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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第92話:最強のセキュリティ陣形、完成〜もふもふ統合軍と、完璧な防衛線〜
俺が山ごと買い上げた、北海道十勝地方の限界集落。
春の陽光が優しく降り注ぐ古民家の縁側は、今日も致死量を超える『もふもふ』のオーラで満たされていた。
「ふぁぁ……。お日様の匂いがして、最高ですねぇ」
小春ちゃんが、巨大なヒグマのフワフワのお腹をクッション代わりにして、気持ちよさそうに目を閉じている。
ブラッシングでスッキリとした体長3メートルの巨大ヒグマは、俺と小春ちゃんの極上の『背もたれ』として完全に定着していた。
太陽の光をたっぷり吸い込んだその茶色い毛並みは、干したての高級羽毛布団のように温かく、そして柔らかい。
俺の膝の上では、純白の神獣シロがスライム状に液状化して喉を鳴らしている。
庭の青々とした新緑の芝生の上では、キタキツネの兄弟、コン吉とコン次郎が、春の蝶々を追いかけて無邪気に飛び跳ねていた。
ジンバルにセットされたスマホの画面では、三百万人のリスナーたちがこの高解像度の『平和な日常』にどっぷりと浸かっている。
『ヒグマの背もたれ、ガチで気持ちよさそう……』
『シロ様のお餅みたいなフォルム、画面越しに触りたい』
『キツネ兄弟の肉球が芝生を踏む音がASMRすぎる』
『世界で一番平和な空間だな、ここは』
俺は縁側で腕を組み、ヒグマの巨大な背中に体重を預けた。
だが、元・陸上自衛隊需品科としての俺の『戦術的警戒網』は、春の陽気の中でも完全に眠ってはいなかった。
ブゥゥゥン……。
古民家へと続く一本道から、古びた軽トラックのエンジン音が聞こえてきた。
俺が山を買い上げてから、悪徳な不動産業者は寄り付かなくなったが、この手の過疎化した村には別の『招かれざる客』が現れることがある。
「……不法投棄の業者か」
俺は目を細めた。
軽トラックの荷台には、ボロボロになった廃タイヤや、錆びたトタン板などの産業廃棄物が山積みにされている。
誰もいない山奥にこっそりゴミを捨てようとする、悪質な輩だ。
「よし、俺が注意してくる。小春ちゃんはここで――」
俺が立ち上がろうとした、その時だった。
『ミャウ』
膝の上のシロが、俺の胸にポンと前足を当てて制止した。
そして、神秘的なオッドアイの瞳をスッと細め、上空と庭先に向かって、微かな、しかし絶対的な『司令(シグナル)』を放った。
――ジュルルッ!!
真っ先に動いたのは、上空待機していた『空軍』だった。
古民家の屋根から、十羽のシマエナガたちが白雪のような美しいV字編隊(デルタ・フォーメーション)を組み、軽トラックのフロントガラスに向かって急降下したのだ。
「うわっ!? な、なんだこの鳥の群れは!!」
シマエナガたちは攻撃はしない。ただ、トラックの目の前でホバリングし、フワフワの真っ白な体を弾ませて、運転席の視界を完全に『もふもふの壁』で塞いだのである。
キキィィッ!
驚いた男たちが、慌ててトラックを急ブレーキで停車させた。
「くそっ、前が見えねぇ! 追い払え!」
柄の悪い男が二人、怒鳴りながらトラックから降りてきた。
その瞬間。
『コンッ!』
『キュゥ!』
今度は『陸軍(地上部隊)』の出番だった。
コン吉とコン次郎が、黄金色の尻尾を靡かせながら、男たちの足元へ猛ダッシュした。
二匹は男たちの足の間を八の字に駆け抜け、地面のぬかるみを器用に蹴り上げ、男たちのズボンの裾を泥だらけにする。
「うおっ!? キツネ!? ちょっ、足元チョロチョロすんな! 転ぶだろうが!!」
男たちはパニックに陥り、コン吉たちを追い払おうと泥だらけの地面でステップを踏み、見事にスッテンコロリンと尻餅をついた。
上空には視界を奪う白い妖精。
地上には足回りを撹乱する黄金の妖精。
完璧な『CAS(近接航空支援)』と『地上撹乱』の連携戦術である。
「くそぉ……! なんなんだよこの山は!!」
泥まみれになった男たちが、悪態をつきながら立ち上がろうとした、その直後だった。
ドスゥゥゥン。
男たちの目の前に、太陽の光を遮る巨大な黒い影が落ちた。
古民家の庭先からゆっくりと歩み出てきたのは、体長3メートルの巨大ヒグマ。我が限界集落が誇る『重装甲・最終防衛ライン』である。
「ヒッ……!? ク、クマ……!?」
男たちの顔から、一瞬で血の気が引いた。
ヒグマは、泥だらけで震える男たちを見下ろした。
そして、春の陽気で眠たかったのか、大きく口を開けて、鋭い牙を剥き出しにしながら――。
『グゥァァァァァァ〜〜〜…………(大欠伸)』
とてつもなく巨大な『欠伸(あくび)』をしたのだ。
だが、パニック状態の男たちには、それが『捕食前の恐ろしい咆哮』にしか見えなかったらしい。
「ひぃぃぃぃぃっ!! 殺される!! 食われるぅぅぅ!!」
「ごめんなさい! もう二度と来ません!!」
男たちは産業廃棄物を捨てることなど完全に忘れ、悲鳴を上げながら軽トラックに転がり込み、タイヤを空回りさせながら猛スピードで逃げ去っていった。
不法投棄業者、完全撃退。
被害ゼロ。ゴミの投棄ゼロ。
チャット欄は、この鮮やかすぎる『もふもふ統合任務部隊』の完璧な防衛戦に、割れんばかりの歓声に包まれていた。
『うおおおおおおお!! 最強すぎる!!!』
『空、陸、重装甲の完璧な三段構えwww』
『シロ様(総司令官)が一歩も動いてないの草』
『もふもふイージスシステム、完全に実用化されてるじゃん!!』
『ヒグマの欠伸の破壊力バグってるww』
世界中のVIPたちも、この圧倒的なセキュリティ陣形に極彩色のMeTubeギフトを乱れ撃ちしている。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Perfect C4ISR! Master, please export this fluffy defense system to my oil fields!“(完璧な指揮統制システムだ! 主よ、私の油田にもこのもふもふ防衛システムを輸出してくれ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”The ultimate risk management! This sanctuary is safer than a Swiss bank vault!“(究極のリスク管理だ! この聖域はスイス銀行の金庫よりも安全だな!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×5連発)=”Shiro is the greatest general in history!“(シロは歴史上最も偉大な将軍ね!)』
「す、すごいですお兄さん……!! シロちゃんの指揮で、みんなが協力して悪い人たちを追い払っちゃいましたよ!! これでもう、このお山は世界一安全ですね!!」
小春ちゃんが、興奮冷めやらぬ様子で両手を叩いて喜んでいる。
世界中のリスナーが、画面越しに俺の称賛の言葉を待ち構えている。
だが。
俺は姿勢を正し、元・社畜としての『一切の奇跡を排除したフラットボイス』でカメラに向き直った。
「……世界中の皆さま。動物たちの見事な軍事作戦に感動しているところ大変申し訳ありませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『またしても主の限界言い訳タイムwww』
『さあ、この完璧な統合防衛網をどうやって論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、淀みない口調で言い放った。
「これは軍事作戦でも何でもありません。シマエナガは単にトラックの排気ガスで舞い上がった小さな羽虫を捕食しようと集まっただけです。キツネたちはエンジン音に驚いてパニックになり走り回った結果、偶然泥を跳ね上げたに過ぎません。そしてヒグマに至っては、春のポカポカ陽気による『春眠暁を覚えず』の生理現象で、ただ大きな欠伸をしただけです。ええ、これは彼らの日常的な生態行動が、たまたま同時に発生しただけの『偶発的な生物学的連鎖反応』ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、ヒグマのブラッシング用コームで、俺の肩に渾身のツッコミを見舞った。
「羽虫を捕食するのに、フロントガラスの前で完璧なV字編隊組む鳥がどこにいるんですか!! しかもどう見たって、シロちゃんの『行け』っていう合図の後に、みんな一糸乱れぬ動きで業者を追い詰めてたでしょうが!! 自分の家族の有能な防衛戦術を素直に褒めなさいよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ正論コーム炸裂www』
『偶発的な生物学的連鎖反応(完璧な防衛戦術)』
『ただの欠伸(圧倒的なプレッシャー)』
『適応力バグおじさん、ついに完璧な軍事行動をただの生理現象で片付けるww』
『言い訳が無理矢理すぎて今日も飯が美味いわww』
俺の理不尽極まりない生物学的な言い訳と、小春ちゃんの鋭すぎる物理ツッコミに、三百万人の視聴者たちは大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(私の軍隊、完璧でしょ)』
シロが、俺の膝の上で誇らしげに喉を鳴らす。
上空から戻ってきたシマエナガたちは縁側の屋根に整列し、コン吉とコン次郎は泥を舐め落とし、ヒグマは再びドスゥンと横になって平和な寝息を立て始めた。
「……まぁ、理由はどうあれ。我が家の聖域(ロジスティクス)が守られたなら、それが一番だ」
俺は苦笑いしながら、シロの純白の頭を撫でた。
莫大な富を持っていながらも、限界集落に留まり続ける元社畜。
そして、彼と共に在る最強で最高の『もふもふ統合軍』。
春の柔らかな風が吹き抜けるこの古民家は、物理的にも霊的にも一切の隙がない、世界で一番平和でバグった『絶対聖域(サンクチュアリ)』として、今日も温かい日常を紡ぎ続けるのだった。
コメント
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ああ、もう最高でした…!シマエナガたちがV字編隊でトラックの視界を塞ぐところ、めちゃくちゃ可愛いのに戦術的で鳥肌立ちました。ヒグマの欠伸を咆哮と勘違いして逃げ出す業者さんたちのコミカルさもツボです。そして主人公の「偶発的な生物学的連鎖反応」理論、毎回の恒例行事になってて笑っちゃいますね。小春ちゃんのコームツッコミもキレキレで痛快でした。しろ様の統率力、本当に恐れ入ります…!三百万人のリスナーと一緒に応援したくなる、極上のエピソードでした🌷