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養子になったと言っても、やることがない。
フィーバス卿が、パーティーが嫌いだし、いけない事もあって、辺境伯領から出る理由も何もなくて、私は、書斎に籠もっていた。あの一件以来、フィーバス卿のユニーク魔法、魔法について認識を改める必要があると感じたから。幸い、難しくても、何日かかかれば、読み込むことが出来たし、改めて、魔法が奥深いものだと分かった。だからこそ、魔法の、便利性と、不条理に気づかされたんだけど。
「お父様は、簡単に言ったけど、あのユニーク魔法ってそうとうじゃない!?」
代償があって使えるユニーク魔法。そもそも、ユニーク魔法は、唯一無二のもので、魔道士であれど、持っている人はごく少数で、攻略キャラは全員持っていると仮定しても、七……フィーバス卿を含めて八人だと。アルベドは持っているけれどはぐらかすし、ラヴァインも、リースもはぐらかされて。ブライトと、ルクス、ルフレはまだ発現していないのかも知れない。グランツのユニーク魔法は、魔道士の天敵だし……
そして、フィーバス卿の相手を内側から凍らせる魔法というのは、本当に恐ろしく、辺境伯領地以外で使うのは躊躇われる代物だと思った。
(代償をなくす方法とか見つかればいいんだけど……)
ユニーク魔法だけど、簡単に使えなくて、条件があって……でも、だからこそ、あれだけの威力が出せるのだろう。触れなくても、相手が恐怖を抱けば発動してしまう魔法。もしかしたら、この初代聖女の身体にも、聖女が使える特殊な魔法の他に、ユニーク魔法が使えたりするのではないかと思ったが、そもそも、ユニーク魔法の発現というのはどういった条件が必要なのかも分からなかった。
足下につんでいた本が散らばって、私は、はあ……と大きなため息をつく。
アルベドは、一週間といったけれど、今日がその日で、帰ってこないし。彼も彼で、忙しくしているんだろうけど、勝手に帰っちゃうところが彼らしかったというか、腹立ったというか。
「勉強熱心なんだな。ステラは」
「お、お父様!?」
本を整理していると、書斎にフィーバス卿がいつの間にか入ってきていた。気配に気づかないほど熱中していたのはそうだったが、ドアを開けた音も聞えなかった。そもそも、この書斎が、フィーバス卿が許可した人間しか入れないから、入ってくる人間なんて知れているけれど。
私は、本を本棚にも戻しながら挨拶をした。
「い、いつからいらしてたんですか」
「いや、来たばかりだ。それにしてもかなりちらけているんだな」
「ち、……あ、すみません」
「いや、調べたいことがあればいつでも調べればいい。時間はたっぷりあるだろう」
と、フィーバス卿は優しく笑った。慣れていないなあ、なんて思いながら、私は全て本棚にしまった。確かに、一日いても飽きない量の本がある。勿論それは全部、娯楽小説ではなくて、魔道書とか、歴史書とか難しいものばかり。まあ、オタクではあったけど、勉強は嫌いじゃないし、この世界にオタク文化がないのと、推し活出来るようなコンテンツがないのもあって、勉強だけに集中できるといわれればそう。勉強は嫌いじゃない。まあ、この勉強が、誰かの為になるわけでも、誉められるわけでもないけれど、魔法を知ることで、この世界をもっと詳しく理解できるようになるのは、その通りである。
フィーバス卿は、私が階段を降りてくるまでじっと待っていてくれた。フィーバス卿も、貴族として、領地のこととか、書類仕事とかあるだろうに、こうやってわざわざ愛に来てくれるところを見ると、かなり、フィーバス卿の中で私という存在が、大事になったんではないかと錯覚する。勿論、そんな取り入って何かをしようというそう言う考えはないけれど、少しずつ距離が縮まっているのかなとかも感じた。
あの一件以来、私が怖がっていると思って近付かないものだと思っていたけれど、違うようだ。
「お、お父様、何かご用でしたか」
「この間の、ヘウンデウン教の奴らのことについてだが」
「ああ……この間の」
「まだ、怖いか?」
そう、フィーバス卿は聞いてきた。私が躊躇ったのは、フィーバス卿のユニーク魔法云々のことじゃなくて、ヘウンデウン教がどうして忍び込めたのかとか、あそこにいたのかとか、そっちを聞きたかったのだ。そして、きっといい話ではないんだろうなと思ったから、身構えてしまった。だから、フィーバス卿に勘違いをさせてしまったというか。
私は首を横に振って、違うと意思表示をした後、フィーバス卿を見た。
「お父様の魔法は凄いです。だから、魔法についてもっと知りたくなったんです」
「そうか」
「それで、ヘウンデウン教について何か分かったんですか」
「ああ、あのヘウンデウン教の信者が持っていたナイフについて何だが……」
と、そこまでいわれてようやく理解できた。というか、ここから先聞きたくないというか、予想が出来てしまった。私の反応を見てか、フィーバス卿は首を傾げる。私は気づかれないように首をもう一度横に振った。
「ど、どうぞ続けて下さい」
「そうか。それで、この間の奴らが持っていたナイフの柄に、とある家紋が刻まれていた」
「……か、家紋ですか」
「分かっているだろ」
「な、何のことだか」
「レイ公爵家の家紋だ」
答えまでがわりとシンプルだった。すぐに答えを出されてしまい、そして、やっぱりバレていたのかと、私はキュッと身が縮こまる思いをしていた。そんなにバレやすい顔していただろうか、と自分でも気になってしまう。
「お前も気づいていたんだな」
「え、ああ、まあ……はい。見えたというか。あの、フィーバス卿は、アルベドが、そのヘウンデウン教と繋がっていると踏んでいるのですか?」
私は気になって聞いた。こういう聞き方をするということは、何かあると思ったからだ。私にわざわざいってきたところを見ると、やっぱりアルベドを疑って、そして、アルベドと仲がいい私を疑っているんじゃと思ってしまう。
私がびくびくして言えば、フィーバス卿は何を言っているんだといわんばかりに肩をすくめた。
「ステラはどう思う」
「ど、どうって」
「アルベド・レイが、今回の首謀者だと思っているのかと聞いている」
「い、いえ」
「……」
「違うと思います。そもそも、アルベドは…………ヘウンデウン教のこと嫌いで」
でも、実際、グランツの国を奇襲したときに一緒にいたわけだし、繋がりがないと言われれば、ノーである。けれど、アルベドが、ヘウンデウン教の信者でも、幹部でないことも私は知っている。最も、彼が一番嫌うような連中だからこそ、アルベドは手も貸さないだろうし、いたら殺そうと、フィーバス卿と同じ考えだろう。
「そうだな。お前のいうとおりだ」
「わ、私を試したと」
「まあ、そうだな。俺も、アルベド・レイでないことをしっている」
「じゃ、じゃあ」
「十中八九、弟の方だろうな」
「ラヴィ……じゃなくて、ラヴァイン・レイですか」
私は言い間違えて訂正する。さすがに、ここと繋がっていたら、今度は私が怪しまれてしまうと思ったから。どうやら、今回は騙すことに成功したようで、でも、フィーバス卿は不思議そうに私の方を見てきた。
「ラヴァイン・レイを知っているのか」
「え、え、まあ……その、アルベドの弟なんで。有名じゃないですか」
「兄よりは、有名じゃないと思うが……はあ、まあそうだな。ラヴァイン・レイは、ヘウンデウン教の幹部だからな」
「ご存じで」
「レイ公爵が異様なのは知っているからな」
と、フィーバス卿はいって深いため息をついた。レイ公爵家が有名なのか、あの兄弟が有名なのか分からなかったが、フィーバス卿がラヴァインが幹部であることを知っている以上、いいイメージはないのだろう。
「そ、それで、ラヴァイン・レイが首謀者だったとして、ふぃ……お父様に何か問題でもあるんですか」
「いや、ないが。ステラが、今回の件について知りたい思っているだろうと、詳細を伝えに来たんだ。どう、潜り込んだかは、予想でしかないが、聞きたいか?」
「はい」
ああ、そのために来たのか、とようやく腑に落ちて、私はフィーバス卿の質問に対し、首を縦に振った。