「お嬢様、何かお悩みのご様子ですね」
「どうして分かったの?」
「私がリリアンナお嬢様のことをどれだけ大切に想っているか、知っていらっしゃるでしょう?」
ナディエルの優しい微笑みに、リリアンナは胸の中がほわりと温かくなるのを感じた。
「実はね……仔馬の名前をどうしようか、ずっと考えていて……」
リリアンナは思案気な顔をしてナディエルを見つめる。
「実はカイルがね、『エルヴァンはどうか』って提案してくれたの。……夜明けの光、って意味なんですって。素敵だと思わない?」
「……ええ、確かに素敵なお名前です。ただ――」
ナディエルはそこで一瞬言葉を区切ると、リリアンナのドレス背部のリボンを結う手を止めた。
「……それだと、カイル様のお名前に似てしまいますね」
「え?」
小首をかしげるリリアンナにナディエルは吐息を落とす。
「ご存じなかったのですか? カイル様のフルネームは、カイル・アレン・エルダン。エルヴァンと、響きが近いでしょう?」
「まあ……!」
リリアンナは目を瞬かせ、唇に指を当てた。
「それじゃあ、まるでカイルの名を頂いたみたいになってしまうわ。――ランディが私へ贈ってくれた仔馬にその名前はダメね……」
少し考え込んでいたが、やがてリリアンナはぱっと顔を上げ、瞳を輝かせる。
「そうだわ……!」
***
ダンスの練習を終えたリリアンナを椅子に座らせると、ランディリックは自らの手袋を外しながら如何にもふと気になったという調子で口を開いた。
「で、結局、仔馬の名前は何にするつもりだい?」
傍からみれば、恐らくは何気ない問いかけ。
だが胸の奥では、先ほど厩舎で聞いた〝エルヴァン〟という響きが棘のように刺さったまままだ疼いている。
ランディリックは、リリアンナがどんな答えをするのか息を詰めて見守っていた。
リリアンナはランディリックの問い掛けにパッと顔を明るくし、にっこりと微笑んだ。
「ライオネルにしようと思うの!」
「……ライオネル?」
反射的に聞き返してしまったのは、てっきり彼女が『エルヴァンにしようと思う!』と告げるだろうことを予測していたからだ。
(……気が……変わったのか?)
仔馬の候補名を上げた途端、考え込むように黙ってしまったランディリックに、リリアンナが心配そうに顔を覗き込んできた。
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ライオネル? 由来は?