テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
番外編菊葉家の茶飯事
― 庭掃除の旋律、埃を被った秘密 ―
雨上がりの庭は、濡れた落ち葉が石畳に張り付いていて、なかなかの重労働だった。
新調したばかりの紺色のマントを汚さないよう、椿は珍しく真面目に竹箒を動かしている。
「……椿。何度言えばわかるんですか。隅の方に溜まった落ち葉も残さず掃きなさい。……あら? その物置の陰にあるのは……」
梅の白銀の瞳が、古びた木の箱を見つけた。埃を被り、忘れ去られたように置かれていたそれは、一族の古い備品に紛れていた。
「あ、それ……。懐かしいな。俺がまだ連合に入りたての頃の私物かな?」
椿がのんきに箱を開けた瞬間、一冊の薄汚れたノートが滑り落ちた。表紙には、若々しくも力強い筆で『最強の断罪者への道』と記されている。
「……っ!! ちょっと待って、それはダメだ! 返して、梅ちゃん!」
「ヤバい、何これ! マジで中二病の極みじゃん☆ 『俺の右腕に宿る紅の衝動……』とか書いてあるんだけど! 椿、顔真っ赤すぎw」
蓬が26cmの身長差を活かして、椿の腕をすり抜けるようにノートを奪い取った。27歳になった現在の当主が、大きな手をバタつかせて狼狽する。
「……待て、蓬。……音読はやめろ。……椿の精神が、崩壊する」
桐が冷静に(けれど興味津々で)群青の瞳を輝かせながら、蓬の肩越しに覗き込んだ。
「……『三条大橋の月夜、俺は孤独な狼として覚醒する』……。椿、……狼だったのか」
「あはは……もうやめてよ、桐くん! それは十四歳の、若気の至りだってば!」
梅は最初こそ呆れていたが、ページを捲るうちに、その指が止まった。
そこには、拙い似顔絵と共に、幼い頃の自分たちの名前が書かれていたからだ。
『いつか梅と蓬と桐を守れる、最強の「鞘」になる。家族みんなで、ずっと一緒に笑える未来を作る』
中二病全開のポエムの合間に記された、あまりにも純粋で、今も変わらない彼の「誓い」。
梅は白銀の瞳を和らげ、赤面してうなだれる椿の背中を、ポンと叩いた。
「……全く。恥ずかしい日記を遺しておくなんて、だらしなき当主の極みです。……ですが」
梅はノートを閉じ、大切そうに椿に返した。
「……『最強の鞘』になるという目標だけは、今のところ合格点をあげてもいいですよ。……さあ、掃除を再開します! 終わったら、この日記の『続き』を、今のあなたが書きなさい!」
「えーっ! 罰ゲームすぎるよ、梅ちゃん!」
笑い声が庭に響き、椿の指にある銀の指輪が、照れ隠しに振るう箒に合わせてキラリと光った。
埃を被った過去の誓いは、今も四人の絆の中に、確かに息づいている。
掃除中に見つかった椿の日記。そこに誓いを記すとき、当時の椿の心情はどのようなものだったのでしょうか?
次なる記録: ― 深夜の針仕事、銀輪の誓い ―