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「えぇー! じゃあ何やって時間潰すって言うのよぉぅ! 他に何か名案でもあるって言うのん? なら言って頂戴ん!」
コユキの言葉にイライラが混ざる、これはフンガー一歩手前だ、そう思った善悪は秒でなく瞬、いいや刹那(せつな)で返す。
「クイズとかどうでござろ? 結構得意だったじゃん!」
アスタロトも追随した、それほど暴君コユキのフンガーを恐れているのであろう。
「おお、クイズ良いじゃん! な、コユキ次はクイズで勝負だあぁ~!」
当のコユキはやや不満気味に答えるのである。
「ええっクイズぅ、なぞなぞや脳トレだったらフェアな勝負だと思うんだけどさぁ、クイズってさ、出題者が偶然知っていただけのニッチな知識をひけらかすだけの勝負じゃないのよぉ! 広く浅くなんて知性の勝負としては成立していないとアタシは思うんだけどぉ! どう?」
私、観察者的には頭とりの方が余程知性の勝負としてどうなの? であったがいつも通り伝える術(すべ)は無く、自分の無力さに臍を噛む(ほぞをかむ)思いであった。
トシ子が無表情で言った。
「なんじゃ、逃げるのかえ?」
コユキも善悪バリに刹那で答える。
「あ? 逃げやしないわよ! クソ婆(ババア)めっ! 勝負勝負、クイズ勝負よおぉぅ!」
こうして出題者完全有利なクイズ大会、幸福寺暇つぶしリーグと言う泥仕合が開催されたのである。
最初の出題者は善悪である。
第一問、ババンっ!
「ええっとね、んじゃあね、手塚先生の特撮物の中から出題ですっ! テレビ特撮の名作、マグ○大使の息子はガム、ですが…… 奥さんの名前は何でしょうか?」
「モル! 因み(ちなみ)に笛を吹くのはマモル君よね! よっしゃ! 次は誰だい? ほら来いって、来いって来いよぉ!」
続いてクイズを出題したのは案の定アスタロトであった。
「良し行くぞ! ジャカジャンっ! 私がサウルに取り憑いて中東を収めたのは紀元前千年位です…… がぁ~、同じ頃、中国、中華で東夷(とうい)を次々倒して版図(はんと)を広げ続けたのは…… くうっ…… だめかっ! 昭王(しょうおう)ですが! 彼の奥さんの名前は? 何でしょうか!」
「房后(ぼうこう)!」
引っ掛けにも騙されず、決死の覚悟を顔に浮かべつつ正解に辿り着いたコユキに対して続け様に問い掛けたのは、実の祖母、トシ子であった。
「汝(なんじ)に問う! 日本が真珠湾攻撃を成功せしめた後、戦域拡大を危惧して開発を命じ、敗戦濃色となって開発放棄した陸上偵察機、十八式陸上偵察機の愛称は、一体なんぞや?」
これは幾ら何でも渾身(こんしん)の問い掛けであろう。
ここまでニッチな名称なんて、当時から航空機オタクだった人しか知らないんじゃないか? そんな、攻めすぎな問題であったのだが……
「景雲(けいうん)! 木更津の流れ星ね! 二号機は本来の基準値を超えていたらしいけど…… 悲しいわね、戦争、敗戦、無条件降伏、航空機の歴史が四十年遅れてしまったのは、奇(く)しくも枢軸国(すうじくこく)の敗戦が大きな原因であることは否めないわね……」
なんだこのデブ、ネットで知ったのだろうが、生きる為に必要ないおまけの知識に詳しすぎるんでは無いだろうか!
意外にも次に出題したのは、お馴染みのカタカナ喋りのオルクス君であった。
「36.94、139.25」
コユキはほんの少しだけ首を捻ってから即座に答えた。
「残念だわオルクス君、その座標だったら、メルボルンから随分西の海の中よ…… 直近の都市、キングストンから見ても海の先、西に二十キロ程度の沖なんだよね…… ゴメンね、賢(かしこ)過ぎて……」
善悪やトシ子がオルクスの失敗を慰めてくれる、優しい。
「オルクス君、ナイスでござるよ、ほんの時間潰しでござるからなぁ」
「本当じゃぞい、わしゃそんな伴天連(バテレン)の座標なんか分からないからのぉ、尊敬じゃぞい! ヤギ頭ちゃん!」
褒めて貰ったというのに、あろう事かオルクスはその一切を無視してコユキに言ったのである。
「バッカ、ナンイ、ジャナイ、ヨ! ホクイッ!」
コユキも答える。
「ああー、なるほどね!」
その後、数秒悩んで答えたコユキの声はこうである。
「北緯だったら尾瀬じゃないの? 遥かなオーゼェー! ってやつでしょ? どう! 当たったぁ?」
「アタリ、ダヨ…… ソコ、バアル、ノ、クラック、ダヨッ!」
「ああ、そうなのん、へぇ~! そこがバアルのクラックだったんだねぇ、てかっ、え、え、エエっ!」
本堂に居た皆だけでなく、広縁に居たセピア、境内から近づいてきたリエとスカンダまで声を揃えてビックリ仰天な感じで叫んでしまうのであった。
「「「「「「「「「「ま、マジでっ!」」」」」」」」」」
「ウン」
マジ…… らしかった。