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前々から嫌な予感はしていた。
それでも、いやいや気のせいでしょ。そんなはずない。もしそうだとしてもあいつは自分の中にしまい込んでさ、表に出すようなやつじゃないじゃん。そう思い込んでいた。
だって普通にさ、ありえないでしょ。そんなの…
「仁人の事が好きです。俺と、付き合ってください。」
「………………むり…ッ!」
『焼肉奢れよ、このやろう。』
SNSで大バズりしてから長年の努力が実を結び、グループとしての活動も個々の仕事も順調に増えてきた。今までより一層メディアへの露出が増えてきた事でここ最近は街中で声をかけられる事も増えてきたように思う。
それでなくともただでさえ目を引くこの人を大衆居酒屋なんていつどこで誰に見られているかも分からないようなところに連れて行くなんてできないよね。
仕方ないから俺のとっておきのお店に連れてったげる。ずっと相談受けてきてたまにアドバイスなんてしてみたり。仕事が詰まりに詰まってパンクしちゃいそうな時でも余裕がなくなってピリピリしちゃってた時もずっとずっと変わらず想い続けてきたの見てきたから。
今はややこしく拗れちゃってるけど最後はハッピーエンドになるって俺知ってるからさ。今はただ話を聞いて、こぼれる涙を拭いてやって、無責任なんかじゃない。確信を持って大丈夫だよって言って支えてあげよう。長い下積み時代から俺らの中でずっと、ただひとり人目に立ち続けた真面目で頑張り屋で一途な友人を。
「仁人の野郎!!気持ちはわかるけどさぁ!もうちょっと言い方ってもんがさぁ!もっと、さぁ…こう……っなんかあったでしょぉ〜!」
「あらら…せっかくのイケメンが台無しだねぇ。可哀想に、よしよし。」
「うゔ…ッ!俺に優しくしてくれるのはお前だけだよ!愛してるぞじゅうたろぉ〜!!」
ありがたいことにそこそこのお給料をいただくようになってプライバシーが守られたお洒落な個室空間が魅力の芸能人御用達居酒屋なんてところにも来られるようになった。木のぬくもりを感じる温かな雰囲気が素敵な掘りごたつ式の個室で我らが最年長様の情けない鼻を拭いてやる。
本当に泣き虫だなこの人。
いや一旦しゃーなしか。長年想い続けてきた人に勇気を振り絞って告白した結果、手酷く振られたとなれば。
「はやちゃーん。明日午後からって言っても撮影あるんだし浮腫めないでしょ?そろそろお酒やめてお水飲みなね。」
「ヴぅ〜…、ありぁとぉ、じゅ〜たぉ〜…」
「あーあ、呂律終わっちゃってるわ。はやちゃん帰れるかなこれ…。」
…いや無理だろうな。しゃーない、一旦連れて帰って…きっとまだ吐き出し足りないだろうからもうちょい付き合ってやるか。
「はやちゃん帰るよ。」
「やだやだかえんない〜!冷たいぞじゅう!俺らさんぱちの仲だろぉ〜!朝まで付き合えよぉ!!」
無駄に長い手足をバタバタとばたつかせ暴れるアラサーを前にして慰めてやろうとしていた気持ちが急激に冷めていく。
こんなお上品なお店で暴れないでよ…。呆れと意外とプライベートでは中々見せない珍行動を目の当たりにした戸惑いで固まっていると荒れ狂っていた手足がピタリと止まり、薄くなってしまった二重の線が降りてきてまた瞳が潤んでいくのが見えた。振り回していた両腕で目尻からこぼれた涙を覆い隠すように目元を覆うと蚊の鳴くような声で本音をこぼす。
「……………わがまま言ってごめん。でも俺…今日は、ひとりでいたくねぇんだよ…。」
「うん、わかってるよ。だから一旦俺ん家ね。朝までは無理だけどもうちょい付き合ってあげるからさ。」
「ごめん…。まじでいい奴な、お前。」
「ふふ。ありがと。俺ほどじゃないけどさ、はやちゃんも充分いい男だと思うよ。」
返事代わりにグズッと鼻をすするといつか彼の想い人が似合うと褒めていたサングラスを腫れぼったい目に被せてとりあえずの体裁を保つ。
さて、今日の俺のミッションはこの哀れな男の自信を取り戻す事。おぼつかない足取りの一流俳優様の肩を持ち立ち上がらせると、さっきのしおらしさはどこへやら。遠慮なしに寄りかかってくるがっしりとした身体を支えてやる。
やれやれうちの年長コンビは本当に世話が焼ける。
そっちもそっちで大変だと思うけど、お互い健闘を祈るぜ。