TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
散って舞う

一覧ページ

「散って舞う」のメインビジュアル

散って舞う

26 - 想いの人のいる先は

♥

301

2024年08月16日

シェアするシェアする
報告する

警戒するようにゆっくりと目を開けるとそこは見た事のある景色だった。


暗い道を街頭が照らす住宅地。

そんな場所を必死に走っているのは黒のパッツン前髪で肩より少し伸びている、小学校低学年位の少女。


少女は薄い長袖に膝上のハーフパンツを着ていて、靴はおろか靴下さえも履いていない裸足だった。

そして少女の、手足の指先が赤くなっていてとても寒いのが見てとれた。


少女の顔は下を向いているせいでよく分からない。

そんな風にまじまじと少女を観察していると

前を見ずに走っている少女が赤信号の横断歩道へと飛び出した。

今までの景色が浮かび上がり思わずぎゅっと目を瞑ると


大きなクラクションの音だけが響き、不安に思っていた気色悪い音は一切聞こえなかった。


何があったのかと思い目をゆっくりと開くと少女は横断歩道を渡り切っていて後ろも見ずにただ必死に走っていた。

そんな事があっていいのかと思ってしまって少しあんぐりとしていると少女の後ろから警察官が走って来ていた。


「ちょっと!お嬢ちゃん!!止まって!!」

そんな必死な警察官の掛け声を無視して少女はただただ走った。

少女と警察官は相当な距離が空いていてすぐには捕まらないだろう。


そんな事を考えていると上空から白いのもが降ってきた。


「雪だ…」

とぼそっと呟き、また少女に目を向けてハッとした。


警察官に追われ、大きなクラクションを鳴らされ真冬の夜、両親から必死に逃げるために走っている少女。

私が今見ているのは当時8歳の私だ。


なんだか複雑な気持ちになる。


この子は死なずに済むんだ。なんて安心感に

第三者から見てこんなに情けないのか。なんて少しショックを受けたり。

親の元に戻るなら死んだ方がマシ。そう思っていたのに「死なないんだ」と安心してる自分に呆れたり。


そんな感情が一気に押し寄せて来た時には当時8歳の私は私の記憶にない場所。

立ち入り禁止と大きく書かれた山。

桜山さくらやま?と言う場所に入って行った。


まだ遠くから警察官の


「どこ行ったのー!出ておいでー!」

と探す声が聞こえるなか当時の私はその山に埋めてある3本の苗木の前で急に意識を無くした様に倒れた。


そして続く様に私は後ろへと引っ張られてしまった。


パチッと目を開けると今までと違う景色が目の前に広がった。

砂利の道に広がる透明で綺麗な大きな川。

その川に反抗する様に下流から上流に登る少女。

その少女が当時8歳の私。当時の私は何故だか、わんわんと大きな声で泣いていてそのままこんな事を言っていた。


こわい!!!…やめ、て!!

た、す…けて…!!!


分かる。自分の事だから痛いくらいに分かる。

ずっと苦しくて、全部やめてしまいたくて、欲を言えば誰かにこんな私を救ってほしい。

そんな気持ちでずっと心の中をぐるぐるしてる。


そんな風に思い出してしまうとなんだか鼻先がジーンと痛くて目元が熱い。

しばらく川に流されて居るのを見ていると川を挟む道が綺麗な黄緑色の芝生へと変わった。


見慣れた景色。私の今までの人生の中で楽しいと思う事の背景はいつもこの景色だった。

そう。ソメイ達と過ごしたアマガイの景色だった。


未だわんわんと泣き叫ぶ私の声に気づいたのかいつも寝て食べて過ごしていた小屋の方から3人の小さな人影が見えて、


「(私がここに来た時はこんな感じだったんだ…)」

とぼーっと考えていた。


「ねぇ2人ともっ!小さい女の子だよ!!急いでっ!!」

と慌てた声でヤエが2人を急かす声が聞こえた。

遅れて来たソメイは大きな布を、シダレは救急箱を持って走って来ていた。

その2人の様子を見たヤエが当時の私の左手をガッと掴んで引っ張りあげた。


必死に動いてくれている3人を見ながら私はなんだか暖かく苦しい。そんな感情になっていた。



もし、3人が居なくならずに今も笑えていたら私はきっとただただ幸せな気持ちになっていたのだろう。


でも今は?


今は違う。3人共居ないこの場所アマガイで3人は私の願いと違う事を望み、私に伝えた。


もし、この時から私は3人に出会わなければ私はどうなっていたのだろう。


当時の私が芝生で眠りにつき初めたのを確認し、私はゆっくりと目を瞑り後ろへと引っ張られる。



パチッと目を開けるとそこは見慣れたアマガイの夜。


当時の私がシダレに


「おやすみ。」

そう伝えるとシダレは切ない表情で


「じゃあな」

そう言う。この日は平和な4人の生活が崩れた夜。

シダレは私が寝室に入るのを見守って「ふぅ…」と息を吐くとどこからかやってきたソメイとヤエがシダレに声をかけた。


「もう時間?」

「最後くらい見守ってあげてもいいよっ?」

といつも通り、落ち着いているソメイといじわるにそう聞くヤエにシダレは


「あぁ。あと10分程度じゃないか?

あっそうそう。別にやりたくねぇならやらなくてもいいんだぞ?」

「あぁあ!うそ!!うそうそ!!ちゃんと見送るもんっ!!!」

「ちょ、あんまり大声出さないでよ…!サクラ起きちゃうよ?」

と言う会話にケラケラ笑うシダレとハッとした様に口を手で覆うヤエ。「全く…」と呆れた様にでも嫌じゃ無さそうにクスクス笑うソメイ。

そんな3人の姿が懐かしくて思わず笑みがこぼれる。


気を取り直した様にシダレが


「あ〜、あ…」

と意味の無さそうな声を出しながらソメイ達に背を向けた。

ほんの少しの沈黙に、少し眉毛を八の字に下げて、目線が下の方で泳いでいるソメイがこう言葉を発した。


「ねぇ。もし、サクラが“生きたくない”って言ったらどうする?」

そんな言葉にヤエは分かりやすく眉毛を八の字にして下を向いた。

シダレは顔色1つ変えずに「う〜ん…」と少し上を向いて考えていた。


数分の間が空いたあと、シダレはこう振り向きながら口にした。


「ま、その時はその時だろ!」

いつも通りにケラケラ笑いながらそう呑気に言うシダレにソメイとヤエは驚いた様に目を見開き


「えっ?な、なんで?サクラ…死んじゃうんだよ?」

どこか震えた様な声で質問するヤエに対してシダレは頭の後ろで手を組み「いや、そりゃさ」と続けて話す。


「サクラが死ぬのは超つれぇよ?だからと言ってサクラの事情をなんにも知らねぇ俺たちが止められるとは思えねぇんだよ。


まぁ、どんなことがサクラの身にあったのかが分かればいくらでも方法はあるし、助けられる。

でも今はそうじゃねぇし……その時はその時だろ!」

二ヒヒと笑うシダレに目をパチクリされるヤエに一瞬びっくりした様に目を見開いたけどすぐにクスクスと笑って


「シダレらしいや」

と笑うソメイ。ソメイにつられて3人でクスクス、ケラケラ笑っているとシダレがこんな事を言う。


「おっ!もう時間みたいだ。」

その言葉に2人は少し悲しそうにシダレを見て


「またねっ!」

「また会おう!」

と声をかける。シダレもそれに続き


「おう!またな!」

と微笑みぶわっと何千、何万の桜の花びらになり散って舞う。


そんな光景に私はただ頬に涙をつたわせていた。

じんわりと暖かくなった心に余韻を持たせる間も無く、私の体は後ろへと引っ張られてしまった。

この作品はいかがでしたか?

301

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚