「今日はこれで以上だよ!他連絡することはないから解散で!」
アルフレッドの明るい声で会議は終わった。すぐさまエドワードに連絡をし、椅子を立とうとする。しかし突発的な貧血でよろめく。
「っと、大丈夫かい?」
「,,,,,あぁ。アルフレッドか。ありがとな」
片手で受け止め、表情を確認する。しかし、目の前が虚ろになっていてよく顔が見えない。でもここで不審に思われてもいけないから今までの記憶を辿って何とか会場の位置を把握しようとする。
「すまないな。それじゃまた。」
手を振って帰ろうとするが、左腕を掴まれた。
「待ってくれよ。体調、万全でないんだろう?」
「アルフレッド、離してくれ」
周りがザワザワとする。余計に頭が痛くなる。
「最近ずっとじゃないか。やっぱり今イギリスの状態が良くないのかい?」
「アル」
「頼ってくれないと俺も動けないんだよ?君が言ってくれればいつだって,,,,」
「アメリカ合衆国」
睨むわけではないが口角を変えずに呼ぶ。周囲が静かになり、アルフレッドがビクッと動く。その拍子に掴んでいたの力を弱めたため、腕を振り払いながら離す。
「,,,,大丈夫だと言ってるだろ」
1度も振り返らずに去った。コソコソと話しているのが聞こえた。アルフレッドの視線が落ちていくのがわかった。後になっていまさっき言った言葉に後悔の念を持つ。しかし、そんなことよりも気になったことがあった。
イギリス国内には妖精がいる。俺は妖精が見える。そして妖精の声も聞こえる。
自動的にその場に自分がいなくとも妖精がいれば、『会話の内容が分かる』のだ。
「アーサー様。お疲れ様でした。」
「エドワードもいつもありがとな」
「お疲れのところ申し訳ないのですが、先程病院から連絡がありました。すぐに来て欲しいとの事です。」
「そうか。なら向かってくれ」
頭の中で『先程聞こえた会話』がずっと頭の中を巡る。思い返せばあの人の言葉にはそれが隠されたような発言があった。それに、決して嘘をついていなかった。やはり、常々思ってしまう。
自分達は腐っても所詮形は人間なのだと。
「出産方法について話し合いましょう」
医者がピシャリと言う。実は国は特殊なのだ。
国というのは切られ、殴られ、撃たれたとしてもその国自身の経済状況や情勢が悪くなければすぐに傷は再生する。例え悪かったとしても俺たち、国の化身は死ぬことは無い。傷が治るのが遅くなるだけだ。よって、切開した場合取り出す隙もなく塞がるかもしれないというケースがあるかもしれないのだ。
「イングランド情勢を見ましたが、悪化している様子がありません。きっと腹を開いた跡はすぐに塞がることでしょう。お腹の子のためにも早急な行動をしなければなりません。」
「自然分娩ならどうなる?」
「子宮口がどうなるのかが未だ予測がつきません。私たち医療従事者としては第1として自然分娩をし、もし開かなければ緊急帝王切開に切替えるというのもありですが,,,,,」
「確かに俺に悪阻があるように痛みは伴うだろうな。だが俺が我慢するだけなら本望だ。それでいってくれ。」
「分かりました」
カルテを書こうと振り返ったときアーサーは再び口を開く。
「それと、」
ねぇアーサー
「なんだ?」
その子たちのパパは?
ママはアーサーなのにパパは誰なの?
「さぁな」
前にも言ったじゃない答えてよ
「すまないが無理だ」
ねぇアーサー 怖いの?
「え?」
300年前私たちに教えてくれたじゃない。
ママの強さ。アーサーはママになるのに弱いわ。
子を守りたいって思うなら、本気で心の底から守らないと意味がないわよ
妖精達にほっぺをくすぐられたり、逆にくすぐったりボーッとしているとコンコンとノック音がした。俺はベッドの中にいた状態だったのでそのまま入ってきてくれと言う。
「遅れて申し訳ありません。」
「気にしてない。こっちに来てくれないか菊」
「?はい」
体を起こし、ベッドの近くに椅子を持ってこさせすぐ近くに菊がいるようにする。一息ついてからまっすぐと菊の目を見た。俺とは違う。なんて決意の固まった目なのだろう。これこそ母国というものなのか。
「菊」
「!!!」
「すまない。お前の近くを俺の妖精が通っていたんだ。オランダと喋っていた時の会話をそいつが聞いていた。」
暗い廊下、ある2国が向かい合っている。一方は口をつむいだままで眉をひそめもう一方はタバコを咥えながらその目を見ている。
「オランダさん。まだ覚えていたのですね。前聞いた時はなんのことかとおっしゃったのに。」
「なんのことや」
「とぼけないで下さい。先程アーサーさんが倒れた時、ベルギーさんやフランシスさんはアーサーさんのお顔を見ていらしていたのに貴方だけはお腹を見ていた。必死に隠していたお腹を。」
オランダは焦ったように視線を逸らす。
「まぁいいです。他の方に言わなければ良いのですから。
,,,,200年前、私が子を身ごもっていた事を。」
「,,,,もう200年も経つんか」
「えぇそうですね。あの子の墓は空襲で燃えかけましたが。」
「,,,,頑なにお前は俺に会わせんとしとったな。なんでや?」
「,,,,顔向け出来るわけがないでしょう?私が殺したも同然だったのですから、」
今度は本田が視線をずらし方向を変えた。
「とにかく、誰にも言わず、そして忘れてください。絶対に」 「,,,,,,,,,,,,分かった」
ギュッと拳を握る力が強くなる。
「言いたくなかったんです。産みたいと望んだ人に我が子を殺した人が手助けをすると言うなんて」
「菊がそんなことするはずないじゃないか。」
「っいいえ!あの子は,,,,,,,,っ」
勢いのまま本田は立ち上がる。ハーハーと息をする本田の目には若干の涙が溜まる。
「,,,,菊。聞かせてくれ何があったのか。俺には聞く権利があるはずだ」
「,,,,え?」
「『同じ母親』になるんだ。覚悟はできている。あとはお前が言う勇気を持つかどうかだ」
真剣な眼差しを向ける。本田は少し静止したあと再度椅子に座り話はじめる。
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