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番外編菊葉家の茶飯事
― 昨日の余韻、四つの指輪と朝の膳 ―
東山の朝は、雨上がりの澄んだ空気に包まれていた。
菊葉屋敷の食卓には、昨日の錦市場で桐が選んだ「賀茂なすの田楽」と、梅が約束通り焼き上げた「黄金色のだし巻き卵」が並んでいる。
「……椿。何度言えばわかるんですか。箸を持つ前に、その袖口をちゃんと捲りなさい。せっかく新調したマントが汚れます」
梅の凛とした声。その差し出された手、白銀の瞳と同じ色の指輪が、朝日に反射して眩しく光った。
「あはは、ごめんごめん。……でもさ、梅ちゃん。こうして箸を持つたびに、指輪がキラキラして、なんだか力が湧いてくる気がしない?」
椿が右手の人差し指に嵌めた、深紅の石が宿る銀のリングを見つめて目を細める。182cmの大きな手が、繊細な指輪を大切そうに扱っている。
「……ふん。気休めですよ。……ですが、まあ。悪くはありませんね」
梅はそっぽを向いたが、その口元はわずかに綻んでいた。
隣では、蓬がだし巻き卵を頬張りながら、自分の左手と椿の手を並べて、せっせとスマホで「朝の記録」を撮っている。
「ヤバい、マジでこの指輪、朝の光で映えすぎ☆ 椿、もっと指をピンと伸ばして! 桐っちも、ほら、手出して!」
「……蓬。……今は、飯を食え。……指輪が、……醤油で汚れる」
桐は無愛想に言いながらも、パーカーの袖から覗く自分の指……群青の瞳に呼応するようなリングを、そっと愛おしそうに撫でた。
昨日の四条河原町での喧騒、人混みの中で迷子になった椿、そしてクレープの甘い香り。
それらすべての記憶が、今、四人の指にある銀の輪に閉じ込められている。
「……ねえ。これ、任務中も外さないでいようね。一蓮托生の、最強の『お守り』なんだから」
椿が穏やかに笑うと、三人はそれぞれのやり方で……梅は頷き、蓬はピースをし、桐は黙って目を伏せて……それに応えた。
朝食の湯気が立ち上る中、四つの指輪は静かに、けれど力強く共鳴していた。
「……よし。しっかり食べたら、今日は新調したマントの『慣らし』を兼ねて、屋敷の庭の掃き掃除ですよ。椿、サボりは禁止です!」
「えーっ! せっかく指輪が綺麗なのに?」
「……何度言えばわかるんですか! 掃除も立派な任務です!」
賑やかな笑い声が、朝の菊葉屋敷を温かく満たしていった。
お揃いで買った指輪。彼らにとって、どんな存在でしょうか
次なる記録:― 庭掃除の旋律、埃を被った秘密 ―