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俺が初めて優真と出会ったのは、高校1年生の春の事。
ー九年前ー
入学式の日、友達の涼也と学校の玄関の扉に貼られたクラス表を見る。
クラスに向かって教室に入り、席に座る。
(涼也とクラス離れちゃった…)
他に同じ中学生だった子もいないので、ただボーッとしていた。
少しして、前の席の子が振り向く。
愛らしい顔で、くせ毛なのか髪の毛先がぴょんぴょんと跳ねている。
彼は俺と目が合うと、笑顔で話しかけて来た。
「ねぇ、名前なんて言うの?」
「えっと…黒崎陽雅だよ」
「陽雅。なんかかっこいいね!」
「そう?」
「うん! ってか顔も普通にかっこよくね?」
彼はそう言って俺の顔を覗き込んでくる。
「…そんなに見ないでよ」
「あ、ごめんごめん。でもいいな。名前も顔もかっこよくて」
「別にかっこよくないよ。君の方が整った顔してると思うけど」
「いやいや。俺は全然だよ。ってか俺まだ自己紹介して無かったね! ごめんごめん。名前聞く前に自分が名乗れって感じだよな」
彼はそう言った後、ハハッと笑う。
返答に困った俺が控えめにハハッと笑うと、二人の間に沈黙が走る。
彼は咳払いをした後、口を開いた。
「俺、川辺優真。よろしくな」
明るい声でそう言って微笑む彼に俺は微笑み返した。
「よろしく」
それから俺たちは両親がいないという境遇が似ていたこともあり、親近感が湧いてよく話すようになった。
そして、帰りにどこか寄ったり、休みの日に出かけたりするようになった。
涼也と三人で出かけたこともあったし、二人きりで出かけたこともあった。
そうしている内に、俺は優真の明るい性格と愛らしい顔に惹かれ、気づいたら好きになっていた。
そして年が明けて数日が経った頃、俺は優真を屋上に呼び出した。
放課後、屋上で待っていると、扉が開き、優真が顔を覗かせる。
優真は俺の方へ駆けてきて、笑顔で言う。
「ごめん! ちょっと待たせちゃったよね」
「ううん。大丈夫。そんなに待ってないから」
「そう? 良かった。で、話って何?」
「あのね。俺、優真の事が好きなんだ。友達としてじゃなくて、恋愛的な意味で好きなの」
俺の言葉を聞いて、優真は驚いた顔をしたまま何も言わない。
「あー…ごめん。そんな事言われても困るよね。忘れて…って言っても無理だよね。その、キモかったら俺の事無視してくれていいから。じゃあ」
早口気味にそう言って歩き出すと、不意に腕を掴まれる。
「待って!」
俺は立ち止まり、振り向いた。
優真をただ見つめていると、頬を赤くしながら優真が言う。
「俺も…好きだよ。陽雅の事」
「本当?」
「うん。大好き」
優真はそう言ってニコッと笑う。
「じゃあ、その…俺と付き合ってくれる…?」
「うん! 付き合う!」
元気よくそう言う優真に笑みが零れる。
「すごい良い返事じゃん」
「だって嬉しいんだもん。え〜、なんだ。陽雅俺の事好きになってくれてたのか〜。もっと早く言ってよね?」
「そんな簡単に言える事じゃないよ」
「いやいや〜。恥ずかしがらないでよ。やらない後悔よりやる後悔だよ」
「優真だって今まで黙ってたくせに」
「そりゃあ怖いでしょ。振られたら」
「あ。自分だけずるい」
「え〜? 何が? 俺わかんな〜い」
優真はそう言って逃げるように扉へ走っていく。
「あっ。ちょっと逃げないでよ」
#オフィスラブ
ゆうクロ。
261
miけぴン
62
そう言って俺は優真の後に付いて行った。
優真との日々は毎日が楽しくて、幸せだった。
俺たちが付き合ってる事は何となく周りにもバレていて、茶化したりされたこともある。
そんなある日の事。
優真と二人で俺の家で遊ぶことになり、手を繋いで家に帰っていた。
家の前まで来た時、玄関の扉が開く。
そして、中からお兄ちゃんが出てきた。
「兄ちゃん。早いね」
「うん。今日は残業無かったから」
「そっか」
俺がそう言うと、兄ちゃんは不思議そうに優真を見る。
「あっ、兄ちゃん。この子、同じクラスの優真。その…付き合ってるんだ」
俺がそう言うと、優真はペコッとお辞儀をする。
そんな優真を見て、兄ちゃんは微笑んだ後、俺を見る。
「そっか。じゃあ陽雅は今、幸せなんだね」
「うん。幸せだよ」
俺がニコッと笑うと、兄ちゃんは「そう」と言った後、優真の前に立つ。
「初めまして。俺、 陽雅の兄の陽煌です。これからも陽雅の事、よろしくね」
兄ちゃんは優真に片手を差し出す。
その手を優真が握った。
「よろしくお願いします」
「うん。陽雅、ちょっとわがままかもしれないけど、わがままも聞いてあげてね」
ニコッと笑う兄ちゃんにドルのオーラが見える。
ドルの人だけが分かる、ドルを使った時に見えるオーラ。
でも、多分見間違いだ。だって、耳元で言葉を発していなかったから。
「分かりました」
優真の返事を聞いて、兄ちゃんは手を離す。
「じゃあ俺、ちょっと出かけてくるから」
「分かった。いってらっしゃい」
「いってきます」
兄ちゃんはニコッと笑った後、歩き出した。
兄ちゃんの後ろ姿を見ていると、優真が言う。
「ちょっと、急にお兄さんに紹介しないでよ! めっちゃ緊張したんだけど!」
「ごめんごめん。兄ちゃんには何でも報告しなきゃいけなくてさ」
「え〜、そうなの?」
「うん。兄ちゃんもなんでも教えてくれるよ」
「へぇ〜! 仲良いね!」
「まぁね。ほら、中入ろ?」
「そうだね! 入ろ入ろ〜」
そして俺たちは家の中に入っていった。
その日の夜、兄ちゃんが俺の手を握って何か言っていた気がする。でも、肝心な言葉だけがどうしても思い出せない。最後に頭を撫でてくれたことだけは覚えているから、多分何か褒めてくれたんだと思う。
そんな兄ちゃんはこの日から二ヶ月くらい眠っていた。
働きすぎで過労だろうって医者は言っていた。
だから、俺もちゃんとしなきゃってバイトのシフトを増やした。
そんなある日、バイトへ向かおうと教室を出た俺は、下駄箱まで来てスマホを忘れたことに気づき、教室へ戻った。
廊下には優真の笑い声が響いている。
教室へ入ると、席替えで隣になっていた優真が真っ先に俺に気づいた。
「あ、陽雅。忘れ物?」
友達と話していた様子の優真が俺に問う。
「うん。スマホ忘れちゃって」
「うわ、危な〜。もう、気をつけろよな〜」
「うん。ありがとう」
「ん。バイト頑張れよ〜」
笑顔でそう言う優真にニコッと笑う。
「ありがとう。頑張る。じゃあ、いってくる」
「ん。いってら〜」
優真は俺に手を振った後、友達の方を見る。
「でさ伊織、さっきの続きなんだけど…」
そう言って話を続け、友達とニコニコ笑う優真を見て、俺の心がモヤッとする。
(俺だけの優真なのに…)
頭にいろんな感情が浮かぶ。
優真を独り占めしたい。俺だけ見てて欲しい。他の人に愛想を振りまかないで欲しい。
だって優真は俺だけの優真でしょ?
「優真、ちょっと来て」
俺は優真の腕を掴んで、歩き出す。
「ちょっと陽雅、まだ話してる途中なんだけど」
「いいから」
廊下を歩いていると、誰もいない教室を見つける。
俺は優真の腕を掴んだままその中に入って、扉を閉めた。
手を離すと、優真は不思議そうに言う。
「もう陽雅。どうしたの〜」
真面目な顔で優真を見ると、優真は気まずそうな顔をする。
「あー…なんか怒ってる?」
「うん。そうだね。俺、ちょっとイライラしてる」
「なんでイライラしてんの?」
「優真が伊織と仲良くしてるからだよ」
俺の言葉に優真はフフッと笑う。
「なんだ。嫉妬か〜。大丈夫だよ。俺と伊織はただの友達だから。ってか、伊織ノンケだし」
「別にそんなのどうでもいいよ」
「え〜。じゃあ何」
「優真は俺だけの優真でしょ? だから俺以外の人と仲良くしないで」
「ちょっと陽雅、急にどうしたの。そんな事言わないでよ」
「なんで? これは俺のわがままだよ? 優真はいい子だから、俺のわがまま聞いてくれるよね?」
「わがまま…」
優真はそう呟いた後、コクリと頷く。
「分かった。もう陽雅意外と仲良くしない」
素直にそう言う優真に俺は微笑み、頭を撫でた。
今思えば、幸せの歯車が壊れたのは、この日からだったのかもしれない。
コメント
1件
ああ、読んだ読んだ。これは重い過去編だね…。今の陽雅と優真の関係の根っこにある瞬間をまざまざと見せられた気分だよ。「俺だけの優真」っていう独占欲が、あの頃はまだ「可愛い嫉妬」として甘く受け入れられてたんだな。でも「幸せの歯車が壊れたのはこの日から」って伏線が痛い。陽雅の執着心が、優真をじわじわと追い詰めていったんだろうなあ…。お兄ちゃんが握ってた手とか、ドルのオーラの話も不穏で気になるよ。