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「ええぇぇっ? アック様もシーニャも、ミルシェさんまでもがいないの?」
「……それをわらわに聞くなの? 小娘だってどこかに行っていたなの!」
「だってだって、こぶし亭の様子も気になっただけで~……そんなに時間もかからないと思っていたのに気付いたらいなくなってるなんて、聞いてないですよぉぉぉ……」
アックたちが属性テレポートを使ってレイウルムに突入していた頃、イデアベルクではちょっとした騒ぎが起きていた。
騒ぎの主はルティ、そしてフィーサという取り残され組である。
アックらとしても、ミルシェの予感と願いを聞いての移動だった。それだけに残された者としては納得も理解も出来なかった。
「わらわに責任なんてないもん!」
「えぇぇ……フィーサはアック様たちがどこに行ったのか分からないの?」
「知らなーい」
しばらく戻ることが出来そうに無いことはレイウルムの異変の時に感じていた。しかしアックにそれを伝えるすべがなく、帰りを大人しく待っててもらうことしか出来ない。
――のだが、大人しく待てるはずが無い娘ということを再認識することになるのは、アックたちが遺跡に進んでしばらく後のことになる。
「何を騒いでいるニャ?」
「聞いてくださいよぉ、シャトンさん~」
「ニャ?」
ルティの焦りをよそに、フィーサは関係無いと言わんばかりの態度を取っていた。そんなルティの騒ぎを聞きつけ、ギルドマスターであるネコ族シャトンが様子を見に来た。
「アック様が~アック様が~……」
「ふんふん?」
「これからどうすればいいのか、わたしにはどうすることも出来ずに~」
「ニャるほど! それなら簡単ニャ。先回りすれば会えるニャ!」
「はぇ? どこに行ったかも分からないのにどこに先回りするんですかぁぁぁ」
ルティの質問に対し、シャトンの出した答えは簡単なものだった。
「勘ニャ! そこは予感を信じて進むしか無いニャ!」
「予感~? そんなのどうやって感じるんですかぁぁ?」
「簡単ニャ。二人はアックと魔石でつながっているニャ。魔石が感じる所に行けばいいだけニャね!」
理解の出来ないルティを見つつ黙って聞いていたフィーサは、何となく理解したのか頷いている。そして何かを閃いたのか、面倒くさそうにルティに近付いた。
「わらわは理解したなの。そうと決まれば、小娘も色々準備をして欲しいなの! ほら、早く!!」
「はぇっ!? じゅ、準備!? わっわわわっ――」
「まずは森林区に急げ~なの!!」
「はひぃっ!」
フィーサは全く理解出来ていないルティの背中を押して、慌てふためきながら森林区へと走って行く。
「ふぅっ、世話が焼けるニャ。ルティには釣り竿を持たせてあげるとするニャ」
フィーサによって強引に歩かされていたルティは森林区に来ている。自分の精霊竜であるアヴィオルを誘いに来ていたのだが――。
「ねえねえ、出かけるの? アヴィはいつでも飛べるよ~!」
ルティは事情を知らない精霊竜に、どう言えばいいのか分からず頭を抱えていた。
「ええ? 飛んで行けるんですか? でもどこに行けばいいのか分からないし~……」
「イスティさまに会いに行くんでしょ? アヴィなら、イスティさまのいるところくらい分かるよ」
「な、なぁんだ! それなら――」
「それは駄目なの! マスターが今どこにいるのか分からないのに、やみくもに飛んだって駄目なの!」
竜人娘であるアヴィオルの言葉に安心したのもつかの間、フィーサの言うことも間違っていない。そう思ったルティは、すぐに落ち込んでしまう。
「むむむ……飛んでいくのが駄目なら、どうやってアック様の元に行けるの~……」
「アヴィだけなら行けるけど、それじゃあ駄目なの?」
「竜人娘だけだと意味が無いなの!! ちょっと黙ってて欲しいなの!」
「むーー!」
ルティはアックへ、火の神アグニの力を戻した。その時点で力は戻したものの、精霊竜との契約はルティに残ったままだった。精霊竜はルティを主人としながらも、アグニの力を持つアックとも繋がることが出来た。
精霊力が強いということもあり、精霊竜だけがアックの正確な居場所が分かるようになったのである。
「どうしよ、どうすれば~!!」
「お困りならば、われが導いて進ぜよう」
「はえっ? あっ――!」
竜人娘やフィーサと話をしても解決出来ずにいたルティに対し、意外な人物が声をかける。
「われならば、何とか出来るやもしれん」
「ウルティモさんじゃないですか! あっ、アヴィのお世話をいつもありがとうございますです!」
姿を見せたウルティモに対し、ルティは深々と頭を下げた。
「なに、われもいつも美味しい料理を頂いている身。ルティシアさんには大変お世話になっている。故に、力を貸して差し上げたい」
時空魔道士ウルティモはイデアベルクに住むようになってから、すっかりこぶし亭の常連客になっていた。こぶし亭の主人でもあるルティには何度かご馳走になっていたらしい。
食事中に精霊竜の相談話をしていたこともあり、すっかり仲良くなっていたようだ。
「ふーん? 小娘がイスティさま以外の男と仲良くなっているなんて、信用していいなの?」
「ウルティモさんにはアヴィのことで色々助言をですね~……それと、火の扱い方とかを~。フィーサは知らないかもだけど、信用しても大丈夫!」
「……それならいいなの」
ウルティモに対し、フィーサはグライスエンドでのことが頭によぎった。しかしあの時とは違うとすぐに分かったうえ、彼しか頼れないと判断して黙ることにした。
「――ふむ、アックくんの所に行きたいのだな?」
「そうなんですよ~!」
「われは決まった場所にしか行けぬが、それでいいなら移動魔法を使って進ぜよう!」
「おおぉ~! ありがとうございますです!!」