば分かる」
「偉いね」
「子供扱いするな」
らっだぁが少し吹き出す。
本当に楽しそうだった。
レウは不満だった。
完全に遊ばれている。
「もういい?」
「だめ」
「なんで」
「面白いから」
それから十分ほど経った。
「…まだ?」
「まだ」
「頭痛い」
「低気圧?」
「そういう問題じゃない」
らっだぁは笑う。
珍しく、声を出して。
レウは少し驚いた。
今まで見たことがない笑い方だった。
楽しそうだった。
心の底から。
「……そんなに面白い?」
聞く。
らっだぁは少し考えた。
それから。
「うん」
と頷いた。
「なんで」
しばらくの沈黙が続く。
そして、
「誰かと話してるから」
レウは固まる。
らっだぁ自身も、言ってから気付いたような顔をした。
部屋が静かになる。
さっきまで笑っていた空気が、少しだけ変わる。
「……そっか」
レウはそう言うしかなかった。
何百年。
どれくらいかは知らない。
でも。
この城で。
ずっと一人だったのだ。
広い廊下。
広い部屋。
広い食堂。
広い城。
全部一人。
レウは想像する。
想像しかできない。
でも。
少しだけ苦しくなった。
らっだぁは視線を逸らした。
珍しかった。
「忘れて」
小さな声。
「やだ」
思わず即答する。
らっだぁが瞬きをする。
「なんで」
「俺が覚えてたいから」
らっだぁは何も言わない。
レウも何も言わない。
しばしの沈黙が落ちる。
そして、
ごとっ。
頭の本が落ちた。
「あ」
「落とした」
「らっだぁのせいでしょ」
「命令失敗だね」
「知らないよ」
らっだぁがまた笑う。
レウもつられて笑う。
静かな部屋だった。
でも。
前とは違う静けさだった。
誰かがいる、優しい静けさだった。
その日の夜。
レウは部屋へ戻る前に振り返った。
長い廊下。
暗い城。
静かな空気。
最初は怖かった。
広すぎて。
誰もいなくて。
冷たくて。
でも今は少し違う。
この城には、
青い瞳の変なヴァンパイアがいる。
変な命令ばかりする。
笑ってと言う。
死ぬなと言う。
本を頭に乗せる。
意味が分からない。
本当に。
けれど。
レウは少しだけ思った。
この城は、
もう空っぽじゃないのかもしれない。
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青槍 未来
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コメント
4件
分厚い本を頭に乗せて十分立ってられるレウさんがすげぇ…
