「グランツ・グロリアス様は、ラジエルダ王国の生き残りであり、第二王子なのです」
そう言ったブライトの言葉には驚きもしなかった。いや、多少の驚きと、自分の予想が合っていたことを喜びつつも、前々から感じていた疑問が解消されてよかったとは思った。
アルベドとグランツと、そしてアルバとトワイライトが攫われたとき彼らが話してくれたラジエルダ王国のこと。それが今になって繋がったというわけだった。グランツのこれまでの不可解と言える行動が全て納得が出来、モヤモヤとした気持ちは解消されたのだが。
(王族……それも、第二王子……)
もしかすると、リースと立場が似ているのではないかと思った。だからか、横柄な態度を取ることはあったし、品がいいと思うときもあった。それでも、王族かと言われれば王族っぽくないし、それを隠していたという感じの振る舞い方はしなかった。素があれなのだろう。敬語が外れない、そして感情が表に出ないのは今に始まったことではないのだろうと。
「そう、なるほど……ね」
「エトワール様も気づいてらっしゃったんでしょ?」
とブライトに言われ、私は首を縦に振ることは出来なかった。前々から不思議だなと思っていたけど、不思議だなと感じる程度だったし、それがどうこうという訳でもなかった。だから、気づいたのはついさっきといった感じで、ブライトにそうでしょ? 何て言われて、そうですね。とは答えられなかった。
ブライトは、首を傾げて私を見ていたが、私は知らないフリをした。
ブライトはいつ気づいたのだろうか。そう、疑問に思って、自分は答えれないと言うことを隠しながら、彼に尋ねた。
「ブライトは、いつ気づいたの?」
「結構前、ですかね……確証を持てたのは、エトワール様が僕達の領地を訪れたときでしょうか。あの時、グランツさんと話してた内容がそれなんです」
「あ、ああ……そうだったの」
あの時のこと、と言えば何となくぼんやりと思い出せた。何でブライトが平民のグランツなんか…とは言っちゃ駄目だけど、口にしないけど、話があるんだろうって疑問に思っていた。その時から、私も既に可笑しいなとは思っていたし、あの時より前からブライトは勘付いていたのかと思うと、さすがだと思う。
だって、光魔法の者はあまりラジエルダ王国の事を知らないようだし、歴史から抹消されたも等しかったらしいから。そこで起った出来事を覚えているのは当事者か、ヘウンデウン教の者達だけ、アルベドが知っていたって言うのは、まあグランツが彼に怒りを向ける原因の一つなんだろうけれど、だからこそ、生き残りというのがいることは、あの国で何が起ったのかを知るに重要なのだろう。知ったところで、反撃できるわけでも、そこの王様達は死んでしまっているわけだろうし。
そんなことを考えていると、ブライトに声をかけられ、私は肩を上下させた。
「あ……ごめんなさい、エトワール様」
「う、ううん、気にしないで吃驚しただけだから」
いや、思った以上に心臓が飛び出そうだったけど、平然を装ってブライトの方を見る。ブライトも吃驚して目を丸くしていたが、すぐににこりと笑った。少し困り眉だったのは、多分私のせいだろう。
「そ、それで何?」
「グランツさんの……様の」
「ブライト、多分無理して言わなくていいと思うよ。って、私が言ったらあれかもだけど、多分あっちには聞えてないし、そのまま言っても良いと思うんだけど」
「……分かりました。お言葉に甘えてそうさせて貰います」
私に隠すために、グランツのことを「さん」付けしていたが、滅びたとは言え、自分よりも身分の高い人間であるグランツには「様」をつけないといけないと思ったのか、ブライトは言いにくそうに顔をしかめていた。しわしわになってる、と内心思いつつも、ブライトのそういう真面目なところはいいところだなとは思っている。
私の言葉に甘えてとはいったけど、本当にそんなんでいいだろうかとも思う。でも、あっちでバチバチに戦っている二人をみると、きっとこっちの声なんて耳に入っていないことだろうと思った。
それで、ブライトは何を話すのだろうかと。
「ブライト?」
「はい。グランツさん……元から、ユニーク魔法を使える人間はとても稀少なので、とても気になってしまい。ですが、ラジエルダ王国でユニーク魔法を使える王族がいたとは聞いたことがありませんでした。文書にも残っていませんでしたし、今でも不思議です。初めは、王族だから使えるとばかり思っていましたが、彼の魔法を斬ることのできる魔法は、やはり謎に包まれているのです」
「他に、ユニーク魔法を使える人とかいるの?」
「はい……ですが、知る限りでは少ないです」
「誰?」
質問攻めにして申し訳ないと思いつつ、ブライトはにこやかに答えてくれるものだから、私こそ彼の言葉に甘えてしまっていた。
確かに、王族とか皇族とかはユニーク魔法が使えそうだけど、ラジエルダ王国の文書に書き残されていないという音荒、後から発現した可能性も高いんじゃないかと思った。どういう感じで、ユニーク魔法が発言するか分からないけれど、もし、初めからもっていたんじゃなくて後天性だったとしたら理由がつけられるんじゃないかと。
聖女の魔力はまたユニーク魔法とは違うと言っていたが、それと近いものだろう。まあ、聖女が特別って言うのは、痛いぐらいに分かっているつもりだけど。
(まあ、グランツって攻略キャラだし、攻略キャラは皆持っているものだと思っていたけれど)
見たところ、その言い方だとブライトは持っていないみたいだし、ルクスとルフレが持っているのなら、きっと私達に一目散に自慢しただろう。彼らの性格を考えると、隠し事は苦手な気がするし、いちいち行ってきそうな気がするのだ。じゃあ、アルベドは? ありそうだけど、能ある鷹は爪を隠すみたいな、きっと隠しているに違いない。今度聞いてみようかとは思うけど、はぐらかされそうだ。それで、ブライトは持っていないと。
じゃあ、残るは?
「リース殿下は、ユニーク魔法を持っています」
「リースが!? じゃなくて、殿下が!?」
思わず呼び捨てにしてしまったことで、私は咄嗟に口を塞いだ。失敬、不敬すぎると、リースが許しても周りが許さないだろうと思った。というのは、置いておいて、そんなこと聞いたことないと、ブライトをみた。ブライトも、首を傾げていて、言った本人なのにもかかわらず、何でそんなかおをするのだろうかと疑問に思っていると、その疑問はすぐにでも解消された。
「持っているという風の噂です。実際見たものはいないようです……いた、としても消されているでしょうね」
「え? どうして?」
「殿下は皇帝になるお方ですから、そんな手の内を明かすようなことしないでしょう。ユニーク魔法を使った日には、周りにいたものを全て消してしまっていると思います」
「そんな、非情な」
そこまでリースがするだろうかと私は思った。遥輝が憑依する前のリースならあり得るけれど、遥輝inリースはそんなことをするのかと思ってしまった。確かに、リースは遥輝もそうだけど人間不信で、人を極端に信じられない人間だから、味方にも自分のユニーク魔法をバラして、敵にリークする人がいるかも知れないって考えるかも知れない。だから、味方事ユニーク魔法で吹き飛ばしてしまう、というのもあながち間違いではないかも知れないと。
でも、そんな風の噂って、噂を信じるものなのだろうか。
貴族は、噂が好きだし、私の前すんでいた世界だってゴシップが好きだった。だからそういうのに食いつく気持ちは分からないでもないけれど、そんなので、ユニーク魔法みたいな稀少なものがあるとか言うものなのだろうか。絶対に、誰かはみているはずだ。
「誰か、見た人とかいないの?」
「僕は実際見ていないので……ですが、代々、ラスター帝国の皇族は強大なユニーク魔法を持っていると言います。ですから、殿下も例外ではないかと」
「……へ、へえ」
ブライトは、詳しく言えなくて済みません。と自分の過失を認めて、目を伏せた。
まあそれはいいとして、そこまで言われると気になってしまうなあと思った。気になってしまう好奇心旺盛なのは人間の性というものだ。帰ったら、直接リースに聞いてみようかと思う。まあ、彼自身自分の力に気づいていなくて、使えないかも知れないけれど。
(って、こんな話をしている場合じゃないのよ!)
私はすっかり話しに聞き入ってしまっていて、何でこうなったのか、原因のグランツとラヴァインに目を向けた。まだ彼らは、剣を振るいぶつかり合い一歩も引かない状態だった。
「か、勝てるよね」
「大丈夫でしょう。エトワール様、貴方の護衛を信じてあげて下さい」
「う、うん。だと思ってるけど……」
グランツが押しているのか、ラヴァインが押しているのか素人の目では分からなかった。だから、ブライトに解説を入れて欲しかったんだけど、勝利を信じて下さいとだけ言われてしまって、聞くタイミングを逃してしまった。
キン、カキン……と金属がぶつかる音が響き、その衝撃波が伝わってくる。光も立方体は、光の盾よりも耐久力も防御力も高いけれど、その側面に手を当てれば、衝撃波が手に伝わってきた。どれだけレベルの高い戦闘を繰り広げているんだろうと。本気を出したら、グランツもアルベドに勝てるんじゃないかとも思ってしまった。
(……グランツって、ユニーク魔法以外にも、魔法って使える……のかな?)
そう思って目を凝らして見ると、シュンとこちらに向かってナイフが飛んできて、光の立方体に突き刺さり、そこにヒビが入った。
「……ひ、ひぇ……」
どうやら決着がついたようだった。
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