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実家に帰れない、マンションに戻れない。
行き場を失った紗姫は、一番好きな場所に向かった。
子供の頃からそうだった。
父に怒られた、友達と喧嘩した、成績が悪かった、男子にフラれた、
失敗した、気分が悪い、うまくいかない、頭の中を整理したい、
そんなとき紗姫は『城址公園』に来る。
小さい頃は、母の真姫と一緒に来た。
「うーんと昔。あの石垣の上に、お城があったの。御先祖様が住んでたのよ」
「シンデレラみたいなお城?」
「ちょっと違うけど、素敵なお城だったそうよ」
『城址公園』には、丁寧に手入れされた庭園と芝生がある。
池の〈貸しボート〉は市民に人気だ。
父が乗せてくれた思い出がある。
(乗れるかな? 漕げるかな?)
紗姫は料金を払ってボートに乗った。
平日の夕方で、客は紗姫だけだ。
コツをつかむと、ボートは池の中央まで進んだ。
鳥の声と風の音が聞こえる。
御先祖様も聞いていたはずだ。
(この先、どうしよう……)
このボートを降りても、行くところがない。
誹謗中傷は止まらない。心と身体がバラバラになった。
ボートの向きを変えようとしたが、上手く動かない。
そのとき紗姫の顔の前に、大きな蜂が飛んできた。
「キャァ!」
思わず立ち上がったら、バランスが崩れた。
紗姫は、ボートから池に落ちた。
(泳げないのに!)
服は水を吸って重くなる。
紗姫の身体は、水中に沈んだ。
目が覚めると〈簡易ベッド〉の上だった。
「お気付きになられましたか、姫」
凛々しい顔立ちの青年が、ベッドの横で正座している。
「やったぁー! 目が覚めた!」
可愛い顔の青年が、その場でクルリと〈バック宙〉をきめた。
二人とも青い作業着を着ている。
胸元の刺繡は会社名か?
紗姫は文字を読んだ。
「ONIWA‐BAN」