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仕事で県外。ホテルの一室、夜。
柊真はベッドに腰掛けたまま、スマホを耳に当てている。
――コール音。
――出ない。
もう一度。
それでも出ない。
「……」
無口な柊真が、珍しく眉を寄せる。
三度目。
ようやく繋がった。
『……あ、もしも――』
その瞬間、電話越しに聞こえてきたのは
男の歌声と歓声。
『やば……このステージ最高……』
明らかにデレた声。
完全に“オタクの桜”。
柊真の目が、一気に冷える。
「……桜」
低く、名前だけ。
『え、あ、柊真!?ごめん!今ちょっと――』
「何見てる」
質問じゃない。
詰問。
『KPOPのライブ映像で……推しが今日――』
最後まで聞かない。
「消せ」
即断。
『え!?』
「今すぐ」
電話越しなのに、圧が重い。
『で、でも……』
一拍。
柊真は、声のトーンを落とす。
ゆっくり、低く、耳に絡む声。
「……俺がいない間」
「他の男見て、そんな声出すな」
桜の息が詰まるのが、電話越しでも分かる。
『……そ、そんなつもりじゃ……』
「分かってる」
否定はしない。
だから余計に逃げられない。
「でも、俺の恋人が」
「俺以外に、あんな声向けるのは嫌」
一瞬、無言。
そして、決定打。
「……桜」
「今、俺の声だけ聞け」
低音。
近い距離で囁いてるみたいな錯覚。
「画面、閉じろ」
「目、閉じて」
『……っ……』
桜の指が動く音。
映像が止まる。
「よし」
その一言だけで、胸が締め付けられる。
「今、どこにいる」
『……ソファ……』
「一人?」
『……うん……』
ほんの少し、声が柔らぐ。
でも独占は解かない。
「……俺が隣にいるつもりで聞け」
息を吸う音すら、わざと聞かせる。
「桜」
「そんな顔、俺の前だけでいい」
桜の返事が遅れる。
『……無理……声だけで……』
「落ちてる?」
小さく、笑いを含んだ声。
『……うん……』
「知ってる」
低く、甘く、逃がさない。
「県外でも、電話でも」
「桜は俺の声でそうなる」
最後に、囁く。
「帰ったら」
「他の男の話、禁止」
『……は、はい……』
「いい子」
その二文字で、完全に終わり。
通話が切れたあと。
桜はスマホを抱えたまま、ソファに沈み込む。
——KPOP?
もう頭に残ってない。