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伸は、本当に来てくれるだろうか。もうとっくに、僕のことなど忘れているのでは……。ずっと不安な気持ちで待っていたのだが、約束の時間に、ドアはノックされた。
行彦は、小走りでドアへ向かう。そして、無意識のうちに、ずっと触れることが出来なかったドアノブに手をかけていた。
来てくれただけでうれしかったし、照れくさそうな態度も、壊れた塀や玄関の心配をしてくれたことも、人柄を感じさせて、好ましいと思った。
それから、自分が思い違いをしていたこともわかった。話を聞いて、あまりの偶然に驚いた。伸も、自分と同じように、学校で、いじめに遭っているというのだ。
昨夜、この部屋を訪れたのも、肝試しと称した嫌がらせを受けていたのだ。この洋館が空き家だと思われていることは、行彦も知っていた。
それだけでなく、伸も母子家庭で、周りから白い目で見られているらしい。伸は、そのことが原因で、友達を作ることをやめたのだと言った。
自分と違う世界の人間などではなかった。伸は、自分と同じ苦しみを抱えている。
それから伸は、毎晩、この部屋を訪れてくれるようになった。
伸に聞かれて、自分がいじめに遭っていたことも話した。あまり詳しいことは、辛くて話せなかったけれど、伸が聞いてくれたことが、うれしかった。
伸は、とても優しい。いじめられていることも、母親に心配をかけまいとして、誰にも話さずにいるのだ。
そんな伸に、卑劣なやつらが、ひどいことをしている。手のひらの傷を見つけたときには、伸の孤独を思い、胸が痛くなった。
腕に怪我を負っていると知ったときには、あまりにかわいそうで、思わず抱きしめてしまった。行彦の腕の中で意識を失ってしまった伸を見て、なんとかしてあげたいと思った。
自分には、なんの力もないけれど、せめて伸を慰めたい。少しでも、伸の苦しみを和らげることが出来たら……。
そして行彦は、意外に幼い伸の寝顔を見ながら、はっきりと自分の気持ちを意識した。僕は、伸くんが好きだ。
伸は、本当に優しい。ひどいことをされながら、その相手の事情まで気遣っている。
そんな伸に、行彦は、つい無神経なことを言ってしまい、それを怒りもしない伸に申し訳なくて、泣いてしまった。
気持ちが高ぶり、行彦の涙を見て動揺している伸にキスをした。最初、体を硬くしていた伸は、振り払ったりせず、行彦の舌を受け入れてくれた。
伸の舌の動きを感じながら思った。伸くんも、僕のことを……。
とは言え、感情にまかせて大胆なことをしてしまい、不安になって、行彦は聞いた。
「僕のこと、嫌いになった?」
伸は、不思議そうな顔をする。
「どうして?」
「だって、あんなこと……」
だが伸は、照れくさそうに、目をしばたたかせながら言ってくれた。
「嫌いになんか、ならないよ」
次に会ったときには、自分の思いが一方通行ではないことを確信した。それは、ドアを開けて、伸の目を見た瞬間にわかったけれど、それだけではない。
今度は、伸のほうからキスをしてくれたのだ。行彦の口の中で、伸の舌は妖しい生き物のように動いた。
口の中の隅々まで、舌で丁寧に愛撫され、体の奥が切なく疼く。佐賀に奪われそうになったときは、恐怖と嫌悪しか感じなかったのに、伸には、ずっと続けてほしいと思う。
唇が離れた後、行彦は、伸の肩にもたれて言った。
「うれしい」
「え?」
伸の頭が近づく。行彦は、その頭に、自分のそれをこすりつけるようにしながら言った。
「伸くんのほうから、してくれて。……伸くん、好きだよ」
少しの間があった後、伸が言った。
「俺も……好き、だよ」
行彦のことが好きだ。行彦とのキスは、たまらなく素敵だ。でも、もうそれだけでは満足出来ない自分がいる。もっと先に進みたい。もっと……。
つい最近、キスを覚えたばかりだというのに、自分は、なんと貪欲でスケベなのかと呆れる。だが伸は、部屋のベッドの上で、火照る体を持て余しながら考える。
今まで、同性に興味を持ったことがなかったので、その方面の知識が乏しい。キスより先は、男同士で、いったい、何をどうやって……?
だが、すべては杞憂だった。
伸が、後ろ手にドアを閉めるなり、行彦が、胸に飛び込んで来た。
「伸くん……」
切なげな表情で見つめる行彦にキスをする。だが、舌を入れようとしたとき、不意に行彦の唇が離れた。
驚いている伸を見つめたまま、行彦が手を引く。そのままベッドまで行き、絡み合うように倒れ込んだ。
下から見上げる行彦の目が濡れている。体が熱い。激情が体の中で渦巻く。でも……。
どうしていいかわからず、行彦を組み敷いたまま固まっていると、行彦が手に触れた。そのまま伸の手を取って、自分の胸へと導く。
「外して」
言われるまま、パジャマのボタンに手をかける。手間取りながら、すべて外すと、驚くほど白くて滑らかな素肌が現れた。
その後も、行彦の誘導に従い、すべてはスムーズに進んだ。何もかもが初めての体験だったが、行彦は美しく淫らで、伸は我を忘れ、行彦の体を貪るように味わった。
あまりの快感に、最後は、声を上げながら果てた。