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(凄い、殺気……でも、殺気だけじゃなくて、これは、魔力?)
グランツの放つ殺気には、何かがおり混ざっており、それは魔力のようにも思えた。翠色の強い魔力を感じ、私は首を傾げる。確かに、覚醒して魔力は残っているだろうが、私のあげた魔力だけではない気がして、違う魔力の波動を感じる。強く、そして執着心のようなものを感じられる魔力を。
怖い、そんな単純な感想を抱いて私はグランツを見る。
欠陥が浮き出た腕は今にも、ラヴァインに斬りかからんと剣を握りしめ震えており、ギリッと噛み締めた奥歯がなったのも聞えた。いつものグランツではなく、私の知らない彼なのだと見ていて分かってしまった。こちらのことなど見えていないように、ただただラヴァインをみてそうしてその怒りや殺意をぶつけようとしている。獣のようにも思える。
生きている人間が恐ろしいとも。
「グランツ……」
「エトワール様は、下がっておいた方がいいです。今の彼は危険です」
「え、ブライト……?」
スッと私の前に出て、これ以上出てはいけないと忠告するブライト。ブライトの顔も険しくなっており、自分には今何も出来ないから、みていることしかできない。そんな風に思えた。
一体、ラヴァイン……いや、アルベドとグランツに何があったのだろうか。
(前々から思っていたけど、どういう関係が?)
アルベドがグランツの大切な人を殺した……みたいな話はちらりと聞いたことがあったけれど、真相は分からないし、アルベドはグランツに対して、そこまで何か思っているわけでも後ろめたい何かがあるようにも思えなかった。グランツの一方的な恨み。それを、年上のアルベドが軽く受け流しているような構図だった。どういうことなのか、未だに分からない。
けれど、ラヴァインの様子からするに、ラヴァインも理解しているようだった。グランツの正体にも。
(何か、言ってあげられたら良いんだけど……)
このまま怒りをぶつけるだけじゃ何にもならないと思った。それに、冷静さが欠ければ、ラヴァインに勝つ事なんて不可能だ。そもそも、ラヴァインと戦闘になる事は避けたい。かといって、神父や大勢の犠牲者を出した此の男を逃がすわけにも行かないと。
私達は隙をうかがうが、それすら入る隙を与えないというようにグランツの殺気が益々伝わってきた。
「そんなに、怒らなくてもいいじゃないか。何年、そう兄さんに怒りを向け続けてるの。拾われて、平民として暮らすようになってから、何年。ずっと機会でも狙ってたの?」
「ああ。だが、まさか、本当に狙えるとは思っていませんでした」
と、ラヴァインの問いかけに対して、グランツは意外にも素直に答えた。
だが、グランツは平民では? とも疑問に思う。拾われたと言うことは訳ありそうだが、それでも平民かその下の位かと言うことになるのではないか。もと、奴隷……という線も考えられなくはないが、グランツの表情からは読み取れない。また、ラヴァインの言葉を借りるとそういう風にも思えなかった。
「ブライト」
「はい、何でしょか。エトワール様」
「グランツについて何か知ってるんだったら、教えて欲しいの。このまま、モヤモヤするのは嫌。確かに、グランツの口から聞かなきゃいけないってのは、分かっているけど」
けど、このままグランツに黙られるのも、話が進まないのも嫌だと思った。
そんな私達の様子を見てか、ラヴァインはエトワール、と私の名前を呼ぶ。呼ばれたくもないと睨み付けてやれば、ラヴァインはによによと笑っていた。何が可笑しいのかさっぱり分からない。
「何よ。笑って……」
「いーや、君は、君の護衛のことを何にも知らないんだと思って。それとも護衛に何も聞かされていない? そいつ、偽りだらけで本当なんて一つもないよ」
「エトワール様、耳を貸さなくてもいいです。こんな奴に」
ラヴァインの言葉をグランツはばっさり切りながら私の方をちらりと見た。恐ろしいほど黒く渦巻いた翡翠の瞳をみていると、ギュッと心臓が捕まれるような気分になる。
何をそんなに隠したいのだろうか。隠し事をする時点で後ろめたい何かがあるのだろうけれど、それにしても、ここまで隠す理由は。知られたくないものとはなにか。
(気になって仕方ないけど、この状況で聞くのも……)
きっとグランツは、何でもない、気にしないで下さい。都会産んだ折るなと容易に想像が出来てしまうのが悲しいところだった。
ラヴァインは肩をすくめる。
「というか、グランツ・グロリアス。君は、主人に隠し事なんてしていいの? 相当悲しんでるんじゃない? エトワール」
「わ、私は」
「隠し事でも何でもないです。ただ、エトワール様には関係無いと思い……こんな情報を知って喜ぶのは、貴方たちぐらいじゃないでしょうか」
挑発するようにグランツは言ったが、論点がすり替えられていることに私は少し腹が立った。悲しい思いというか、言ってくれたら嬉しいな程度には思うけれど、自分で隠し事ではないが、関係無いから話さない。と言ったことに対しては矢っ張り隠し事してるじゃん。と問い詰めたくなる。何だか、この流れで、ラヴァインが暴露してくれそうなので、私は黙って経緯を見守った。この中で、グランツの正体に気付いていないのは私岳みたいだし。
(ブライトもあえて言わないって事は、個人情報だからとか云々の話じゃなくて、きっともっと深い言えない事情というものがあるのだろう)
いや、別にブライトが口軽いとか二人きりだったら話してくれるとかは思っていないし、情報漏洩とかもしないとは思っているから……と、取り敢えず、自分の中で固めてしまっていたブライトの像を壊しつつ、結局結論は何かと二人をみる。
「闇魔法の者を恨む気持ちは分かる。俺達だって、そこのブリリアント卿達がいなければ貴族の中でトップに君臨できたって言うのに。まあ、お互い様だとは思うけどね、そこは」
ラヴァインは以前一番になりたいと言っていたからそういうこともあって、彼の話は納得してしまう。爵位であれば、どう考えてもラヴァイン達の方が上だろう。だから、彼が光魔法の者を恨んでいるのも分かる。グランツだってそういう理由なのだろうとは思うけど。
「ああ……勿論、恨んでいます。今でもあの悲劇は忘れない……貴様達が乗り込んできたときのことを」
敬語が外れた、グランツはそう叫んだ。痛いぐらいに声が反響し、私は眉間に皺を寄せる。もう少し、後一ピースで全てが埋まりそうだった。
「残念ながら、俺はあの時いなかったよ。まだ小さかったしね。でも、確かに、あの時兄さんはいた。それを、言いたいんでしょ? だったら直接言えば良いじゃん」
「…………」
「今の立場じゃ、兄さんに会うことも出来ない何て、本当に可哀相だね。グランツ・グロリアス」
ラヴァインの煽りはさらにグランツの神経を逆なでしていった。寸前の所で絶えているが、いつ、グランツがその件を振るうかも分からない。でも、ラヴァインがそんなので倒される奴じゃない事もよーく理解している。だからこそ、煽って何を狙っているんだと。
「貴様の言うとおりですよ……ラヴァイン・レイ。だが、皆一緒だ。闇魔法の者は皆、ずる賢くて、汚らわしい奴らばかりだ。貴様もそうですよ、ラヴァイン・レイ!」
「お~怖いね。さすが『元』王族の放つ殺気は違う」
と、ラヴァインが言ったと同時に、グランツはぷちんと糸が切れたかのように走り出した。
「エトワール様、離れて下さい。巻き込まれます」
「わっ……」
ブライトに抱きかかえられ、自分ごと光の立方体にて防御の態勢に入ったブライトと、目の前で戦闘になってしまったグランツと、ラヴァイン。ラヴァインは風の魔法を付与して戦っているのだろうが、グランツはそれに追いついている。もし、グランツに魔力があってそれを付与しているとしたら。だが、その線は薄いようにも感じられた。グランツから魔力を使っているといった感じがしなかったからだ。ただ、ラヴァインの動きを目で見きってさばいていた。並の人間の出来ることでは無い。あんな中に突っ込んだらすぐに死んでしまうだろう。
「…………」
「エトワール様」
「ブライト、私の思っている事ってあっているかな?」
「……」
「アルベドに前聞いたことがあったの、生きてるって」
そう言うと、ブライトは諦めたように、二人の戦闘を眺めながら息を吐いた。
今ので確信が持てた。
「そうですね……彼の口から本来は言うべきなのでしょうけど、気づいているようなので言わせてもらいます。グランツさんは……いえ、グランツ・グロリアス様はラジエルダ王国の最後の生き残りであり、王族……第二王子です」