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星降る世界で君にキス

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星降る世界で君にキス

2 - 第2話【1.運命のキスは星のみちびき? 】もはや異世界しかない!(1)

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2023年10月09日

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糸のような月が夜空に頼りなく揺れている。

マンションの非常灯や街灯が煌々と光を主張するなか、この空に星は見えやしない。


いや、ふと視線を転じれば小さな小さな輝きが五つ、地上に落ちていた。

それはフラフラと激しく揺れながら住宅街を動いている。小さな公園を抜け、細い道を横切り、一歩立ち止まって呻き声をあげると、またぞろユラリと動き出す。


煌めきの正体──それは直径一センチに満たない小さな「星」であった。

正確に表現すれば、五芒星の形にみえる硝子粒。

街灯かりを受けてきらきらと光を放つ、歪なかたちの星が五つ。


女の手首の周りで連なってキラキラと揺れている。

それは頼りなく、細い腕。


だが、その指先は勇ましく拳をつくり、その足はアスファルトをしっかと踏みしめている。

肩までの黒髪を風に遊ばせた小柄な女性だ。レースをあしらった水色のワンピースは、着慣れていないのか何となく違和感を覚える。

大人の社会では「女の子」と呼ばれるような年代であると分かった。


「丸」をイメージさせるのは、輪郭だけでなく、クルクルと忙しなく動く瞳から受ける印象だろうか。

感情が迸るようにツンと尖らせた唇。

ぷくーっと膨らませた頬は速足の影響か、上気していた。


複雑な街路を迷うそぶりもなく通りすぎると、彼女は大きな通りから離れたところで足を止めた。

車の騒音や人の声も、ここまでは届かない。


三階建ての、こじんまりしたアパート。見上げた窓に、いつものように明かりが灯っているのを認めて、彼女は踵で地面を蹴った。

階段を一気に駆け上がり、目指す玄関のチャイムを連打。


「開けろ、義弟(おとうと)よ。私はおまえのお姉さまだぞ!」


薄い扉の向こうで、低い声が何事かぼやきながら近付いてくるのが察せられた。


「オイ、義弟よ。いいかげん開け……あうっ!」


「あっ、ごめん……」


勢いよく開いた扉が顔面を打ち、女はその場によろよろとうずくまった。両手で自らの鼻を押さえている。


「痛い。もうイヤだ。もう死ぬしかない……」


「やめなよ、星歌。こんな夜中に、人ん家の前で死なないでよ」


「そんな言い方はヒドイ……」


じっとり……。

恨みがましい視線が扉から出てきた男を見上げた。


部屋着にしたって地味なスウェットの上下。

しかしそれは彼の醸し出す華やかさを、むしろ引き立てる衣装となっていた。


細身の身体にまとった薄い筋肉は布越しにも分かる。

襟足の整えられた柔らかな髪。澄んだ双眸は、今は僅かに細められてこちらを見下ろしている。

飲み物を口にしていたのだろうか。男にしては厚い唇は艶やかに濡れていた。

整った容姿に一瞬、見とれる女の前で、その唇がゆっくりと開かれる。


「姉ちゃん、今日はかなりやらかし……ハッスルしたって聞いたけど?」


「……ハッスルとか言うな」


この男はいつも意地悪だ。

いや、彼なりに言葉を選んでくれたことは分かるが、それが余計に傷を抉る。

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