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マンションからの退去を迫られた紗姫は、実家に帰った。
玄関で家政婦が迎えてくれたが、奥から後妻が現れた。
「あら、何しに来たの?」
後妻は、厄介者を見る目で紗姫を見下した。
「お父さんに会いに来たわ」
「あの人は入院中よ」
「え⁉」
「少し良くなったのに……、
誰かさんが不倫なんてするから、ビックリしてまた悪くなったのよ」
後妻はニヤリと笑った。
不倫を笑ったのか? 病状悪化を喜んだのか? おそらく両方だろう。
「母さん、誰か来たの?」
奥から義弟が現れた。
25歳になった義弟は、系列会社の社長に就任して『錦藤グループ』の幹部になった。
「あぁ、紗姫さん。入っていいよ」
「当然です。ここは私の実家ですから」
「え? まだココを自分の家だと思ってんの? バカじゃない?」
後妻が息子に同調した。
「そうよねぇ。あんなに迷惑かけて。図々しい女ね」
「門の前にマスコミが溢れて、俺の車に傷が付いたんだからな」
実家にまでマスコミが来ていたとは、紗姫は知らなかった。
「後援会を退会したから、もう関係ないのに」
『錦藤グループ』が『伊崎信也後援会』を退会した?
紗姫は初耳だ。
信也のことは、父が目を掛けていた。
「国政に押し出す」と言って実現した。
次は「地元初の大臣」を目指して応援するはずだったが……。
「知らなかったわ。いつ退会したの?」
「3ヶ月前かな。引き止められたけど」
後妻が口を挟んだ。
「政治家の後援会なんて、金と時間が掛かるばかりでしょ」
「あぁ、古い制度だよ。我社は陳情なんてないし。メリット無しだ」
「お父さんに相談したの?」
「家のことは俺が決めるんで。父さんは病院のベッドで寝てるだけ」
「どこに入院してるの?」
「それは社外秘。伝わると見舞客が多すぎて対応できないし」
「私は娘よ。父に会って、お医者様からお話を伺うわ」
後妻が、気味悪く微笑んだ。
「大丈夫よ。家政婦を行かせてるから」
「ところで紗姫さん」
義弟が紗姫の身体を ねっとりと見回した。
「アンタ、いい肉体してるね。イクときの顔もエロいし」
「!?」
弁護士が言っていた。
あの写真を「すでに関係者に配ったそうですよ」と。
その関係者に、この義弟が入っていた。
後妻が下品な笑みを浮かべた。
「私も見たわ。藩主のお姫様とかいっても、ヤルことは同じね。むしろ大胆」
義弟は完全に上から目線だ。
「どうします紗姫さん。家に入りますか? お茶くらい出しますよ」
「私も上達しましたの。お振舞い致しましょうか?」
紗姫の見合いで、足が痺れて退席した後妻は、茶道を始めたようだ。
「私も息子も、藩主の子孫として研鑽を積んでますのよ。
だって、血統は関係ないからね。家を継いだ者が子孫でしょ。
アンタのお父さんのように」
紗姫の父は、婿養子だ。
錦藤家の正当な後継者は、紗姫の母の真姫だった。
真姫に〈婿入り〉した父に、錦藤家の血は流れていない。
現在、錦藤家の血筋を受け継ぐ唯一の存在が、錦藤紗姫だ。
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