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「いいですか。
シルヴァ提督の船から目を離さないで
ください。
どんな小さな動きも見逃さないように……」
モンステラ聖皇国・カービング港―――
その港湾管理施設の一角で、病的なほど痩せた
青年が指示を出す。
「現在、シルヴァ提督の船は沖合いに向かって
進んでおります」
「この明滅している点がその船です。
もし何者かが合流……
もしくは船から離れようとすれば、
その魔力反応が別に確認されるはずです」
レオゾ枢機卿の指示の下、部下の彼らは
レーダースクリーンのような魔力探知機の
画面を食い入るように見つめていた。
「どうもランドルフ帝国、その同盟国には―――
水中戦力、というものがあるようですから……
ラミア族か、人魚族かそれとも……
ともかく魔力反応に注意してください」
指示を出す彼もまた、その魔力探知機の画面を
目を皿のように見つめ―――
監視を続けた。
―――10分後―――
「まだ……ですか?
何か動きは……」
「いえ、そのまま沖合いに進んでおります」
「一直線に進んでいるだけですね……」
―――30分後―――
「どうですか?
何か異常は―――」
「か、確認出来ません」
「このままだと探知範囲の外に出ます。
魔力出力を上げ、探知範囲を最大限に
広げます!」
―――1時間後―――
「…………」
「い、今探知範囲外に出ました」
「これ以上の魔力反応の追跡は、
不可能です……」
結局、カービング港の魔力探知範囲の外に
出るまで、シルヴァ提督の船は何ら怪しい
動きを見せず―――
その事実を前に、レオゾ枢機卿はガックリと
うなだれた。
「カービング港からもう2時間以上航行した。
さすがに、魔力感知・探知の類の範囲からは
脱出したはずだ」
黒ひげをたくわえた、筋肉質の海賊のような男、
シルヴァ提督は、空中の浮遊島から垂らされた
魔力通信機の端末に向かって話す。
『ここまでありがとうございました。
もう大丈夫です。
これから私たちはランドルフ帝国まで、
一直線に向かいます。
今までのご協力感謝いたします』
浮遊島からはシンが、海上の提督に対し
礼を述べる。
「おう、メルビナ大教皇様にもよろしくな」
『はい。そちらも女帝イヴレット様に……
ウィンベル王国・ラーシュ陛下以下、非常に
感謝していたとお伝えください』
そこで魔力通信を切り、浮遊島まで引き上げる。
「安全圏に達しました。
みなさん、お疲れ様でした。
これより全速力で、ランドルフ帝国へ
向かいます!」
『見えない部隊』メンバーに告げると、
全員が片腕を挙げて喜びを表現する。
「制御及び位置把握に必要な人員を残し、
あとは休んでください。
私は何か作りますので―――」
私の言葉に、伸びをする者、浮遊島上の
施設に向かう者、その場に座り込む者と
思い思いの行動を取り始め、
そんな彼らを見届けると、私は施設内の
厨房へと足へ進めた。
「シンさん」
軽食を希望者に振る舞った後……
青い髪を後ろで三つ編みにした女性が
私を呼び止める。
「あ、ティーネさん。
どうですか? メルビナ大教皇様の具合は」
「は、はい。
料理をすっかり平らげられた後、また眠りに
おつきになりました。
やはり、1ヶ月程度とはいえ軟禁生活の
疲れがまだ取れていないのでしょう」
大教皇様自身、自分に問題は無いとなるべく
起き上がろうとしているみたいだけど、
彼女の言う通り、やはり大聖堂内での軟禁の
影響か、すぐ横になってしまうらしい。
実際この目で見た感想は、あれは軟禁というより
ほとんど拘束だったからなあ。
「しかしその……
この島、浮遊島ですか。
白翼族の方の住まいなんですよね?」
「ええ、そうです。
正確には、彼らはこういう浮遊島を作り上げる
技術を持っており、これは小さいものを作って
頂いて、譲り受けました」
覚悟してトップシークレットを知る立場になった
彼女には、取り立てて秘密にする事も無く話す。
「不思議といえば、不思議な事だらけ
なんですけど……
特にトイレとかどうなっているんでしょう。
最新の水洗式なんですけど、どこに流れて
いくんでしょうか」
「基本は浄化して、循環させるように
していますね。
スカベンジャースライムってご存知ですか?
あれ、汚物を浄化する性質があるんですよ。
ウィンベル王国では、王都や公都などで
一般的に使われています」
「ス……スカベンジャースライムを、
ですか……」
ティーネさんは目を丸くして驚く。
同時に、こういう世間話的な話題が出て
くるのも―――
メルビナ大教皇様を助け出し、モンステラ聖皇国
から脱出したという安心感からだろう。
「予定では、一両日中にランドルフ帝国に
到着します。
それまでティーネさんは大教皇様に
付き添って差し上げてください」
「はい! わかりました!」
そして大教皇様の元へ向かう彼女を
見送った後―――
私も緊張から解放されたからか、眠気が
襲って来たので、ひと眠りする事にした。
「メルビナ大教皇様の御身柄はこちらで確かに
お預かりいたしました。
後はお任せください」
パープルの長髪を眉毛の上で揃えた痩身の
女性、ティエラ王女様が私に頭を下げ、
慌ててこちらも返礼する。
「いえ、私はあくまでもラーシュ陛下のご命令を
遂行しただけですので」
ここはランドルフ帝国、帝都グランドール……
その大使館内で私は王女様と極秘裏に会い、
任務の顛末を伝えていた。
「これからシン殿はどうするのですか?」
「予定では、浮遊島に乗ってそのまま
ウィンベル王国まで帰る手筈だったん
ですけど……
早く本国に報告した方がいい、と
みんなに言われまして」
これは、『見えない部隊』メンバー全員から、
『身重の奥さんたちがいるんでしょ』『早く
帰って安心させてください』と気遣われた事も
あり、
私が『見えない部隊』の一人と一緒に先行して、
『ゲート』を使って王国まで帰る事を勧められた
のである。
私が申し訳なさそうにしていると、それで
彼女も察したのか、
「あ……そういえばシンさんの奥様方、
お2人とも身籠っておられるんでしたね」
「はは、まあそういう事ですので―――」
私が頭をかくと、ティエラ王女様は続けて、
「それと、ベッセルギルドマスター……
アウリス様からも伝言があります。
ランドルフ帝国への協力感謝と、もし帝国に
何かあれば助力は惜しまないと言って
おられました」
ランドルフ帝国の冒険者ギルド―――
そこのギルドマスターであるベッセルさんは、
実は正体はエルフで、モンステラ聖皇国とも
深い関わりがあるのだ。
(■215話
はじめての すぱいたいさく参照)
なので今回、メルビナ大教皇様の救出に際して
彼にも連絡を取っており、その過程で自分の
正体をランドルフ帝国にも明かし、
以後、裏で協力体制を結ぶと約束してくれた
のである。
「そうですか……」
「それにしても、こうまで我が国との関与を
見せずに、あっさりと救出を成功させる
なんて。
改めてウィンベル王国と同盟を組んで、
心から良かったと思いましたわ」
その後、大教皇様の警備体制や大ライラック国、
モンステラ聖皇国への対応などを確認した後、
ティエラ様は大使館を後にし―――
私はウィンベル王国へ帰還するため、
『ゲート』へと向かった。
「任務ご苦労さん。
ま、お前さんなら心配は無いと思ったが」
私と『見えない部隊』の一人がウィンベル王国の
王都・フォルロワへ到着した時……
時刻はすでに深夜となっていたが、
ライさんは起きており―――
金髪を腰まで伸ばした童顔の女性・サシャさんと
ミドルショートの黒髪の眼鏡の女性……
ジェレミエルさんも待機してくれていた。
「もう3日もすれば、浮遊島ごと残りの
『見えない部隊』も帰ってくると思います」
私と報告のために『ゲート』を使用した青年が、
補足するように語る。
「しかし、魔導爆弾を絡めての拘束とはなぁ。
本当に宗教国家か?」
グレーの短髪に白髪の混じった、細マッチョな
ギルド本部長が眉間にシワを寄せる。
「それにしても、これで大ライラック国と
モンステラ聖皇国が組んだのは決定ですわね」
「国力は……
大ライラック国が人口2千万強、
モンステラ聖皇国が1千5百万くらいですか。
厄介な事になりそうですね」
サシャさんとジェレミエルさんが、呆れるような
苦笑するような表情となる。
「それに加え―――
亜人や人外の奴隷がいるからなあ。
ったく、明日から対策会議開きまくりだぜ。
まあいいか、いざとなりゃシンを両国に
放り込めば解決するだろうし」
「私は最終兵器か何かですか!?」
ライさんの言葉に私が言い返すと、
「え? 違うんですか?」
「今現在この世で、最強の切り札だと
思うんですけど」
秘書風の女性二人の回答に、私はただ一人残った
『見えない部隊』の彼に視線を送るが、
「……正直、向こうの大聖堂の魔導具全てを
無効化させた時は、初めて敵に同情しました。
いやー何しても無駄じゃんコレって―――」
こうして私はしばらく彼らにいじられ続け……
翌朝、『ゲート』で公都に帰る事となった。
「ただいまー」
『ゲート』を通って公都『ヤマト』に帰った
私は、いったん自分の屋敷に帰還。
「おとーさん、お帰り!!」
早朝だったという事もあって、まだ『ガッコウ』は
始まっておらず―――
中学生くらいの、ショートカットの黒髪をした
ラッチが飛びついて来て、
「シン!!」
「いつ戻ったのじゃ!?」
次いで、アジアンチックな女性と豊満なボディを
した、欧米風の同性……
メルとアルテリーゼが出迎える。
そして約一ヶ月ぶりに―――
一家団欒のための朝食を作った。
「ん~! やっぱりおとーさんの手料理
美味しー!!」
「何かゴメンね、疲れて帰ってきたばかり
なのに」
「しかし久しぶりのシンの料理は染みるわ……」
家族が私の料理に舌鼓を打ち、
「自分が作りたかったからいいんだ。
それより、私がいない間―――
公都で何か変わった事とかは?」
雑談と情報共有で私が近況を聞くと、
「やっぱり、公都内の建物が増えた事かなー」
「今、元スラム区域だったところも含め、
急激に施設を増やしているからのう」
「建物? 施設?」
妻二人の言葉に私が首を傾げると、
「今ねー、公都内に冒険者ギルドを4つばかり
増やしているんだって。
他に『ガッコウ』や児童預かり所、詰め所って
いうのもどんどん建てているらしいよー」
続けての娘の話にうなずく。
そういえば公都の人口、1万人近くになって
いるんだよな、確か。
そりゃ今までの規模の公共施設では収容出来ない
だろう。
「その件を聞く事も含めて、後でギルド支部に
行ってみるか。
ラッチは今日『ガッコウ』か?」
「そーだよ!
っていけない! もう行かないと」
焦るラッチに私は疑問を持つ。
確か『ガッコウ』って、朝十時くらいの
始業時間だったと思うが……
「早くないか?」
「えっとね、その前に児童預かり所に
寄るんだー。
起こしてから朝食までの時間がかなり
忙しいからって話を聞いて、手伝って
いるのー」
それを聞いてメルとアルテリーゼは理解した
ようにうなずき、
「あ~、そうだよね。
特に子供たちの寝起きは戦場だよ」
「我もメルっちも手伝った事があるが、
おねしょしている子がいたり、着替えさせたり
食事の準備やらでの。
目が回るような忙しさであった」
そういえば二人とも、児童預かり所にラッチを
預けていたからか―――
付き合いが長く内情に詳しいんだっけ。
「今は私たちもホラ、お腹がこんなだしさ」
「ミリアやルーチェも手伝えておらぬはず
だから、ラッチは貴重な戦力だろうて」
なるほど、そういう事情もあるのか。
確かに、申し合わせたかのようにみんなの妊娠が
発覚したからなあ。
「というわけで行ってきまーす!!」
と、元気良く玄関から出ていく娘を見送り、
「じゃあ、自分も少ししたら冒険者ギルド支部に
向かうから」
と、玄関から戻ろうとすると妻二人が両側から、
私の両腕をガッチリとホールドし、
「……?
どうしたんだ? メル、アルテリーゼ」
「いやまぁ~?
ラッチもお出かけしたところですしぃ」
「一ヶ月もご無沙汰だったのじゃぞ?
する事は決まっておろう?」
二人の申し出に自分は困惑し、
「い、いや?
だって2人ともお腹がそんなだし、
大丈夫なのか?」
「ダイジョーブダイジョーブ♪
口や手でするから♪」
「だからシンも出来ればそれでの♪
大きい方の風呂もすでに沸かせておるでな♪」
と、私はそのまま大浴場へ連行され―――
ギルド支部に向かうのは昼過ぎとなった。
「おう、シン。久しぶりだな。
ずいぶんとやつれたようだが……
今回の依頼、さすがにキツかったようだな」
「いえ、任務自体はさほど……
この疲れは戻って来てからと言いますか」
「??」
支部長室で、その部屋の主であるアラフィフの
筋肉質の男性は首を傾げ、
一方で私と同じく、妻が妊娠している褐色肌の
青年は、微妙な表情でうなずく。
「まあ詳細はすでに、王都からの魔力通信機で
把握しているからな。
つか大ライラック国とモンステラ聖皇国―――
この二ヶ国は敵で確定だなあ」
眉毛の間に人差し指をあてて悩むジャンさんに、
「戦争になるッスかね?」
レイド君が問うと、彼は大きくため息をついて、
「なるだろうな、確実に。
ランドルフ帝国とドラセナ連邦は、こちらに
歩調を合わせて方針転換している最中なのに、
あからさまに逆行する姿勢を取っている。
完全敵対を覚悟してなけりゃ、出来る行動じゃ
ねぇだろうよ」
確かにこのあたり、匙加減は難しい。
こちらの意向に沿わなければ敵、というわけでは
無いのだが……
今のランドルフ帝国や同盟諸国が、人間以外の
種族との協調路線を歩み始めているその時に、
メルビナ大教皇様から聞いた話は―――
迫害を加速させるものとしか思えない。
つまりジャンさんの言う通り、すでに
敵対フェーズに入っているという事だろう。
戦争をやりたがっているわけではないが……
戦争になっても構わない、くらいの状態では
あるはずだ。
「しかし、女子供までッスか。
あまり今のミリアには聞かせられない
話ッスね」
「そうなんですよね。
ウチのも身重なので……
それにラッチもいたので、そのあたりは
誤魔化してありますが」
私と次期ギルド長―――
お互いにお腹に子供がいる妻を持つ夫二人で、
同意するようにうなずき合う。
「そういえばミリアさんは?」
「あー、さすがに腹が目立ってきたんで
休ませている。
シンの言うところの『産休』ってヤツだ。
そういや、シン。
アルテリーゼなんだが、どっちで産むんだ?」
私の質問に答えると同時に、ギルド長が
別の疑問をぶつけてきて、
「どっちと言いますと?」
「アルテリーゼはドラゴンだろう。
確かドラゴンは卵で産むんだったよな?
人間の時の姿か、それともドラゴンで産むのか
ちと気になってよ」
「そういえばケイドさんと結婚した
リリィさんは、魔狼の姿で産んだって
聞いているッスけど……
どっちでも産めるものなんスかね?」
父と息子のように、ジャンさんとレイド君が
聞いて来る。
「それは聞いてみた事があるんですけど、
人間の姿で妊娠したので―――
そちらで産みたいって言っていました。
ただドラゴンの姿の方が卵だけで済むのか、
そっちの方の姿が楽だという事で、時々
変身して休んでいますけど」
どうも変身に制限が出来るとか、妊娠した時の
姿でしか産めないとか、そういう事は無いみたい
だなあ。
そもそも魔法やドラゴン、人外自体、
地球の世界には無かったものだから、
その辺は割り切っているが……
「他に何か変わった事とかはありません
でしたか?
あ、そうだ!
何でも、元スラム地区にいろいろと建てて
いるって話を―――」
そう私が切り出した途端、
「思い出した!!
悪ぃがシン、今すぐ魔界へ行って
くれねぇか?」
「魔界!?
な、何かあったんですか?」
突然大声を出すギルド長に驚いていると、
「まぁ落ち着け。
別にいざこざがあったわけじゃねぇ。
今、元スラム地区は建築を大量に進めて
いるんだが、
あの魔界から調達している石は魔力が
高過ぎて、お前さんの『無効化』が必要
だっただろ?
王都と公都を結ぶ『鉄道』が完成したから、
落ち着くと思っていたんだが……
冒険者ギルドや詰め所、児童預かり所、
『ガッコウ』を作るとなるとどうしても石材が
必要になってな」
「あー、そうそう。
それでそれらの建築がうまく進んで
いないんスよ。
ただ、木材部分で作る方はだいたい
出来上がっているって話ッスから」
そういえば私がいる前提で、魔界の石って
使っていたんだっけか。
クアートル大陸に向かう前に、結構『無効化』
していった記憶があるんだけど―――
まあでも建築ラッシュだからな。
あっという間に消費されてしまったのだろう。
「わかりました、すぐに行きます」
そして私は帰って来て早々、依頼をこなす
事になった。
「戻りましたー」
「おー、お疲れさん」
「マジすか?
まだ1時間も経っていないッスけど」
冒険者ギルド支部に戻ってきた私は、
依頼完了を二人に報告する。
「結構あったと思うんだが……
大丈夫か?」
「私の場合、魔力ではなく単なる能力
ですからね。
むしろ『無効化』の範囲に誰もいなく
なるよう、誘導するのが大変でした」
魔界では、運搬・砕石・無効化・『ゲート』で
公都まで運ぶ―――
というのが作業の流れであり、
(■212話 はじめての せいうち参照)
私がずっといなかったので、砕石済みの石が
大量に山積みにされて困っていた。
「結構溜まっていましたし……
一気に終わらせたので、向こう3ヶ月は
供給に支障は出ないんじゃないでしょうか」
「さすがにそれだけありゃ落ち着くか」
私とジャンさん、レイド君の三人の間に、
ホッとした空気が共有される。
「しかし、私がいないと困る事態というのは
なるべく避けるようにして来たつもりなんです
けど―――」
「こればっかりはしゃあないッスよ」
次期ギルド長の青年が、なぐさめるように話す。
「とは言え、今回みたいなシンの長期不在は、
今後あり得る話だからな。
何か考えなけりゃならんかもなあ」
ギルド長が腰に手を当ててため息混じりに語る。
「無効化、とまではいかなくとも……
要は魔力濃度を下げればいいわけですから。
何か無いですかね。
魔導具みたいに魔力を消費してくれる
物とか」
「魔力封じの腕輪とか、アレを応用出来ない
ッスかねえ」
「ありゃ正確には無効化しているわけじゃ
ねぇぞ?
体内で魔力を固定して、体外に出せないように
しているだけだ。
ちょっと高いヤツなら、何なら魔力吸収も
やっているが」
そこで雑談がてら、三人で話し合いとなった。
『似たような研究ならやっているぞ?』
「本当ですか!?」
その後、小一時間ほど話し合ったのだが―――
専門家に聞いてみりゃどうだ? という至極
真っ当な意見がジャンさんから出され、
そこでダメ元で王都のライさんに、王家直属の
研究機関でそういう魔導具は開発していないか、
魔力通信機で聞いてみたところ……
あっさりと答えが返ってきた。
「でもどうしてそんな研究を?」
『どちらかと言うと『魔力溜まり』に関しての
研究だがな。
魔力そのものを吸い取って、危険地域を安全に
浄化出来ないかどうか―――
昔からいろいろ考えてはいたんだよ』
そうか。確かに『魔力溜まり』は今までにも
様々な場所で出て来たし……
対策は研究されていたのだろう。
「その研究を見せてもらう事は」
『そうだな。
直接見るのが手っ取り早いだろう。
それに石材の確保は確かに重要課題だからな。
お前さんからも―――
何らかの意見や提案とかあると助かる』
そうして人脈をフル活用し……
私は翌日『ゲート』を通じて、王家直属の
研究機関へ行く事が許可された。
「お久しぶりですな、シン殿。
何でも、『魔力溜まり』関連の研究が
見たいとか」
痩せた白髪の老人―――
リオレイさんが出迎え、案内してくれる。
ここの研究機関の所長であり、あらゆる計画・
開発の統括責任者でもあるのが彼だ。
「そういえばシン殿は、いくつもの
『魔力溜まり』の土地を解決なされたとか」
「まあ成り行きで……
それで、やはりそういった魔導具の開発も?」
彼はすっかり白くなった頭を撫でながら、
「本来なら最重要機密に属する事ですが、
シン殿ですからな。
それにいくつか助言を頂きたいと思っていた
ところでもありましたので」
そう言いながら所長は、施設の奥深くへと
自ら案内していった。
「開けなさい。所長のリオレイだ」
「ハッ!!
ここから先は危険度も跳ね上がります。
くれぐれもご注意を……!」
門番らしき武装した兵士が立っていた扉を
くぐると、さらに長い階段が現れる。
スタスタと年齢に似つかわしくない足取りで
降りて行くリオレイさんに、私は声をかけ、
「『魔力溜まり』の研究って、どれくらい
進んでいるんでしょうか?」
すると彼はピタリと足を止め、
「……実は、すでに『魔力溜まり』の再現には
成功しておるのです」
「ええっ!?」
思わず驚くと、所長はニカッと笑い、
「シン殿でも驚く事があるのですな」
「い、いやそりゃそうですよ。
でも再現って―――
すごいじゃないですか!」
するとリオレイさんは再び歩き始め、
「まあ、正確には『魔力溜まり』の土地から
一部の土を持ち帰り、その複製に成功した
だけですが。
後はその魔力をいかに正常化、もしくは
浄化・無効化出来ないかをいろいろと
テストしておりましてな」
国家の最高の頭脳が集まっているのだ。
私が思っているよりも、よほど対策・対応は
進んでいるのだろう。
「……ここですな」
とある部屋の前にたどり着いた所長は、
そう言うと無造作に扉を開ける。
そこには、まるで家庭菜園のような、
畑のように広がった土があり、
範囲にしておよそ縦五十メートル、
幅四十メートルほどの空間があった。
「ここが『魔力溜まり』再現施設です。
判明しているのは―――
魔力濃度が高い事、魔力以外の成分が
含まれている事……
その成分がいつ、どこから足されるのか
まったく判明していない事。
これくらいなのですよ」
他の研究員たちらしき人たちもわらわらと
出て来たので、私は彼らにも質問してみる。
「吸収したりする事は出来ないのですか?」
「それは魔導具を使ってやってみましたが、
結局は移動させるのみで、根本的な解決には
至りませんでした」
「それに―――
一度発生してしまった『魔力溜まり』は、
根付くようなのです。
いろいろと発生に適した条件が重なった結果、
長くその場に留まっているものと」
なかなか厄介な性質だな……
それに何がきっかけでそうなるのか、
そして魔力以外の成分がどこから来るのか
わからないというのは。
「シン殿は、このような現象に心当たりは?」
「地下で腐敗したガスが溜まって、地上に
出て来るという現象は考えられますが。
ただ魔力で同じ事が起きるのかと言いますと」
私の言葉に、研究員たちが熱心にメモを取る。
「ふむ―――なるほど。
それで、その場合の解決法とかは?」
「う~ん……
解決というか、ガスを無くしたいだけなら、
可燃性ならば火を着けて一度燃やし尽くして
しまう、という手はあります。
あと考えられるのは―――」
「考えられるのは……!?」
リオレイさんと研究員たちがグイグイと迫って
来る中、
「じょ、条件を変えてしまったり、とか。
吸収したり減らしたりするのではなく、
魔力濃度が高いというのであれば―――
もっと濃くしてみたり?
魔力以外の成分が、どこから来たのか
わからないというのであれば、もしかしたら
魔力が一定以上の濃度になる事で、別の物質に
変化している可能性も」
すると研究員たちはバタバタと動き始め、
「魔力濃度をさらに上げるぞ!!」
「動力源専用の魔導具を使え!」
「実験区画にいる研究員は退避せよ!!」
どうやらさっそく実験を行うらしい。
そのスピーディーさに感心してしばらく
眺めていると、数分後、
「実験準備完了!!」
「魔導具、接続しました!!」
「9号区画に放出する!!
開始10秒前……!」
「あっオイ! まだ全員避難が―――」
何やら不穏な会話が混じって聞こえ、
大丈夫か?
と思って見ていると、
遠目に二人ほど、明らかに逃げ遅れた
研究員が見え、
「あっ、シン殿!?」
私は彼らに駆け寄り、抱き着くようにして
地面に引き倒す。そして、
「私の半径2メートル以内を範囲指定!
魔法や魔力など、
・・・・・
あり得ない」
とにかく彼らを助けなければと思い、
やや早口になって呪文を唱えるように
そう言うと、
同時に『ボフン!!』という何かが弾けたような
音が聞こえて、
「ば、バカ!!
まだ人がいたのに!!」
「いや、『万能冒険者』がすぐ助けに
入ったから……!」
「ど、どうなったんだ?」
そこで私は起き上がり、倒れている研究員の
人たちも起こして、
「こちらは大丈夫です!
それで、実験はどうなりましたか?」
私の声に、他の人たちも我に返って、
「きゅ、9区画……
魔力正常化、正常化しております!
『魔力溜まり』の浄化に成功しました!!」
ここに、『魔力溜まり』の対策に道が開かれた
のであった。