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夜。柊真はまだ県外。
仕事終わり、ホテルに戻ったばかり。
スマホが鳴る。
画面には「桜」。
……自分からかけてきた。
柊真は少しだけ目を細めて、通話に出る。
「……どうした」
『あ、起きてた?』
その声。
いつもより、少しだけ甘い。
「……今、何時だと思ってる」
『えー、声聞きたくなっただけ』
軽い。
無邪気。
でも——
柊真はもう気づいてる。
「……桜」
「それ、分かってて言ってる?」
『え?なにが?』
完全に無自覚。
桜はベッドに横になって、スマホを耳に当てる。
同棲してから覚えた、柊真が一番落ちる距離感。
『今日ね、一人で寝るの久しぶりでさ』
『静かすぎて……ちょっと寂しい』
吐息混じり。
柔らかい声。
柊真の指が、スマホを握り直す。
「……やめろ」
低い声。
『え?なにを?』
「その話し方」
桜は少し笑う。
『えー、普通だよ?』
『柊真が意識しすぎなんじゃない?』
——煽り、成立。
一拍。
電話越しに、深く息を吸う音。
「……桜」
名前を呼ぶ声が、いつもより低い。
「今、どんな顔してる」
『え、な、なんで?』
「答えろ」
命令。
『……えっと……ベッドで、横になって……』
「目は」
『……閉じてる』
その瞬間、柊真の理性が一段落ちる。
「……最悪」
小さく呟いてから、続ける。
「自覚ないまま、そんな声出すな」
「俺が我慢してるの、分かってないだろ」
『……そんなつもりじゃ……』
「分かってる」
「だから、余計に質が悪い」
声が、ゆっくりになる。
逃がさないトーン。
「……桜」
「今、俺の声しか聞こえないだろ」
『……うん……』
「その状態で」
「俺を煽るな」
桜、ようやく事態を理解する。
『……あ……ご、ごめ……』
「遅い」
即答。
でも、声は怒ってない。
むしろ、静かに甘い。
「……覚えとけ」
「声は武器だって」
最後に、低く囁く。
「帰ったら」
「今の分、ちゃんと責任取らせる」
『……それ……』
『脅し……?』
「警告」
通話が切れる。
桜はスマホを抱えたまま、ベッドに転がる。
——やった。
完全に、やった。
一方、ホテルの柊真。
「……ほんとに、無自覚」
そう言いながら、
次の帰りの予定を、早めた。