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(――――って、まずい。多分、このまま行ったらまずいって!)
私は次の日目が覚めてから、第一声を噛み殺し、心の中で叫んだ。
「待って、待って、もしかして今日?今日なの?聖女の歓迎会って奴!?」
確か、結構な攻略キャラが集まる夜だった気がするから、ここを逃すと、エトワール・ヴィアラッテアに全ての攻略キャラを攻略されかねないと。そもそも、彼女が攻略という方法で、攻略キャラを惑わせているのか分からないけれど、何というか、このまま平和ボケしながら過ごすのは非常にまずいと思った。
かといって、皇宮に忍び込めるような度胸も頭もない。
「いや待って……パーティーは、別荘だったっけ?」
今回はどうか知らないけれど、確か、私の歓迎会は、別荘で行われていたような気がするのだ。となれば少しぐらい警備が手薄? そう思ったけれど、一応皇族が所有している土地。そんなわけがない。
朝から頭が痛くなってしまって私は落ち着きを取り戻せなかった。今の生活が嫌なわけでもないし、平和が続けばいい。でも、災厄がまた起きてしまっている世界ということもあって、落ち着いてはいられない。あの後、モアンさんとシラソルさんが寝静まった後、森には行って、魔物を倒してきたのだが、魔物は夜になるとさらに凶暴になるのか、苦戦はしなかったけれど、怖くはあった。断頭台で、首を切り落とされるよりかはマシだけど、久しぶりの魔物との遭遇に、恐怖を抱かずにはいられなかった。けれど、こうやって私が倒すことで、モアンさんやシラソルさんに危害が及ばないのならそれでいいと思った。魔法のことは内緒にしているけれど。
けど、昨日の夜も、可笑しな気配を感じていた。何処からかみられているようなそんな感覚。神経を研ぎ澄まし、魔力感知をしようと思ったが、どうにも上手くいかなかった。人間じゃないのかも知れない、そう思ってしまうほど魔力が一向に引っかからないのだ。アルベドとか、ブライトでもその域に達せないんじゃないかと思った。実際、どうかは分からないけれど。
でも、それはおいおい解明していけばいい話であって、今重要なのは、エトワール・ヴィアラッテアよりも先に、いや後でもいいけれど、取り返しのつかなくなる前にどうにか行動を起こしたい。もう既に手遅れだったら仕方ない……いや、諦めたくないけれど。
「ステラー起きているかい、ステラ―」
「は、はい。起きてます。ぴんぴんしてます!」
そう答えると、下の方からくすくすとモアンさんの笑い声が聞えてきた。変なこと言った自覚はあった。まあ、笑われるだけですんだんだからいいや、と私は楽観的にとらえて、下へ降りる。机には、朝ご飯が並べられており、パンと瓶に入ったマーマレードのジャムが置いてある。それとミルク。
「ステラ、さっき大きな声出していたけど、何かあったのかい?」
「いや、別に何もない……いや、ちょっと怖い夢見てたかもです。でも大丈夫なので、ご心配なさらずに!」
私はそういって慌てて手と首を横に振った。それはもう全力で。
モアンさんはまたポカンとした顔で私を見ていたけど、納得してくれたようで、それならいいんだけど、とモアンさんは暖めたミルクを飲んでいた。私もこれからホットミルクを飲もうかなあ、何て考えながら、パンにマーマレードジャムを塗る。少し、焦げているけれど、口の中でさくっとした食感が広がる食パンは絶品だった。エトワールだった頃の聖女殿で出される料理とはまた違った素朴な味が最高にいい。
「そうだ、ステラ。あんたに良いものかってきたのよ」
「いいもの、ですか?」
モアンさんは何か思い出したようにそう言うと立ち上がって家の奥の方へ入っていった。とてもルンルンとした様子で、そうして戻ってくると、モアンさんの手には、可愛らしいドレスのようなワンピースのようなものが握られていた。
「ステラに似合うと思って買ってきたのよ」
「えっ、そんな豪華なもの……た、高かったんじゃないですか!?」
白を基調としたドレス。そこに、オレンジの花の形をしたリボンが添えられており、とてもただのワンピースには思えなかった。いや、本当にドレス。下級貴族が着ててもおかしくないドレスだった。だって、今の私は平民と一緒で。
私がそんな風に目を丸くしていると、モアンさんは嬉しそうにニコニコと笑っていた。
「ふらっと立ち寄ったお店でね、優しい店主のお兄さんが進めてくれたのよ。何でも、占いとかもやっているとかいっていてね。それで、私に娘のような存在がいることを当てて!ふふ、それでこのドレスをねって」
「え、え、ただ……で?」
「ただじゃなかったけれど、限り無くただに近かったわ。林檎を買うような値段よ」
「……詐欺……じゃ、というか、その人怪しすぎませんか!?」
椅子を後ろにひいて私は思わず叫んでしまった。だってどう考えても、その人が怪しすぎるから。
(何、占いもやっている男の人!?そして、私の存在も当てて!?ドレスをただに近い値段でくれる人って何!?)
恐怖じゃん!
私は、モアンさんの顔とドレスを交互に見た。モアンさんは優しいし、確かに人を信じそうな人だけど、これは不味いんじゃと思った。まず、私の存在が当てられているっていうことが危険である。その人を突き止めたいが、きっとその場所に行ってももういないんだろうな……ってそんな気がした。ああいう人達の逃げ足は以上だから。
(でも、ドレスを買わせたってこと、もしかして何か意味がある?)
誰かが、私の援助をしている?
そんな気さえした。でも、そんな都合のいいことがあるわけないと、私はそれをすぐに否定した。誰が、そんなことするんだと私には見当がつかなかったから。だって、皆世界がまき戻ったことで、記憶を忘れているんだし、私に協力してくれる人なんていないだろうから。
兎に角、こんな怪しい人からの贈り物みたいなもの、受け取れるわけ……
そう思ってモアンさんの方を見れば、いつも以上に目を輝かせて私を見ていた。
「どう、ステラに似合うんじゃない」
「ええっと……」
「私達夫婦にはね、子供が出来なかったの。娘が出来たら可愛い服着せたいと思っていたし、息子が出来たら強くたくましく育って欲しいと思っていたのよ」
「……」
モアンさんはそう言うともう一度優しく微笑んだ。
若干押しつけられているような気がしたけれど、でも、それが本音なんだろう。邪心のない。そう言えばモアンさん達に子供は? と思っていたので、その謎が解けて、スッキリもしている。そう言うことだったのか……とか。
グランツに優しくしていたのもそういう意味もあったのかなあ、何て深読みしてしまった。ただの親切心にそれを考えるのは邪道だと思っているんだけど、考えてしまう自分もいて。
そんなこと言われたら着るしかないじゃないかと私は、ドレスを受け取った。
着替えてくるので、とミルクを飲み干して自分の部屋に戻る。新たに置かれた鏡の前で私はそのドレスをあわせてみた。やっぱり、平民が着るようなものじゃない気がする。これを持って帰ってきたモアンさんの気持ちとかも、周りの視線とかも気になってしまう。
でも――
「すっごく綺麗……」
今の体に合っているようなそんなドレスだった。
鏡に手を当て見惚れていれば、ピン、と私はあることを思いついた。貴族は、他人様の顔をあまり覚えていないようだし、これだけ綺麗な……って自分でいうのもあれだけど、容姿の人間が混ざっていても、別に問題ないんじゃないかと。貴族の令嬢に見せかければ……そんな考えが頭をよぎる。バン、と私は鏡に手を当てた。
「も、もしかして、このドレス着ていけば、聖女歓迎会に忍び込める……んじゃない!?」
それは、バカで、でも名案だった。