テラーノベル
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了解。言葉の軽さと中身の重さがずれる感じで続けるね。
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若井は一人、病院内の売店に向かった。
棚を何度も見比べて、
刺激が少なそうなもの、
匂いがきつくないものを選ぶ。
ゼリー飲料、
小さなプリン、
温かいお茶。
「……これなら」
それだけを手に取って戻った。
その頃、涼ちゃんは点滴を打ったまま、
元貴の肩に寄りかかっていた。
二人で一つのスマホを覗き込む。
画面には、
どうでもいい動画。
笑うほどじゃないけど、
無音よりはましだった。
「ここ、ちょっと編集変だよな」
元貴が小声で言う。
涼ちゃんは、曖昧に頷くだけ。
そこへ、若井が戻ってくる。
「これ」
ベッド横の台に、そっと袋を置く。
涼ちゃんは一瞬、視線を落としてから、
困ったように笑った。
「……俺、食べちゃダメだと思う」
元貴の動きが止まる。
「また体重戻ったらさ、
減らすの大変だしね」
軽い調子で、
「でも、ありがと」
笑っているのに、
声は少し震えていた。
元貴は、はっきり言った。
「ダメだ」
袋からゼリーを取り出して、
キャップを外す。
「食え」
短い言葉。
冗談でも、相談でもなかった。
「肺炎だぞ」
「今は戻すとか減らすとかの話じゃない」
涼ちゃんは、言葉を失って、
しばらくゼリーを見ていた。
若井も、静かに言う。
「頑張る方向、今ちょっとズレてる」
逃げ場がなくなって、
涼ちゃんは観念したみたいに、
ゼリーを受け取る。
「……少しだけだから」
吸う。
一口。
また一口。
喉を通る感覚に、
びっくりしたみたいに目を瞬かせる。
「……食べられた」
誰に言うでもなく、
小さな声。
元貴はそれを聞いて、
何も言わなかった。
ただ、スマホを置いて、
涼ちゃんの背中に手を置く。
若井は、残りの袋をまとめながら言う。
「今日は、それで十分」
涼ちゃんはゼリーを握ったまま、
点滴の落ちる音を聞いていた。
体重のことも、
撮影のことも、
一瞬だけ、頭の外に出た。
今はただ、
食べていい時間だった。
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