テラーノベル
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最近、向井康二は目黒蓮とよく喋っている。
それは事実だった。
リハーサルの合間。移動中のバス。収録前のスタジオの隅。
ふと視線を向けると、いつもそこに目黒がいて、康二が笑っている。
——別に、珍しいことじゃない。
Snow Manの中で、誰と誰が喋っていようとおかしくはない。
分かっている。
分かっている、はずなのに。
「……」
宮舘涼太は、某音楽番組の収録を終えたあとも、どこか落ち着かなかった。
楽屋で着替えながらも、頭の隅に浮かぶのは、さっきまでの光景だ。
カメラが回っていないところで、目黒の肩に腕を回して、何かを囁いて笑っていた康二。
その距離の近さが、胸の奥に小さく棘を残す。
だから今日は、あえて近づかなかった。
声もかけなかったし、視線も送らなかった。
大人げないな、と思う。
自分でそう思うからこそ、余計に腹立たしい。
***
夜。
二人で食べるはずだった夕飯は、静かだった。
テーブルを挟んで向かい合い、同じものを食べているのに、会話は最低限。
テレビの音だけが、やけに大きく感じられる。
康二は、箸を動かしながら、ちら、と涼太の顔を見た。
「……ダテ、なんか今日静かやな」
「そう?」
涼太は、いつも通りの声を意識して返す。
「疲れてるだけだよ」
嘘ではない。
でも、全部でもない。
康二は少しだけ眉を下げて、へら、と笑った。
「そっかぁ。今日の収録、そんな大変やった?」
「まあね」
会話を切り上げようとする涼太の様子に、康二は気づいていた。
いつもなら、もう少し何か言う。
冗談の一つも挟む。
それがない。
「……ほんまに?」
康二の声が、少し低くなる。
「俺に言えへんこと?」
涼太は、一瞬だけ箸を止めた。
言うつもりはなかった。
言ったところで、どうなるわけでもない。
自分の中で処理すればいい、そう思っていた。
でも。
「……」
康二の視線が、逃がしてくれなかった。
「……目黒と」
小さく、言葉を落とす。
「今日も、ずっと一緒だったでしょ」
康二が瞬きをする。
「……ああ、」
「…話しすぎな気がして。」
涼太は、声を落とした。
「ちょっと……嫉妬した、かも。」
言い終わったあと、思わず俯く。
自分でも、情けないと思う。
沈黙。
数秒後、康二が声を出した。
「…んー、……めめ?」
少し首を傾げて。
「俺、そんなめめと話してた?」
涼太の胸が、きゅ、と締まる。
「……」
否定されるのが、いちばんきつい。
自分の感じたものが、全部勘違いだったみたいで。
表情が曇っていくのを、康二はしっかり見ていた。
「……あは」
次の瞬間、康二はへらっと笑った。
「冗談やで」
「……は?」
顔を上げた涼太と、目が合う。
康二は、急に真顔になった。
「ダテだって、しょっぴーとよう話してるやん」
心臓が、どくん、と鳴った。
「……」
「幼馴染やし、仲ええん分かってるけどな」
康二は箸を置いて、涼太をまっすぐ見る。
「正直、ちょっと妬いたわ」
空気が、静止する。
「……え?」
「せやからな」
康二は肩をすくめる。
「ちょっとしたお返し」
涼太は、ゆっくりと理解した。
「……目黒は」
「巻き込んだ」
あっさり言われて、言葉を失う。
「めめもな、最近しょっぴーがダテとしか喋らんって気にしてたらしいで」
苦笑混じりに続ける。
「利害一致、やな」
涼太は、思わず額に手を当てた。
「……マジか。…結構、最低じゃない?俺」
「ほんまやで。笑」
康二は笑う。
「あとでめめには謝るわ」
そう言いながら、立ち上がると、涼太の手首を掴んだ。
「……康二?」
「来て」
強くはない。でも、逃げられない力。
そのまま、寝室へ。
***
ベッドの端に座らされて、涼太は康二を見上げる。
康二は、何も言わずに近づいてくる。
指先が、涼太の頬に触れた。
それだけで、体が反応してしまうのが悔しい。
「……ごめん」
康二の声は、優しかった。
「不安にさせるつもりは、なかってん」
親指が、唇の端をなぞる。
「俺が一番好きなんは」
距離が、ゼロになる。
「涼太だけやで。」
言葉と一緒に、舌なめずり。
ぞく、と背中に走る感覚に、涼太は思わず目を伏せた。
康二の手が、肩に。
背中に。
さりげなく、でも確実に、触れてくる。
「…っ、……康二、」
「なに?」
低く、甘い声。
触れ方が、ずるい。
確かめるようで、所有するみたいで。
気づけば、ベッドに押し倒されていた。
見下ろされる視線に、胸が熱くなる。
「……見ないで」
恥ずかしくて、両腕で目元を隠す。
康二は、くす、と小さく笑った。
「そんな顔されたら、余計見たなるわ」
でも、無理に腕を下ろしたりはしない。
代わりに、唇に口づける。
頬に。
首に。
ゆっくり、ゆっくり。
涼太の呼吸が、次第に乱れていくのを感じながら、康二は囁いた。
「……こんな姿の涼太、俺だけが見れるんほんまに唆る。」
独占欲が、言葉に滲む。
その先は、言葉にしなくても分かってしまう距離で。
涼太の指が、康二の服を掴む。
「……康二」
名前を呼ぶ声は、もう普段のそれじゃなかった。
「…やるならさっさとして、」
***
——そこから先は、夜に溶けた。
互いの嫉妬も、不安も、全部混ざり合って、
確かめ合うみたいに、何度も名前を呼び合って。
朝、目を覚ましたとき。
涼太は、康二の腕の中にいた。
ぴったりと、離れない距離。
寝息を立てる康二の顔を見て、涼太は小さく息を吐く。
「……ほんと、ずるいよなお前」
そう呟くと、康二が寝ぼけた声で返した。
「……お互いやろ」
そのまま、また腕に力が入る。
逃がさない、みたいに。
涼太は、目を閉じて、もう一度身を委ねた。
横で康二がくすくす笑っている。
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