介助しているのだから仕方ないというのは分かっている。だが、カイルの移り香がするほどリリアンナが彼に接近しているのだと思うと、面白くないではないか。
自らの胸中に渦巻く独占欲を悟られぬよう、あくまで淡々と「舞踏練習に相応しい装いを」という口実を添えてナディエルにリリアンナを託すと、小さく吐息を落とした。
そんなランディリックの傍らへ控えていた執事セドリックの視線が何となく気になってしまう。
そうしてセドリックの方も、思うことを隠すつもりはないらしい。
ふと目が合うと同時、
「旦那様……。本日は舞踏練習の予定などは入っていましたでしょうか?」
そう問うてきた。
「いや……」
他にもたくさん仕事が山積みの癖に何をやっているのですか? と言外に含まされた気がして小さく苦笑したランディリックは、そこで(しまった)と思う。
(本当、何をやっているんだ、僕は……)
嫉妬に駆られて思わずリリアンナをカイルから引き離す口実でダンスの練習を持ち掛けてしまったが、剣の手合わせにディアルトを呼び出していたことをすっかり失念してしまっていた。
「セドリック。鍛錬場でディアルトを待たせている。申し訳ないが使いをやって、行けなくなったと伝えてもらえるか? あー、あと……リリーの代わりにカイルの介助を出来るものを彼の元へ遣わせてやってくれ」
用件のみを淡々と告げたランディリックの声音には、普段と変わらぬ落ち着きが宿せていたはずだ。
「かしこまりました」
だがセドリックは、主人のその瞳の奥に微かな苛立ちの残滓を読み取っていた。
***
――ダンスの練習は、思った以上に短いもので終わった。
リリアンナの小さな手を取り、彼女自身が動きやすいよう、足を合わせる。男のエスコートがしっかりしていれば、女性は男に身を委ねていればそれほど労せずして踊れるはずなのだ。
もちろん、姿勢や基本的な動きは身に着けておかねばならないが、幼い頃両親の指導の元、ダンスのレッスンをしたことがあるんだろう。リリアンナはほんの少し一緒に踊っただけで、その勘を取り戻したようだった。
自分の手を握り、ふわふわの赤毛を揺らめかせながら舞う可憐な少女の姿を間近に見つめられるだけで、ランディリックの胸に溜まった滓が少しだけ和らぐ。
だが本当の救いがその後に訪れることを、ランディリックはまだ知らなかった。
***
ダンス用のドレスへ着替えるため、リリアンナはナディエルの手を借りて鏡の前に立っていた。
柔らかな布地が肩から滑り落ちると、ナディエルが新しい衣を整えながら問いかける。
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