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アグロクの森で死闘を繰り広げた後に俺たちを待っていたのは残酷な現実だった。右手の甲にタトゥーが入った男に殺されたのだ。俺たちがもっと早くアグロクの森を出ていればこんなことにはなっていなかった。ナリアの言っていた通り、ケールを置いていけば良かったのかもしれない
今の俺たちに出来ることは敵討ちをすること。ヴィネが死んでいなくても右手の甲にタトゥーが入った男は倒すつもりだった。これではっきりとした因縁が出来た
必ず倒す。ヴィネの分まで背負って戦う
ヴィネのあの世でお母さん、お父さんと出逢えているだろうか。この世で幸せに暮らせなかったのは残念だけど、あの世で幸せに暮らして欲しい
「行くわよ」
「おし」「了解」「うん」
俺たちはアグロクの森へ向かった。太陽のほとんど沈んでおり、明かりがなければ前を見通すことができない。俺は暗視のスキルを使ってやり過ごせるけどみんなはないからロイスが持ってきた松明で明かりを確保している
「どこら辺にあった?」
「誰か覚えてないの?」
「………覚えてない」
「普通1人くらい覚えてるでしょ……」
「そう言うナリアは?」
「私も覚えてないわよ」
詰んだ。
敵討ちのためにアグロクの森に来たのはいいけど、肝心な拠点の場所を誰も覚えてない。覚えてるはずがない。ウルアに追いかけられててほんの数秒しかいなかったんだから
しかし、これは非常にマズイ。今自分たちがどこにいるのかも分かってない。辺りも真っ暗だから、帰り道すら分からない
このまま森を放浪するなんてことにならないよね???
「どうすんだよ」
「詰んでるけど……」
「「…………」」ドォーーン!!!!
「何今の!?」
「ただ事じゃないね」
「行ってみるか?もしかしたら拠点かもしれねぇ」
「音のした方向に行ってみよう」
辺りが暗くなってきたように俺たちの先行きも暗くなってきたところで、突然大きな音がした
音のした方向に何があるのかは分からないが、もしかしたら拠点があるかもしれない
ここは音のした方向に拠点があるという淡い期待に賭けてみるべきではないだろうか
「罠だったらどうするのよ?」
「だとしたらあんなに盛大に仕掛けるか?」
「しかも分かりやすいし……罠ってことは無さそうだけど」
「罠だとしても行ってみよう。価値はある」
俺たちは災いの騎士内では有名人になっている。いつどこで監視されているか分からない。俺たちが拠点に向かっているのも気づかれている可能性だってある。ナリアの言う通り、さっきの音が罠の可能性だって十分にある。でも、罠かもしれないといって怯えていては進まない。危険を覚悟で突き進む
「この人たちって…災いの騎士?」
「左手にタトゥーが入ってる。災いの騎士だ」
「なんでこんなところで倒れてるの??」
「誰かが倒した?それとも魔物にやられた?」
「魔物にやられたとしたらこんな綺麗に体は残ってない。やられれば体を食い荒らされるからな」
「じゃあ誰が??」
「俺たちが探してるやつってことは……ないか」
「どうだろう。ラウムは平気で仲間を殺すようなやつだった。俺たちが探してるやつも同じような感じかもしれない」
俺たちが音のした方向へ歩いていると、地面に倒れている災いの騎士の奴らがいた。倒れてる辺りには血が付着していて、かなりの攻撃を喰らったことが分かる。探してるやつがやったのか、違う誰がやったのか気になるけど、今は前に進まなければ
早く見つけ出して、今までやってきたことを後悔させる
「今は置いておいて、前に進もう」
「そうね」「おう」「了解」
俺たちは倒れている災いの騎士に背を向けて音のした方向へ再び進み出す。あれ以降大きな音はしていない。たまたま鳴ったのかもしれないという考えも頭に浮かんでくる
「また倒れてる……でもここって」
「拠点だ。さっきの音はここからしたんだ」
「ここで何かが起きてんだろ。確証はねぇけど」
「俺も同じことを思ってた。何かが起きてる」
「覚悟はできてる?」
「当たり前でしょ」「もちろんだ」「できてるよ」
「よし、行こう」
音のした方向へ進み続け、見えてきたのは災いの騎士の拠点だった。その拠点の近くにも人がうつ伏せ倒れている。後ろから不意打ちでもされたのか
確証はないけど、ここで何かが起きてる。悪寒がするけど、俺たちは突き進む。ここまで来て引き返す訳には行かない
「いっぱい倒れてる……誰がやったの??」
「気味が悪いな……道を進んで行ってあるのは倒れた人」
「俺たちのことを歓迎してみたい」
「でも俺たちにとっては好都合。無駄な戦いをしなくても済むんだから」
「それもそうだな。倒してくれたやつに感謝しないとな」
俺たちが拠点を進んでいくと左手にタトゥーが入った奴らがわんさか倒れていた。奥へ奥へと誘われてるようだった
気味が悪いと思いながらも俺たちは奥へと進んでいく。ダンジョンのような構造をしているからどこかに終着点があるはずだ
カンカン!!!「この先音しない?」
「確かにな。戦ってるみたいな音がしてる」
「誰かいるのか?」
「とうとう会えるかもね。ずっーと探してたやつと」
俺たちが拠点の奥へ進んでいくとさらに奥で誰かと誰かが戦っているような音が聞こえてくる。音からしてかなり激しい戦いを繰り広げているようだ
「行くしかないわね」
「突入するか!!!」
俺たちは一斉に戦いを繰り広げている部屋に突入した。そこに居たのは、俺たちがずっと探していた右手の甲にタトゥーが入った男とウルトルさんだった
右手の甲にタトゥーが入った男は両方の手に銃を持っている
「ウルトルさん!?」
「カズヤ!?なんでここに!!?」
「それはこっちのセリフですよ!!!ウルトルさんこそなんでここにいるんですか!!?」
「俺はこいつ用があるんだ!!」
「お前たちは危ないから下がってろ!!!」
ウルトルさんも右手の甲にタトゥーが入った男に用があるのか??どんな因縁があるのかは知らないけど
俺たちだってそいつに用がある。ここまで来てウルトルさんが戦ってるのを指くわえて見てるだけなんてできない
「無理です!!!ここまで来て引き返すなんてできません!!!」
「僕たちも戦います!!!」
「そうです!!!私たちもそいつに用があるんです!!!」
「……………仕方ねぇな。お前たちも…」バキューン
「何止まってんだよ?悩む暇なんてあったか?」
ウルトルさんが難しい顔をして考え言葉を発した直後、ウルトルさんの胸あたりを銃弾が貫いた
ウルトルさんは血を吐いて力無く倒れた。俺たちは咄嗟にウルトルさんのそばにいた
「ウルトルさん!!!」
「ハハッ……やっちまった……情けねぇな…」
「俺たち…の分まで敵を…討ってくれ」
「カンちゃん助からない!?」
「無理。心臓撃たれてる。もうじき死ぬ」
「呆気なかったな……俺の人生……。……復讐に生きても……いいことなんてねぇな……」
「お前たちは……幸せにな……」
ウルトルさんはそう言い残すと何も言わなくなった。ウルトルさんの顔は穏やかで優しい顔をしていた
今の俺の気持ちは言葉に言い表せない。悲しいとか悔しいっていう感情では表現出来ない
ただ1つ言えるのはウルトルさんを撃ったやつに怒りが込み上げてくる
「レイデリア最強の闘士と呼ばれた男がこんなあっさり死ぬとはな」
「所詮冒険者なんてこんなもんか」
「お前たちもそいつと同じあの世にすぐ送ってやるよ」
「安心しろ。お前たちには感謝してるからな。楽に逝かせてやるよ」
「お前、カズヤだったか?本当に鳩連れてるんだな」
「黙れ……!!!」
「許さない……!!!よくもヴィネとウルトルさんを!!!」
言葉にならない怒りが俺を支配する。かろうじて理性は保てているがいつまで持つかは分からない
こいつは俺たちにとって大切な人を殺した。
許せる訳が無い!!生かしておける訳が無い!!
「ヴィネ??……あのガキのことか」
「あんなガキと面識があるなんてな。ご苦労だったな」
「なんでヴィネを殺したのよ!!!」
「あのガキは夢で未来を見れる。だから殺した。本当に予知夢を見れるかどうかは知らないけどな」
「親が邪魔して一度は殺せなかった。が、やっと殺せた。手間のかかるガキだ」
「殺す……!!!!」ギュッ!!!
予知夢を見れるから殺した??
ヴィネだってそんな能力欲しくてあったわけじゃない。生まれつき持ってた能力だ。それなのに殺されなきゃいけない??
ふざけてる!!!
予知夢がお前らにどう影響するって言うんだよ!!!
「お前たちには感謝してる。ラウムに続き、ウルアも殺ってくれたんだからな」
「あいつらにはウンザリしてた。ウルアは毎日うるさいし、ラウムは幹部になれるといってガキみたいにはしゃいでた」
「害悪でしかなかった奴らを殺してくれたんだ。お前たちは俺の恩人だよ」
「知るか!!!お前はここで倒す!!!」
「やれるもんならやってみろ。あいつらみたいに上手くはいかないけどな」
「ちなみに俺の名前はバルトスだ。冥土の土産に持ってけよ」
バルトスは気味の悪い笑顔を浮かべると、銃をこちらに向ける。銃なら俺だってある。銃撃戦でも何でもいい。こいつを一刻も早くぶちのめす
カチッ「???
なんだ今の」
「カズヤ、下!!!」
ヒュッ「危ねぇ!!!」
俺が1歩バルトスの方へ踏み出すとボタンを押したような音がして、下から矢が飛んでくる
罠が仕掛けられてる!!!!ここだけじゃないはず
この部屋には至るところに罠が仕掛けられてるかもしれない
「止まってると格好の的だぞ」バキューン
キン!!!「クソッ!!!」
カチッ「どこだ!!?」
ヒュッ「上か!!危ねぇ」
動けない!!!
下手に動くと罠を作動させてしまう。止まってると銃で打たれる。格好の的だ
反撃したくても、二丁拳銃で絶え間なく撃ってくるため隙がない
「ずっとそこにいてどうするんだ?何も出来ないだろ」バキューン
キン!!「どうしろって言うんだよ!!!」
「何か案ないの!!?」
「あったら実行してる!!!」
「おい!!マズイぞ!!!!このままじゃジリ貧だ」
ロイスの言う通りこのままだとジリ貧だ
反撃もできず、相手の攻撃から身を守る一方。近づくことは出来ないし、魔法をうつ時間すら与えられない
「1発やっておくか
魔法弾・炸裂弾」バキューン!!!
「ヤバいの来てるぞ!!!避けろ!!」
「罠なんか気にすんな!!!あれ当たるくらいなら罠喰らった方がマシだ!!!!」
「バーン」バーーン!!!!
ロイスの必死の呼びかけに応じて俺らは一斉に散った。俺が散った後、轟音が響いた
今の爆発でさっきいた場所の地面が焼け焦げている
とてつもない威力だ。当たったらひとたまりもない
俺は罠に引っかからなかったが、みんなは大丈夫だろうか
ヒュッ「ナリア!!!後ろ!!!!」
「え?」クザッ!!
「痛っ!!!」
「ナリア!!!」
「よく出来てるだろ?俺が手間暇かけて作った部屋だからな」
後ろからの矢を避けようとして半身になったが、完全には避けきれずナリアの肩に矢が刺さる
環境が悪すぎる……罠だらけの部屋と遠距離攻撃が得意な相手。下手に動けば罠にかかり、動かなければ銃の格好の的になる
「狡い手段使いやがるな」
「だけど、よく出来てる。ウザイけど認めるしかない」
「どうすれば倒せる?動かないでいるとさっきみたいなエグい攻撃がくる」
「罠にかかるのを覚悟で動き回るか?あのエグいのに当たるよりはマシだろ」
「罠だってさっきのに比べてマシってだけで、軽いダメージじゃない」
詰んでるのか?
俺たちに勝機はないのか?ヴィネやウルトルさんたちの無念を晴らせずに終わるのか?
やっと見つけたというのにここで死ぬのか?
こんなところで死ぬ訳にはいかない!!!!!
必ず倒す手段があるはずだ。この世に完璧は存在しない。隙はある。敵討ちは必ず成し遂げる