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「真白、美味しい?」
「ぅんっ……」
返事とも吐息ともつかない声で頷く。
小指に纏わり付いた蜂蜜を舌で舐めとると、舌の上に甘やかな味わいが広がり、オレンジの香りが鼻に抜けていく。
蜂蜜はとても美味しいものだった。
それよりも、絢斗君の小指を口に含んだのだから、綺麗に舐めとらないとダメだと思って。
小指に舌を丹念に這わせると。
にちゅっと。粘り気ある音が唇から漏れてしまい、熱中し過ぎたと慌てて、ぱっと小指から唇を外した。
すると絢斗君が、さも当然の様に私が舐めていた小指をぺろりと舐めて。いつものように優しく笑った。
「甘くて美味いな。ミントティーに合いそうだ。真白も一緒に飲もう」
「う、うん」
絢斗君はスプーンを持って来ると、ソファから立ち上がりキッチンに向かった。
私は胸の高鳴りと共にその背中を見つめる。舌の上に残った蜂蜜の甘さが後を引く。
この家に来てから絢斗君の何気ない。こう言うスキンシップに、私は毎回翻弄されぱっなしだった。
今のは個人的には大変──エッチなシュチュエーションだと思った。でも、絢斗君はそれ以上のことは踏み込んで来ない。
普段だったら『絢斗君ってば』と、顔を熱くさせるぐらいで丁度良かったのに。今日は何だか、夕食からずっと意識をしたせいだろうか。
もっと密着したい。
もっと踏み込んで来て欲しいと思った。
きっと色々と抱えていた問題が、もう大丈夫だと。心に余裕が生まれたことや。
今ままでの優しい接触に、もどかしさが積もったせいかも知れない。
「……ううん。どっちもかな。今日は、ちょっとだけ甘えたいな。でも、この後書斎にって……」
仕事の邪魔はしたくない。
でも、少しだけなら許してくれるかなって。
そんなことを頭の中でぐるぐると考えてしまうけど、答えが出なくて。
「……絢斗君がカッコいいのが悪い」
結局出た答えはそれだった。
それはちっとも答えになってないのは分かっている。
それでも、また絢斗君に『どうかした?』と声を掛けられないように、上部だけでも取り繕うように。
絢斗君が戻ってくる前に、しゃんと背筋を伸ばしたのだった。
絢斗君がほどなくして戻ってきて、引き続きティータイムを楽しもうと思った。
絢斗君が持って来てくれたスプーンで、蜂蜜をすくい。それをミントティーに入れた蜂蜜ミントティーは絶品だった。
ミントの爽やかさはそのままに。お茶にコクが増して、香りに華やかさが加わった。
今度はこれでハニートーストや、ハニーマスタードチキンなど。お料理に使ったら美味しそうだと会話に花が咲いた。その他にも明日は私が、またご飯作るからねと雑談して。
蜂蜜ミントティーを飲み終わった頃。
時計を見ると二十三時を過ぎていた。
「真白。美味しかった。ご馳走様。後片付けは俺がやっておくから。ゆっくりおやすみ」
ふわりと肩を抱き寄せられて、額におやすみのキスが落とされた。
いつもだったら、うん。おやすみと。返事をするところを勇気を出して。今日は絢斗君の胸に顔を寄せて広い背中に手を回した。
「──真白。どうかした?」
「お仕事の邪魔じゃなければ、今日はもう少しだけ甘えたいなって……わがまま言って、ごめんなさい」
やっぱり今日はなんだか、我慢が出来なかった。悪いとは思っていても、絢斗君を抱きしめる手は解けそうになかった。
「わがままなんかじゃない。そんなことで謝らなくていい。真白が俺に甘えてくれるなんて、俺は嬉しくて死にそうだ」
すると、絢斗君の手も私の背中に周りきゅっと抱きしめてくれてほっとした。そして、耳元で囁かれる。
「寂しかったのかな。気付いてやれなくて悪かった。真白はどう、俺に甘えたいの?」
絢斗君の気遣いの心が知れて、胸が切なくなる。
「ありがとう絢斗君。いつも優しい絢斗君が側にいてくれて、寂しくはないよ。それは大丈夫。甘えたいっていうのは……」
なんと言えばいいのだろう。絢斗君と離れたくない。もっとキスとかしたい。体を触って欲しいのは間違いない。
でも、それは私の希望で。
ここまで待っていてくれた絢斗君はどう思っているのかと、少し思案してから。今なら素直に気持ちを言えると思った。
「私、絢斗君ともっと。い、イチャイチャしたいって言うのかな。一緒に居たいの。絢斗君がしたいことも、したいって言うか。この家に来てから絢斗君に気を使わせていたと思うから、恋人同士がするようなことを、してみたい。やってみたい……って思って、しまいました」
最後はなんだか恥ずかしくなって、敬語を使ってしまった。
絢斗君はどんな顔をしているのだろうと、見上げると。いつもの涼し気な瞳が熱ぽっく。艶やかな眼差しで私を見ていた。
眼鏡越しでも分かる、熱視線を隠そうともせずに絢斗君は口を開いた。
「……可愛い過ぎるのも考えものだな。真白はどうして、こんなにも可愛い女の子になったんだろう。愛し過ぎる。好きだ。愛くるしい。一生大事にしたい。そんな言葉しか浮かばない」
そう言ってから、絢斗君は私の額にまたキス落とした。
絢斗君の柔らかな唇の感触に、早くも身体が蕩けそうになる。
「私も大好き」
言葉にすると蜂蜜よりも甘くて、次は心が柔らかく解けてしまいそうになる。
そして、こう言う時の絢斗君は言葉はとても情熱的だけど、行動は穏やかで。
性急なことはしないと知っている。
それは大人の男の余裕さであり、抱擁力と言っても間違いないもの。それは大変に魅力的なものだった。
甘やかな睦言の余韻に浸りながら、ゆっくりと頭や背中をあやすように撫でられ。それがうっとりするぐらい気持ちよくて。絢斗君に体を預けていると。
「真白」
名前を呼ばれて愛しい人を見上げる。
「俺がしたいと思うことはハッキリと言うと、真白とセックスがしたい。真白の全てを愛し抜きたい」
絢斗君のズバリな言葉にわっと、体温が一気に上がってしまった。
「そ、それは」
わ、私もそうだけどもっ。具体的に言われると言葉が詰まってしまった。
しかし絢斗君は気にしなくて良いと、私の心を見透かしたように優しく頬を撫で始めた。
「でも、真白には契約妻だったり、ここに同棲して貰ったり。俺のお願いばっかり聞いて貰っているから。せめてケジメとして、真白のお母様に付き合っていることを打ち明けるまで。セックスは控えるのが──男としての誠実さ。真白に捧げる俺の真摯さかと思っている」
「絢斗君……」
こんなひたむきな愛情、男の人から向けられたことが無くて。胸が暖かくなり喜びに瞳が潤む。
どうやったら、この胸を締め付けられるような、狂おしいまでの愛しさが伝わるのか。ずっとこの人を好きでいてよかった。また出会えて良かった。
もどかしい気持ちでいっぱいになって、頬を撫でる絢斗君の手に指を絡めて、すりっと自ら頬を寄せた。
するとそれに応えてくれるように、空いてる手が後頭部に周り。胸に抱き寄せられ。耳を軽く喰まれた。
「あ、ぅっ……み、耳。擽ったいっ」
耳に感じる絢斗君の微かな吐息や。耳朶を唇で、ふにっと甘噛みされるとぞわぞわとして──なんたが気持ちがいい。
「真白は耳も弱いのかな」
「わ、分からない」
じゃあ、分かってと言わんばかりに。髪を耳に掛けられ。少し強めに耳朶をかぷりと、次は歯で甘噛みをされた。
「っんっ!」
「やっぱり耳も弱い。真白は初めてだから自分の体の良いところもまだまだ、分かっていない」
「あ、絢斗君に。こんなことされたら、誰でも耳が弱点になるよ」
耳も顔も熱くて、思わず絢斗君に抗議の言葉を送る。
「こんなことは真白だけにしかしない。だからそんな事を言われても分からないな。前にも言ったが、もっと俺に慣れて欲しい。俺は深く真白の身体を知って──真白とのセックスはお互いに、最高に気持ちの良いものにしたい」
それぐらい好きなんだと、耳元で囁かれ。
優しく耳にキスをされてしまえば、もう抗議をしようと思う気持ちにもならなかった。
代わりに、素直に私も気持ちを打ち明ける。
「──うん。私もそうしたい。それに……私も絢斗君を気持ち良くさせたい。私で気持ち良くなって欲しい。私に出来ることは何でもしたい」
性をこうして、明け透けに語るのは恥ずかしさがある。もう、胸がドキドキして仕方ない。愛を囁かれた耳がジンジンと熱い。
それでもこの人の為だったら。この人が喜んでくれるなら。そんな気持ちから、言葉が自然に口からこぼれた。
「私は絢斗君のものだよ。絢斗君の好きなようにして欲しい……私はそれが嬉しいから。だから、今の私に出来ることはあるかな……?」
望まれたことをちゃんと出来るかは分からないけど。それでもと。想いを込めて絢斗君の瞳を見つめ返す。
絢斗君が私にセックスを求めない理由が分かった。
それに不満などはない。
そこに至るまでにこうやって、お互いの体に触れ合って。いろんな場所を探って。絢斗君をもっと知って。
隠していたことも曝け出して。
分かり合えて結ばれる瞬間は、快楽だけじゃないはず。きっと想像も出来ないほどの多幸感で、私は死んじゃうかも知れないと思い、絡めていた指先に思わず力を込めてしまうと。
「分かった。今日はたっぷりと俺と遊ぼう」
絢斗君は微笑み。黒く澄んだ瞳を私に向けた。
その瞳はとても無邪気な子供のような無垢さを感じたけども。
無邪気さゆえに蝶の羽をむしり取ってしまう──そんな危うさも見えて。
小さく喉を鳴らしながらも「うん」と、言った。
これから絢斗君は何をして、遊ぼうとしているのだろうか。まさか本当にゲームなどに興じる訳じゃないだろう。
絢斗君の余裕のある雰囲気から、きっと《《大人》》な意味が含まれている。
色々な想像をしてしまい、胸がとくとくと高鳴る。
絢斗君が私に何を望んでいるか知りたい。これはきっと、私だけしか知り得ない絢斗君の心のこと。私だけに向けられている想いを受け止めたいと思っていると。絢斗君が微笑して。
「何して遊ぼうかな。こんな事だったらオモチャの一つでも、買っておけば良かったかも知れないな」
おもちゃって? 聞き返す前に絢斗君はサラッと言葉を繋いだ。
「あぁ、でもそれは俺がダメだな。オモチャに嫉妬してまう。真白に触れていいのは俺だけだから……そうだな。俺は真白の裸がみたい」
「はだか……」
裸を見たいと言われ。遊ぶと言うのが、やっぱり恋人同志の戯れのことなんだと思った。
「今、ここで服を脱いで俺に見せてくれる?」
抱き寄せられた背中を、つっと。意味深に撫で上げられてぴくりと体が反応してしまった。
「勿論、嫌なら無理にとは言わない」
優しい言葉の裏に、確信犯めいたものを感じ取った。
裸になる。
それは恥ずかしいけど。
いずれ絢斗君に全てを見せるシーンは、そう遠くもない。これはその、予行演習だろうと思った。
「嫌じゃない。大丈夫。絢斗君になら見せれる……でも、その。私、そんなに体に自信なくて。それでも、笑ったりしない? 嫌いになったりしない?」
「俺が真白を貶めるような男だと思っているのかな? 真白を嫌いなることなんて、あり得ない」
まっすぐ真剣な表情で見つめられると、なんだか私がワガママな彼女で。彼氏を困らせているかのような気持ちなった。
「遊びだと言ってもこれは俺達だけの。愛しい人との秘密の遊び。真白とだから出来ること。だから──俺は真白の身体がみたいんだよ」
私の心を絡めるとるような言葉。絢斗君の艶然たる雰囲気に呑まれる。
それに『何でもしたい』と、自分から言い出したこと。ソファから立ち上がり。絢斗君を見下ろす。
「ここで脱いだらいい……?」
静かに頷く絢斗君にもう一度。
「笑ったら嫌だよ」と、言ってから。自らパジャマのボタンに手を掛けた。
パジャマを脱ぐ衣擦れの音だけが部屋に響く。
これはまるでストリップショーみたいだと、思いながら。
ゆっくりとパジャマのボタンを一つ。
また一つ。と外して上着をぱさりと脱いだ。
一瞬。迷ってから下のズボンも降ろすと、水色の上下お揃いの下着姿になってしまった。
その間、絢斗君は足を組み。ゆったりと映画でも観ているかのように私をじっと見つめていた。
その視線から思わず両手で体を隠そうとするけど、絢斗君の視線が『まだ下着を身に付けている』
と物語っているかのように見えた。
絢斗君の視線を全身に受け止め。深呼吸をしてから手を後ろに回して、ブラのホックに手を掛けてパチンと外すと。
絢斗君が静かに。ほぅっと、美術品を褒めるかのような。感情のこもった溜息を吐いた。
「真白は着痩せするタイプなのかな。はりのある胸のラインから、ウェストのくびれが実にそそる。とても色気があって、綺麗でずっと眺めていたくなるな」
「う、うん」
「下着も可憐で似合っている。本当に可愛い」
下着も褒めてくれたのは嬉しい。でもやっぱり恥ずかしい。
俯いてしまうと自分の胸の谷間が見えた。
ただ、こうして脱ぐのに凄く勇気がいる。
絢斗君の視線が真っ直ぐ過ぎて、既に心まで丸裸にされているみたいな気分になる。
さらに、心臓がずっと高鳴っていてうるさいほど。そのドキドキしている音が、体の外に漏れているんじゃないかと錯覚してしまう。
それでも、ホックを外したブラの肩紐をするっと腕から落として。片手で胸を隠しながらブラ脱いで、床に落とした。
あとは下着だけ。羞恥心で体が熱い。
「絢斗君、こんなこと誰にも言わないでね」
「言う訳がない。これは俺と真白だけの秘密。俺と沢山秘密を作ろう」
穏やかに微笑まれると、なんだかすっと肩の力が抜けて。
小さく頷いてから。
片手で胸を押さえ、両膝を少し曲げて。
水色の下着のレース部分に指を掛けて、ゆっくりと下に降ろした。