テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
すくっと虹龍は立ち上がった。扉を開けて、東乱の部屋を出ようとする。
「何処へ行く気だい?」
東乱が聞いてきた。
「勿論、白龍の所よ」
虹龍はきっぱりと言った。
「行ってどうする」
「自分の気持ち、言うのよ」
「止めておいた方がいい」
「どうしてよ!!!」
虹龍は、振り返って叫ぶ。
「じゃあ言うが、白龍は君の事をどう思っていると思う?」
虹龍は、東乱の言っている言葉の意味が良く分からなかった。
「どういうことよ」
「白龍の気持ちが、お前に分かるか?」
「分かるわけ無いでしょ。他人の気持ちは分からないわ。だから、私は自分の気持ちを伝えに行く」
伝えなければ、この気持ちもなんの意味も無いものになってしまう。
「…君は自分の気持ちに気づく前、白龍をどんな目で見ていた」
つまりは、虹龍にとって白龍は何だったかと聞いている。
「黒龍と一緒に私を守ってくれた、大切な護衛で幼なじみよ」
「では、白龍は君の事をどう思ってたと思う」
虹龍は少し考える。
「分かんないわよ。他人の気持ち…」
「そうじゃない」
東乱は、虹龍の言葉をさえぎった。
「どう思うかだ」
虹龍は、また少し考える。
「…幼なじみなんじゃないの?」
「そうかな」
東乱は、意味深な口調で言う。
「多分『幼なじみ』なんてものじゃないな」
「回りくどいわね。はっきり言いなさいよ」
虹龍は、東乱を睨む。
「彼にとって君は、王から命じられた役目の一部だよ。護衛だから守るわけであって、それは王からの命であるからだ。君は彼にとって『虹龍』では無く『公主様』だ」
東乱の言葉に、虹龍は目を見開いた。
「そんな、白龍は…」
言いかけて、虹龍はフッと思った。
名前を呼んでもらったことは無い。いつも彼は『公主様』と呼んでいた。確かに距離を置いた呼び方。
「白龍は、私に優しくしてくれた…」
虹龍は、呻く様に言う。
「当然だ。君は王族の、しかも王と王后の正統な公主。そして守るべき存在」
虹龍は、頭を抱えた。
言われてみれば、白龍は虹龍に優しすぎたではないだろうか。
本当に虹龍を好きになってくれた黒龍は、『虹龍』と呼び捨てで呼んでいたし、遠慮も何もなかった。『公主様』でなくて『虹龍』を好きになってくれていた。
(そんな…)
『私、白龍が好き』
頭の中で、白龍に告白する自分の映像がながれる。
『公主様…』
答えようとする白龍の顔は苦しそうだ。
『私は、公主様の気持ちには答えられません。公主様と私では、身分が違いすぎます』
彼はきっと、そう答える。
公主と護衛の間には、確実に一つの、それも厚く高い壁があるのだ。まさに「難壁」と呼ぶにふさわしい物が。
「それでも…」
虹龍は、拳を握り締める。
「それでも、私は白龍が好き!」
何があろうと、変えられない感情。それが恋心。
フッと、東乱は窓の外を見る。
「今君を鬼門軍の兵に渡せば、彼らは攻撃を止めてくれるかもしれない。王宮にいる何人もの人が助かる」
王宮の人の変わりに、虹龍に犠牲になれと言っている。
「あの人たちが欲しいのは『公主』よ。だったら私は『公主』を辞めるわ。王宮からも出て行く。贅沢な生活なんていらない。白龍にも、私として告白してくる」
虹龍はうつむいて、微笑む。
「最初から、『公主』なんて嫌だったのよ。自由も無い、今回だって『公主』ってだけで『私』の気持ちは無視。そんなの嫌だわ。私は『私』よ」
「そうだな」
急に扉の外から声がして、虹龍と東乱は驚いた。
扉を開けて入ってきたのは、昴零だ。
「本当は虹龍を迎えに来たんだけど、どうやらその必要も無いみたいだ」
そう言いながら、昴零は虹龍に近づく。
「王宮の者は皆、『後陰ごいんの宮』に避難した」
後陰の宮とは、王宮の北の森の中にある宮殿で、殆ど使われていない。その昔、王が自分の母親や、退位した父親を厄介払いするために使われていた、なんとも嫌な感じのする宮殿だ。が、今回の様にも使える。石造りで火に強いし、しっかりしているので雨風も防げる。
「東乱も早く行け。ここはもう安全ではない。そして虹龍」
昴零は、真剣な顔で言う。
「公主を辞めるならもう後陰の宮にも連れて行けない。誰も助けてくれない。それは白龍君や黒龍君も、ということだ。自分で何とかしなくてはいけない。後宮育ちの女には苦しいぞ。それでもいいか?」
昴零の言葉を聞き、虹龍は頷いた。多分、昴零にも、もう会えなくなってしまうだろう。そう思うと、涙が溢れそうになる。しゃべったら、なおさらだ。
昴零は微笑み、そして虹龍を抱きしめた。
「お前は私にとって大切な妹だ。公主じゃなくても、それは変わらない」
昴零は虹龍を放す。
「今までありがとう。ばいばい」
虹龍は別れの言葉を言い、そして部屋を出た。
扉を閉めた瞬間、瞳から涙が溢れた。
手の甲でそれを拭うと、虹龍は廊下を走り出した。
白龍の元へ。
もう、後ろは振り向かない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!