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「リリー。明日、僕と一緒に町へ出よう。キミに必要なものをすべて買い揃えるんだ。……もう何も、我慢する必要はないからね?」
あえて〝リリアンナ〟ではなく、幼い頃に彼女が名乗った〝リリー〟という愛称で呼び掛けると、リリアンナが懐かしそうに一瞬目を細めた。だが、すぐさま不安そうに瞳を揺らせる。
「でも……」
心配そうにこちらを窺うリリアンナに、ランディリックはあることに思い至ってハッとした。
「金の心配なら要らないよ? 僕はリリーの後見人になったからね。……キミの領地からの収益もあらかたは僕が管理することになる。ゆくゆくはキミと相談しながら領地経営を考えたりしなきゃいけなくなると思うけど……明日の買い物の資金はウールウォード家から出ると思って?」
無論、リリアンナのためとはいえ、ウールウォード伯爵家の資産を使うつもりはない。実際のところ、叔父夫婦のやり方でどのくらいの収支になっているのかまだ把握し切れていないし、出来れば潤沢に金がある状態でリリアンナにウールウォード家を引き渡してやりたいと思っている。
事実はどうあれ、他者におごられるのではないと思わせることが重要だと考えたランディリックの言葉に、リリアンナがやっと肩の力を抜いて小さく頷いてくれた。
***
翌日の午前中、ランディリックとリリアンナは、王都エスパハレの市街地へ赴き、衣服や装飾品、日用品や書きもの具などをいくつか買い揃えた。
リリアンナは店頭で並ぶ品々に戸惑いながらも、時折嬉しそうに微笑んだ。
従者も引き連れての買い物だったので、荷物は彼らが持ってくれるのだけれど、リリアンナはちょいちょい手提げかごを自分で持とうとしたり、控えめに値段を気にしたりする。
その姿が、彼女が両親を失ってから十二歳になる二年間の間、どんなふうに暮らして来たのかを垣間見せるようで、どこか痛ましくもあった。
「リリー。今からキミが過ごす予定の僕の領地ニンルシーラは辺境だ。王都ほど潤沢にモノがないからね。必要なものはなるべくここで買うようにしておかないと、下手したら取り寄せるための経費が余分に掛かるようになってしまうよ?」
ランディリックは彼女のその慎ましさに胸を締めつけられつつ、必要なものは遠慮なく選ぶよう誘導した。
その甲斐あって、当面の間リリアンナが生活に困らない品々が揃えられた。
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